表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

007_第1章(5):村長の登場

 一触即発。


 富田が再び鳶口を構え、今度こそ僕の頭蓋骨を物理的にアップデートしようとした、その時だ。



「——控えなさい」



 低く、地を這うようなしゃがれ声が響いた。


 その場の全員が、電流が走ったように直立不動になる。


 富田が慌てて頭を下げる。


 人垣が割れる。



 現れたのは、杖をついた小柄な老人だった。


 白髪に白髭。


 顔のしわは深いが、眼光だけは猛禽類のように鋭い。


 着ている羽織は古いが、仕立ては源次郎よりも上等だ。



「お爺様……」



 紗夜が小さな声で呼ぶ。


 彼が、この村の支配者。


 村長の、いわお


 巌は僕を一瞥もしなかった。


 ただ、孫娘である紗夜だけを見て、厳かに告げた。



「紗夜。その男を『客人』として認めるわけにはいかん。だが……神罰を疑う不届き者が現れた以上、白黒つけねば村の示しがつかんのも事実」


「では」


「好きにさせろ。どうせ、余所者に真実は見えん。……村の掟の重さを知るだけだ」



 巌はそれだけ言うと、踵を返しかけた。


 だが、その前に。


 老人は孫娘の方へ歩み寄り、皺だらけの手で紗夜の頬にそっと触れた。



「顔色が悪いな。……無理をするでないぞ」



 その声は、先ほどまでの威圧的な村長のものではなかった。


 ただの、孫を心配する老人の声だった。


 紗夜が小さく頷く。


 巌は満足そうに目を細め、それから僕の方を一瞥した。


 その目は言っていた。


 『余計なことをすれば、お前も消すぞ』と。


 典型的なラスボスの風格だ。


 ゾクゾクするね。



 ——だが、さっきの紗夜への仕草は何だったんだ?


 あれは演技じゃない。


 本物の、愛情だった。


 敵か味方か、まだ判断がつかない。


 厄介なタイプだ。



 村人たちが散っていく。


 遺体は「清める」という名目で運び出されていった。


 証拠隠滅に近いが、まあ画像データは確保したからいいだろう。


 残されたのは、僕と紗夜だけ。



「……レン様」



 紗夜が申し訳なさそうに眉を寄せる。



「ごめんなさい。村の人たちは、悪人ではないのです。ただ、恐れているだけで」


「知ってるよ。恐怖は知性を麻痺させる最強の麻酔だからね」



 僕は三脚を畳み、バックパックを背負い直した。


 さて、第一ラウンドは終了。


 敵(村人)の敵意はMAX。


 村長の監視付き。


 味方はゼロ。


 最高のクソゲー環境だ。



「紗夜ちゃん。君に頼みがある」


「はい? 私にできることでしたら」


「君、暇でしょ?」


「ひ、暇……? まあ、神垣の務め以外は、基本的にはお社に籠もっておりますが」


「よし、採用」



 僕は予備のスマホ(配信用サブ端末)を取り出し、彼女に放り投げた。


 紗夜は慌ててそれを両手で受け止める。


 壊れ物を扱うように、おっかなびっくり持っているのが微笑ましい。



「今日から君は、僕の助手アシスタントだ」


「じょ、助手?」


「そう。カメラ持ち兼、現地ガイド。僕一人じゃトイレの場所もわからないからね」



 というのは建前だ。


 本音は、彼女を「監視下」に置くため。


 彼女の体には、いつ「嘘の痣」が出るかわからない。


 村長の言う通りなら、彼女が次に狙われる可能性が高い。


 だったら、僕の視界カメラの中に置いておくのが一番安全だ。



「嫌なら断ってもいいけど?」


「や、やります!」



 紗夜は食い気味に答えた。


 その瞳が、キラキラと輝いている。



「私、やってみたいです! その……カガク捜査? というのを! レン様のお役に立ちたいです!」



 チョロい。


 いや、純粋すぎる。


 こんな無防備な神様が、よく今まで生きてこられたものだ。



「よし。じゃあ契約成立だ。……まずは、この村で『毒』になりそうな植物を探そうか」


「植物、ですか?」


「ああ。源次郎を殺したアレルゲン。おそらく、この村特有のものだ。心当たりは?」



 紗夜は少し考え込み、そして北の山を指差した。



「……『鬼灯ほおずき』なら。村では不吉な花とされていますが」


「鬼灯?」


「はい。『嘘吐き鬼灯』と呼ばれる、黒い実をつける花が自生しています。……触れると、皮膚が爛れると言われていますが」



 ビンゴ。


 嘘吐き鬼灯。


 なんて素敵なネーミングだ。


 いかにもミステリの小道具って感じがする。



「案内してくれ。——さあ、神殺しの第二幕(Aパート)といこうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ