怪盗紳士
「あははは! 諸君! 何をそんなに驚いているのかね? 私の程の怪盗ともなれば、事前の犯行予告など当たり前だよ! 挑発。おふざけ。愉快犯。どうとでもとってもらって構わない! 犯行予告は私の自信の現れだからな。そう、相手がどれ程警備に人を割こうとも! 警察が威信を懸けて臨もうとも! そう、たとえどんな名探偵が立ち塞がろうとも! 私の前では何の役にも立たない! そういう自負の現れだよ! おやおや。随分と驚いた顔をしているね、諸君。そんなに意外だったかな? 犯行予告通りに、私が現場に現れたことが。無理もない。普通の泥棒は、人の目を盗んでやってくるものだ。だが私は紳士だからな。怪盗の紳士だからな。盗むのは目標のものだけだ。関係のないものは、人の目すら盗まないのだよ。あははは! もちろん人も傷つけない。ましてや、部外者は巻き込まない。犯行予告を出しておけば、無関係な人間は警察が排除してくれるからな。はは! 私も一市民なのでね。警察の手を借りるは、やぶさかではないのだよ。そう、紳士たる者、言わば犯行予告は当然の礼儀。いや、たしなみなのだよ。ああ、警察や警備の人間は別だよ。私は元より怪盗なのでね。警察や警備の人間は、私にとっては不倶戴天の敵だ。遠慮はしないよ。もちろん傷つけはしないがね。無害な睡眠薬で、すやすやと眠ってもらうだけだ。紳士的にね。どんなに警備に人数がいようとも、私は構いはしないよ。たとえ犯行予告のせいで、どんなに人が増えていようともね。むしろそこは、怪盗たる私の腕の見せ所だ。そうだとも。犯行予告は、怪盗としての私の矜持の現れだ。現に私は犯行予告通りに現れた。はは! 諸君、驚いた顔をしているね! だが、諸君! 覚えておいてもらいたい! 私は泥棒ではない! 怪盗なのだよ! それもとびっきりの紳士のね! 私は怪盗の紳士だから、犯行予告通りに現場に現れた! ただそれだけだよ! 分かってもらえたかな? 諸君! あはは――」
「以上をもちまして、被告人の答弁とさせていただきます。陪審員の皆様。弁護人として言わせてもらえば、被告は事前に犯行を予告しており、この点からも情状酌量の余地が――」