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Sky Runners  作者: SKY
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じいちゃんとの出会い


免許を手にしてから数日後、遼は町外れにある古びた工場の前に立っていた。夕暮れの空が赤く染まり、建物のトタン屋根も同じ色に照らされている。「鷹山鉄工所」と書かれた看板は色あせているが、まだしっかりと文字を読むことができた。


金属の匂いと、遠くから響く機械の低い唸り声が工場の存在を際立たせていた。この工場の主こそが、遼が「じいちゃん」と呼ぶ鷹山太郎。近所では頑固だが腕の良い職人として知られている。


「ただいま!」


錆びついた引き戸を開けると、油の匂いが一層濃くなる。中では、じいちゃんが溶接面を外し、煙を立てる作業台の前から振り返った。72歳になるが、その背中はまだまだ現役の職人だった。


「じいちゃん!免許取ったよ!!」


「免許取ったのか」


その声はいつも通りぶっきらぼうだが、どこか嬉しそうでもあった。遼のことを本当の孫のように可愛がっているのは、近所の人なら誰でも知っている。


「うん! これで俺も空を走れるよ!」


遼が胸を張って免許証を掲げると、じいちゃんはふっと目を細めた。その表情には、誇らしさと同時に、何か複雑な感情も混じっていた。


「そうか。じゃあ、見せたいものがある」


じいちゃんに促され、工場の奥へと進む。普段は立ち入らない場所だった。薄暗い格納庫の中、大きな布で覆われたシルエットが佇んでいた。

何だろう、と遼は首をかしげる。大きさからして、かなり大型の機械のようだが。


「遼、お前は空を走りたいと言ったな」


「うん!」


「なら、この子と一緒なら、きっと楽しいレースができるはずだ」


じいちゃんが布を掴んで一気に引き払う。

そこに現れたのは、赤錆びた外装に補修の跡が目立つ一機のSKYCAR。古い機体だが、その姿は不思議と力強さと存在感を放っていた。まるで長い眠りから目覚めた古い戦士のように。


「うわぁ! かっこいい!」


遼は思わず駆け寄り、機体の表面を撫でた。古さの中にある渋さ、どこか魂を宿したような風格。それは最新機の美しさとは全く異なる魅力を持っていた。


「こいつの名はRusty Hawk」


じいちゃんの声は静かだが、誇りに満ちていた。その名前を口にする時の表情には、深い愛情が込められていた。


「Rusty Hawk」


遼はその名を呟き、何度も口の中で転がした。錆びた鷹。なんて素敵な名前だろう。機体の赤茶けた外装も、この名前なら誇らしく思える。


「じいちゃん、これって」


「昔、俺が乗っていた機体だ」


その言葉に、遼は目を丸くした。じいちゃんがSKYCARに乗っていた? 想像もしたことがなかった。

格納庫の壁には、古びた写真やトロフィーが並んでいた。若い頃の男がSKYCARに乗って笑っている写真。その横に飾られた銀色のカップや、色あせた新聞の切り抜き。


「天才レーサー・鷹山太郎」

「楽しむ走りで観客を魅了」


といった見出しが読める。


「昔の人?」


 遼が写真の男性を指差すと、じいちゃんは曖昧に笑った。


「まあな、古い話だ」


それ以上は語らない。だが遼には十分だった。この若い男性がじいちゃんで、そしてこのRusty Hawkには単なる機械以上の歴史が宿っている。そう感じられた。

トロフィーの中には「ブロンズリーグ優勝」「シルバーリーグ準優勝」と刻まれたものもある。じいちゃんは、かなりすごいレーサーだったのだろう。


「じいちゃん、どうしてレースを辞めたの?」


「色々あったんだ。でも後悔はしていない」


その表情には、遠い日への想いが浮かんでいた。青春時代の輝きと、それを手放した理由。きっと深い事情があるのだろう。

しばらく写真を眺めていると、じいちゃんがRusty Hawkの機体に手を置いて言った。


「この子を頼む」


その言葉に、遼は驚いて振り返った。


「えっ、でもこんな大事な機体、俺なんかに?」


「お前になら任せられる」


その言葉には、揺るぎない確信があった。じいちゃんの瞳を見つめると、そこには深い信頼の光があった。

遼の胸は高鳴った。自分の夢と憧れが、今まさに現実となろうとしている。でも同時に、大きな責任も感じていた。


「うん! 俺、絶対に大切にする!」


その瞬間、少年と古びた機体の間に確かな絆が結ばれた。Rusty Hawkはもう「じいちゃんの機体」ではない。これからは「遼の相棒」として空を駆けるのだ。


「ありがとう、じいちゃん。俺、この機体と一緒にがんばる!」


遼の純粋な感謝の言葉に、じいちゃんは静かに微笑んだ。


「ああ、きっと楽しいレースができるぞ」


その夜、工場の外に出ると、空には星が瞬いていた。Rusty Hawkの影が格納庫の窓越しに見える。

遼は小さく呟いた。


「よろしくな、相棒」


風が頬を撫で、どこかで機械の余熱がまだ残っているような匂いが漂った。新たな冒険が始まる予感に、胸が躍った。


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