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Sky Runners  作者: SKY
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第1章 第2話「免許取得とRusty Hawk譲渡」夢の始まり(3ヶ月前の回想)


今から三ヶ月前の出来事を、遼は鮮明に思い出していた。

その日は春の陽射しが暖かく、桜の花びらが舞い散る中を歩いていた。目的地は郊外に建てられた「SKYCAR免許取得センター」。巨大なガラス張りの建物は、近未来的な光沢を放ち、まるで宇宙船のようだった。

建物の前に立った瞬間、遼の心臓は高鳴った。入り口のエントランスには、色とりどりのSKYCARが展示されている。翼を持たない流線形の機体は、どれも芸術作品のような美しさを誇っていた。赤いスポーツタイプ、シルバーの高級機、そして実用的なファミリータイプまで。


「うわぁぁ全部、空を飛ぶんだよな」


展示機の前で立ち尽くす遼。12歳の少年にとって、それらは夢そのものの具現化だった。ガラス越しに見える操縦席、洗練された計器類、流麗なボディライン。全てが彼の憧れを掻き立てる。

足取りは自然と早まった。今日という日のために、どれだけ待っていただろう。両親を説得し、お小遣いを貯め、勉強にも励んだ。全ては、この瞬間のために。


センターの内部は想像以上に広く、天井が高かった。免許取得を目指す若者たちが列を作っているが、遼のように幼い少年は他にいない。大人たちの視線が集まるのを感じながらも、遼の表情は真剣そのものだった。


「空を走るって、どんな気持ちなんだろう」


胸の奥で何度もその言葉を繰り返す。憧れが現実に変わる瞬間。それが今日なのだ。

受付の女性が優しく微笑んだ。


「あら、若い受験生ね。頑張って」


その言葉に背中を押され、遼は受付手続きを済ませた。書類に記入する時の手が少し震えていたが、それは緊張よりも期待からだった。

最初に案内されたのは、体験飛行シミュレーションルーム。白いパネルで囲まれたドームの中央に、練習用のSKYCARが設置されている。座席に座った瞬間、遼の指先が震えた。これが初めて操縦桿を握る瞬間。


「緊張してるか?」


インストラクターが笑いながら声をかける。40代くらいの男性で、パイロットとしての風格を感じさせた。


「い、いえ! でも、ちょっとだけ」


正直な答えに、インストラクターは好感を持った様子だった。


「最初は誰でもそうだ。でも大丈夫、ゆっくり慣れていけばいい」


シートベルトを締め、操縦桿を握る。スクリーンが起動し、目の前に空が広がった瞬間、遼は息を呑んだ。まるで本当に空の上にいるような錯覚。地上の景色が遥か下に見え、雲が手に届きそうな距離に浮かんでいる。


エンジンの振動が足元から伝わり、音と揺れが全身を包み込む。これがSKYCARの感覚。これが空を駆ける感覚。


「それじゃあ、ゆっくりスロットルを上げてみろ」


指示に従い、スロットルを押し込む。機体が地面を離れ、浮遊する感覚が体を包んだ。足元の景色が一気に遠ざかり、高度が上がっていく。


「わ! 本当に浮いた!」


初めて空を掴んだ瞬間。遼の口元は自然と笑みに変わった。これだ。これが彼の求めていた感覚だった。


「おいおい、初めてなのに、君、なかなか筋がいいな」


インストラクターが驚いたように言った。普通なら緊張で体が硬くなるものだが、遼は自然に機体を操っている。まるで生まれながらのパイロットのように。

遼は照れくさそうに頬をかいた。だが心の中では確信していた。


「俺、やっぱり空を走るのが好きなんだ」


その後の練習でも、遼の上達は目覚ましかった。旋回、上昇、下降。基本的な操作を次々とマスターしていく。インストラクターも感心するほどの飲み込みの速さだった。


「君、本当に初心者か? まるで何度も乗ったことがあるみたいだ」


「でも本当に初めてです。ただ、なんだか体が覚えてるみたいで」


そんな会話を交わしながら、練習は続いた。時間が経つのも忘れるほど、遼は夢中になっていた。



数週間後、筆記試験と実技試験の日が訪れた。

筆記は交通ルールや安全規則に関する問題。遼は意外なほど落ち着いてペンを進め、合格圏の点数を叩き出した。勉強の成果が実を結んだ瞬間だった。

そして迎えた実技試験。コースに並んだ練習用のSKYCARに乗り込み、深呼吸をする。観客席には見守る人影はほとんどいないが、遼にとっては世界で最も重要な舞台に思えた。


「よし、行くぞ!」


エンジンが唸りを上げ、機体が舞い上がる。風が頬を打ち、視界が開けていく。練習の成果を発揮する時が来た。

ゲートを次々に通過し、急旋回を決める。体が自然に機体の動きと同調していく。緊張はもうない。あるのは純粋な楽しさだけだった。

試験官が驚きの声を上げる。


「信じられん、まるで何年も乗っているかのようだ」


遼にとって、それは当然のことだった。空を駆けることが、これほど自然に感じられるとは思わなかった。まるで生まれる前から知っていたかのように。


気づけば試験は終わり、結果は当然のように「合格」。免許証を手にした瞬間、遼は胸を張って叫んだ。


「やった、やった! 俺もこれで、空を走れる!」


その喜びは、今でも鮮明に覚えている。夢への第一歩を踏み出した、記念すべき日だった。


帰り道、夜の街を歩きながら遼は何度も免許証を見返した。手の中にある小さなカード。それはただのプラスチック板ではなく、夢への扉の鍵だった。

街灯の下でカードを見つめながら、遼は心の中で誓った。


「いつか、自分の機体で飛んでみたい……」


胸の奥から、熱い思いがこみ上げてくる。それは幼い憧れではなく、確かな決意だった。

空を見上げると、夜空にはSKYCARの航行灯が瞬いていた。いつかあの空を、自分の機体で駆け抜けたい。その想いが、遼の心を強く揺さぶった。

この時の思いが、後にRusty Hawkと出会い、そして「Sky Drift」誕生へと繋がっていく。少年の物語は、まだ始まったばかりだった。


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