002_序章(後編):嘘をつくと死ぬ村
撤収作業を終え、最寄りのファミレスで遅すぎる夕食(ドリンクバーと山盛りポテト)を摂取していた時だ。
スマホが震えた。
配信用のSNSアカウントに届いた、一通のダイレクトメッセージ(DM)。
普段なら、アンチからの罵倒か、案件の依頼以外はスルーするのだけれど。
その通知のプレビューに表示された文言が、僕の指を止めさせた。
『初めまして、レン様。
私の村の神様は本物です。嘘をつくと、死にます。
あなたのその論理で、どうか私を殺してください』
「……は?」
思わず声が出た。
殺してくれ、だって?
依頼人は『Y村のサヨ』と名乗っていた。
添付されている画像が一枚。
薄暗い和室の中に、日本人形のように整った顔立ちの少女が座っている。
ただ、異様なのは——彼女の首筋から鎖骨にかけて、墨汁をぶちまけたような、どす黒い「痣」が浮き出ていることだった。
メイク?
CG?
いや、画像の解像度を拡大して解析する。
ノイズの乗り方、光の反射率。
加工された痕跡はない。
何より、その少女の瞳。
諦めと、微かな挑発を含んだその目が、僕を射抜いていた。
「……嘘をつくと死ぬ村、ね」
僕はポテトをつまむ手を止めた。
Y村。
地図アプリで検索する。
ヒットしない。
国土地理院の古地図データにアクセスする。
……あった。
四国の山奥。
ダム建設の計画が頓挫し、半世紀前から「廃村扱い」になっている集落。
名前は、夜籠村。
「電波は……圏外か」
論理的じゃない。
現代日本に、嘘をつくだけで人が死ぬ場所なんてあるわけがない。
だからこれは、間違いなく人間の仕業だ。
でも。
もし本当に、僕の言葉でしか殺せない「神様」がいるとしたら?
僕はニヤリと唇を歪めた。
自分でもわかる、嫌な笑顔だ。
退屈な日常に、劇薬が投下された音がした。
「——上等だ。ネタ切れで困っていたところなんだよ」
僕はスマホを操作し、相棒のドローンと、大容量のポータブル電源、そして衛星通信アンテナの配送手続きを済ませた。
行き先は、地図にない村。
待っていろ、神様。
その神秘の皮を剥いで、白日の下に晒してやる。




