とある日の赤騎士団長と従騎士の会話
第四幕と第五幕間あたりのエピソード
それは錬武祭を一月後に控えたある日のこと
「団長ぉ、どーするんですかぁ?」
やけに、砕けた口調の男がどう見ても主である男に間伸びた喋り方で質問した。
彼は、目の前の執務机に座る男の第一従騎士だ。
「どうするもこうするもない!探すしかないだろうがぁ!」
案の定、イラつくように額に青筋を立てて赤髪に赤髭を蓄えた壮年の男が叫んだ。
「探すっていいますが、もう帝都の職人街を全て訪ね回ったじゃないですかぁ」
やれやれ、という風に肩をすくめての従騎士の男はそう返す。
「うっ、……むぅ、い、いやまだどこかに居るはずだ!」
一瞬、言葉に詰まった団長だが、開き直ってそう声を張り上げた。
「団長ぉ?そ~んなに貴族の方々に頭を下げるのが嫌なんすか?」
溜息をつきつつ、胡乱な表情で従騎士の男は遠慮もなくそう上司に聞く。
「……」
目を泳がせる主。
(図星かよ……)
内心、深ぁい溜息をつきつつ、
「ああ、そうだ。 一つ忘れてましたよ、報告。 まぁ、まだ噂段階ですが、ほら、職人街を探した時、例の中流専門の区画の職人達が集団で居なくなってたじゃないですか。 その連中の行方がわかりましたよ。 現在、確認中ですが」
そう、助け船を出すように従騎士の男は団長にそう報告した。
「な、なぁにぃ?! 貴様!! 何故それを早く言わないのだ!」
その、報告に椅子から立ち上がり身を乗り出しながら団長は従騎士の男に詰め寄った。
「はぁ、団長ぉ? ちゃんと俺の聞いてました? まだ、噂段階の確認中だって」
従騎士の男は、体をのけぞらせながらそう興奮して迫りくる団長宥める。
「う、……な、ならばこんな所で油を売っていないで早々に噂の真相を確認してこい!」
「了解しました! じゃぁ、ちょっと言ってきます」
その命令に即座に敬礼をし、そそくさと執務室を出て行く従騎士の男。
内心で、ガッツポーズをしながら。
(よっしゃ! これでめんどくさい執務を手伝わなくて済むぜぇ!!)
まんまと、公認任務をもらい積み重なる書類の山から抜けだした赤騎士団団長の第一従騎士であった。
その事実に赤騎士団団長が気づくのは一時後の事。
気づいて歯噛みするが、後の祭りである。
2011/03/30 少し加筆修正いたしました。