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Sky Runners  作者: SKY
9/32

チーム『Rusty Hawk』誕生


翌日、三人が工場に来ると、じいちゃんが珍しく笑顔で迎えた。


「今日から、本格的な訓練を始めるぞ」


「本格的な?」


遼が首をかしげると、じいちゃんは頷いた。


「次のレースまで十日。Rusty Hawkの真の性能を引き出すための特訓だ」


迅の目が輝いた。


「僕も参加できますか?」


「もちろんだ。整備士も、機体の性能を完全に理解していないとな」


結衣も手を上げた。


「私も!」


「結衣は体調管理とデータ記録を頼む。訓練は想像以上にハードになる」


遼は拳を握った。


「よし、やるぞ!」


じいちゃんが宣言した「本格的な訓練」は、思った以上に本格的だった。

朝の6時、工場に集合。まずは学校に行く前に基礎体力作りから始まる。


「SKYCARのパイロットには体力が必要だ。高Gに耐える筋力、長時間の集中力を保つ持久力」


じいちゃんの指導の下、三人は工場の外を走り回った。


「はぁ、はぁ」


迅が一番最初に息を切らした。普段は机に向かってばかりで、運動不足が祟っている。


「迅、大丈夫?」


結衣が心配そうに振り返ると、迅は必死に手を振った。


「だ、大丈夫です。整備士も、体力必要ですから」


遼だけは余裕の表情で走っている。


「気持ちいいな、朝の空気」


「お前は化け物か」


迅が息も絶え絶えに呟いた。

30分のランニングを終えると、今度は筋力トレーニング。腕立て伏せ、腹筋、スクワット。結衣も一緒にメニューをこなしていく。


「私もサポートするなら、体力つけなきゃ」


彼女の意気込みは本物だった。

体力作りが終わると、今度は座学。AIアシストシステムの仕組みを理解するための勉強会だった。


「このシステムは、パイロットの操縦パターンを学習する」


じいちゃんが黒板に図を描きながら説明した。


「例えば、遼が右旋回を始めようとする瞬間の筋肉の動き、視線の移動。そういった微細な変化を読み取って、機体が先回りして調整を始める」


迅が手を上げた。


「それって、パイロットの操縦を勝手に変更するってことですか?」


「いや、あくまで補助だ。遼の意図を正確に実現するための手助けをするだけ」

遼は少し不安そうに聞いた。


「俺の操縦が下手だから、機械が直してくれてるってこと?」


「違う」


じいちゃんは首を振った。


「お前の操縦は素晴らしい。システムはそれをより正確に、より安全に実現してるだけだ」


結衣がノートにメモを取りながら呟いた。


「遼とRusty Hawkの息がぴったり合ってるのは、そういう理由だったんだ」


「パートナーシップってやつだな」


じいちゃんが微笑んだ。


「機械と人間が理解し合う。それが理想的な関係だ」


学校が終わると実際の飛行訓練。といっても、まだ本格的なレース練習ではない。基本的な操縦技術の確認から始める。


「まずは基本の直線飛行から」


じいちゃんが無線で指示を出す。遼はRusty Hawkのコックピットで頷いた。


「了解」


機体が静かに浮上し、工場の上空を水平に飛んでいく。地上では迅と結衣が見上げている。


「綺麗な飛行ライン」

迅が感心したように呟く。教科書で見た理想的な軌道そのものだった。


「次は旋回だ。左に90度」


Rusty Hawkがゆるやかな弧を描いて向きを変える。AIアシストシステムが微調整を行い、完璧な円弧になっていく。


「すごい!機械と人間が一体になってる」


結衣も目を輝かせた。

無線から遼の声が聞こえてくる。


「気持ちいい!Rusty Hawkと話してるみたい」


じいちゃんが微笑んだ。


「機体とパイロットの理想的な関係だな」


一時間の飛行訓練を終えて着陸すると、遼は満面の笑顔だった。


「やっぱり飛んでる時が一番楽しい」


迅は整備データを確認しながら言った。


「エンジン負荷、燃料消費、すべて理想値です。このシステム、本当にすごい」


じいちゃんが迅の肩を叩いた。


「だが、システムに頼りすぎるな。最後は人間の感覚が勝負を決める」


「分かってる。機械は機械、俺は俺」


迅の答えに、じいちゃんは満足そうに頷いた。

夕方、作業を終えた四人は工場の外のベンチに座っていた。


「今日は疲れました」


迅がぐったりと背もたれに寄りかかる。


「でも充実してた」


結衣が微笑んだ。


「私も勉強になった。パイロットの体調管理、思った以上に大変」


遼はRusty Hawkを振り返った。


「この子ともっと仲良くなれそう」


じいちゃんが三人を見回して言った。


「よし、これで正式にチームを名乗ってもいいだろう」


「チーム名はもう決まってますよね」


結衣が笑った。


「チーム『Rusty Hawk』」


三人の声が重なった。


「じゃあ、記念撮影でもするか」


じいちゃんがスマホを取り出すと、四人はRusty Hawkの前に並んだ。


「はい、チーズ」


シャッター音と共に、チーム『Rusty Hawk』の公式写真が撮影された。

その夜、結衣は自分の部屋でその写真を見つめていた。


「みんな、いい笑顔」


写真をプリントして、手作りのアルバムに貼る。1ページ目には「チーム結成記念」と書き込んだ。

一方、迅は机に向かってAIシステムのメモを整理していた。


「まだまだ理解できてない部分がある」


教科書を広げ、今日学んだことを復習する。遼をもっと上手にサポートするために。

遼は窓から夜空を見上げていた。


「明日も飛べるかな」


空への憧れは日に日に強くなっていく。Rusty Hawkと一緒なら、どこまでも飛んでいけそうな気がした。

工場では、じいちゃんがRusty Hawkの最終点検をしていた。


「今日は上手に飛んだな」


機体に語りかけるように呟く。


「あの子たちと一緒なら、きっと遠くまで行けるぞ」


AIシステムのディスプレイに、今日のフライトデータが表示されている。遼の操縦パターンが少しずつ学習され、蓄積されていく。


「成長してるな」


データを見ながら満足そうに頷いた。

工場の電気を消し、シャッターを閉める。明日もまた、四人と一機の挑戦が続く。

チーム『Rusty Hawk』の物語は、確かな絆と共に動き出していた。古い機体を中心に結ばれた、新しい家族のような関係。彼らの前に広がる空は、無限の可能性に満ちていた。

次のレースまで、あと九日。



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