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004_第1章(2):現人神との邂逅

 そこにいたのは、少女だった。


 年齢は十六か、十七か。


 黒髪は濡れたように艶やかで、腰まで届いている。


 肌は病的なまでに白く、陶器ビスクドールじみている。


 何より異質なのは、その服装だ。


 白の小袖に、緋色の袴。


 巫女装束?


 いや、それにしては飾りが多すぎるし、意匠が古い。


 まるで、博物館のガラスケースから抜け出してきたようだ。



「……驚いたな」


 僕は素直な感想を漏らした。


「この村の第一村人が、こんな美少女だとは聞いてない。演出ヤラセを疑われるレベルだ」



 少女は僕の軽口を無視して、瞬きもせずに僕の手元——通信ユニットを見つめている。


 黒曜石のような瞳が、好奇心で揺れている。



「それは、何ですか?」


「これ? 衛星アンテナだよ。宇宙にある人工衛星と通信して、電波を送る機械」


「ウチュウ……ジンコウエイセイ……」



 少女は呪文を唱えるように復唱した。


 そして、恐る恐る指先を伸ばし、アンテナの硬質なボディに触れる。


 ビクリ、と肩が震える。



「硬い……。それに、温かいです。生きているのですか?」


「電気で動いてるからね。ある意味では生きている」


「電気……雷様らいさまの力を使役しているのですね。あなたは、陰陽師様ですか?」



 本気で言っているらしい。


 その瞳に、演技の色はない。


 純粋無垢な無知。


 あるいは、徹底的に情報を遮断された培養槽タンクの中の住人。


 僕はカメラのアングルをさりげなく彼女に向けないように調整しながら(一般人を無許可で晒すのは僕の流儀に反する)、肩をすくめた。



「陰陽師じゃなくて、配信者ストリーマー。名前はレンだ。君は?」



 少女はハッとして、慌てて姿勢を正した。


 その所作の美しさは、茶道の師範代も裸足で逃げ出すレベルだ。



「無作法をいたしました。私は……紗夜さよ。この夜籠村で、『神垣かみがき』を務めております」


「カミガキ?」


「はい。神様をお慰めし、その言葉を伝える器のことです」



 神の器。


 つまり、巫女であり、依代よりしろであり、そしてDMの送り主。


 僕はポケットの中で、あの不穏なメッセージを思い出す。


 『あなたの論理で、私を殺してください』


 目の前の少女は、こんなにも儚げで、今にも消えてしまいそうなのに。


 その内側には、自殺願望にも似た殺意を飼っているわけだ。



「なるほど、紗夜ちゃんか。よろしく」


 僕はあくまで軽い調子で手を差し出した。


 握手を求めるポーズ。


 しかし、紗夜はキョトンとしている。



「? それは、何かのサインですか?」


「握手だよ。挨拶みたいなもの」


「アクシュ……」



 彼女はおずおずと自分の手を差し出し、僕の手のひらに乗せた。


 冷たい。


 氷のように冷え切っているのに、指先だけが熱を帯びている。


 そして、あまりにも柔らかい。


 骨がないんじゃないかと錯覚するほどだ。



 その時、コメント欄が加速した。



『おいおいレン、女の子かよ』


『声聞こえたけどめっちゃ可愛くない?』


『手! 手が映ってる! 白い!』


『ナンパ配信始まったな』


『通報しました』



 僕は苦笑しながら、握った手を離した。


 これ以上触れていると、僕の中の「理性的な観察者」としてのスタンスが揺らぎそうだったからだ。


 彼女には、人を惑わす磁場のようなものがある。



「それで、レン様」


 紗夜が一歩、僕に近づく。


 その顔が、急に真剣なものになる。


 さっきまでの好奇心は消え、そこには「神垣」としての威厳すら漂っていた。



「ここへは何をしにいらしたのですか? 観光でないことは、その奇妙な道具を見ればわかります」


「何に見える?」


「……『はらい』に来たのでしょう?」



 彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。



「あなたは、この村の嘘を暴きに来た。——私の願い通りに」



 ゾクリ、と背筋が震えた。


 勘がいい。


 あるいは、最初から僕が来ることを確信していたのか。


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