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Sky Runners  作者: SKY
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空への誓い


Rusty Hawkと出会った翌日、遼は朝早くから工場にやって来た。昨夜は興奮してなかなか眠れなかった。自分の機体を持てるという現実が、まだ夢のようだった。


「おはよう、じいちゃん!」


元気な声で挨拶をすると、じいちゃんは既に作業着を着て待っていた。


「早いな。そんなに嬉しいか?」


「当たり前だよ! 俺、一生の相棒に出会えたんだから」


その素直な喜びに、じいちゃんの表情も緩んだ。


「なら、ちゃんと付き合い方を教えてやろう」


格納庫で、じいちゃんはRusty Hawkの隅々まで説明してくれた。エンジンの特性、操縦系統の癖、メンテナンスのポイント。古い機体だからこそ必要な知識を、丁寧に教えてくれる。


「この子はな、速さじゃ最新機に敵わない。でも、操縦する者と心を通わせる。そういう機体なんだ」


「心を通わせる?」


「ああ。機械だが、魂がある。お前が楽しく飛べば、この子も楽しくなる。お前が悲しければ、この子も悲しむ」


その話は、遼の心に深く響いた。単なる移動手段ではなく、本当のパートナーなのだ。


「速さなんぞ、どうでもいいんだ」


じいちゃんが静かに言った。


「お前が楽しけりゃ、それが一番だ。勝つために走るんじゃない。空を駆けること自体が、何よりの喜びなんだ」


その言葉は、遼の価値観に完全に合致していた。彼もそう思っていたのだ。レースは楽しむもの。勝敗より、空を駆ける喜びの方が大切。


「うん!俺、分かる気がする。さっきRusty Hawkを見たとき、なんだか"一緒に走ろう"って言ってるみたいな気がした!」


じいちゃんは微笑んだ。


「なら大丈夫だ。お前なら、この子と一緒に素晴らしい空を飛べる」


昼過ぎ、じいちゃんに促され、遼はついにRusty Hawkのコックピットに足を踏み入れた。


「すげぇ」


内部は古びていたが、計器やレバーはきちんと整備されている。古いアナログメーターに混じって、後付けのデジタルパネルも並んでいた。まるで時代を超えて生き続けてきた証のようだった。

シートに腰を下ろすと、背中に機体の温もりが伝わる。不思議な感覚だった。まるで生き物に触れているような。


「本当に、ここに座っていいの?」


「もちろんだ。今日からお前の相棒だからな」


操縦桿に手を添えた瞬間、遼の胸が高鳴った。指先から心臓へ、そして全身へと何かが流れ込む感覚。これがRusty Hawkとの初めての触れ合いだった。


「すげぇ。なんか……生きてるみたいだ」


じいちゃんは静かにうなずいた。


「この子はな、ただの機械じゃない。走りを楽しむ者にだけ応えてくれる。だから大切にしろ」


遼は真剣に答えた。


「うん! 絶対に大事にする!」


夕方、工場の扉を開けると、夕日が赤く沈みかけていた。空全体が茜色に染まり、工場の影が長く伸びる。

じいちゃんと遼は並んでRusty Hawkを見つめた。夕日に照らされた機体は、昼間より一層美しく見えた。

しばらくの間、言葉はなかった。ただ静かに風が吹き抜け、機体の外装を撫でていく。

やがてじいちゃんが口を開いた。


「世代を超えて、こうして同じ空を目指すとはな」


その言葉には、深い感慨が込められていた。自分の青春時代と、遼の未来が重なって見えるのだろう。

遼は横顔を見上げ、笑った。


「俺、いつかこの機体で世界一周したいな。だって空を走るって、きっとどこまでも楽しいから」


 じいちゃんは笑みを浮かべながらも、どこか遠い目をしていた。


「……いい夢だ。きっと叶うさ」


その声には、確信と同時に、何かを手放した者の寂しさも混じっていた。

その晩、遼は一人でRusty Hawkの前に立った。格納庫の明かりの下で、機体は静かに佇んでいる。

両手をコックピットに置いて、遼は小さく呟いた。


「よろしくな、相棒」


その言葉は、単なる宣言ではなかった。心からの誓いであり、少年が大空へと踏み出すための第一歩だった。

明日から、本格的な練習が始まる。Rusty Hawkの操縦方法を覚え、機体との絆を深めていく。そしていつか、大空を駆け抜ける日が来る。


「俺たち、きっと最高のコンビになるよ」


遼の声に答えるように、工場の外で風が唸った。まるでRusty Hawkが「ああ、楽しみだ」と言っているかのように。

格納庫の明かりが落とされ、闇の中でRusty Hawkは静かに眠りにつく。だが遼の胸の中では、確かにエンジンの鼓動が鳴り続けていた。

こうして、少年と機体の物語は新たな段階を迎えた。空はもう憧れではない。これからは相棒と共に駆け抜ける舞台なのだ。

翌朝、遼が工場に向かう時、空には朝のSKYCARが飛び交っていた。通勤ラッシュの機体たちを見上げながら、遼は心の中で誓った。


「いつかあの空を、Rusty Hawkと一緒に駆けてみせる」


そして、その夢は現実となる。Sky Driftの誕生まで、もうすぐだった。



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