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Sky Runners  作者: SKY
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名声と責任の重み


翌日、工場の片隅で臨時の記者会見が開かれることになった。

地元テレビ局だけでなく、全国ネットのメディアや雑誌記者まで押し寄せている。

工場の作業スペースが急遽会場に変わり、普段は機械油の匂いが漂う空間に、カメラの列とフラッシュの光が満ちていた。


「Rusty Hawkは"奇跡の機体"です! その裏にある整備哲学をぜひ教えてください」

「スポンサー契約の話ですが、全国展開のCMキャラクターとして起用したいという申し出が」

「テレビ番組への出演依頼も多数来ております」


押し寄せるメディアと企業担当者の声が飛び交い、工場の空気は昨日の歓声とは別種の、商業的な熱に包まれていた。


遼は少し圧倒されながらも、できる限り丁寧に答えようとしている。

迅は淡々と技術的な質問に応じていた。

「重量増加になる発光キットは不要です。機体の基本性能を損なう装飾は受け入れられません」

「ロゴの独占権については、検討が必要です。Rusty Hawkは私たちだけのものではありませんから」

「提示していただいた条件を持ち帰り、チームで十分検討してから回答いたします」

迅の対応は冷静だったが、内心では複雑な思いを抱えていた。


確かに資金は必要だ。

より良い整備環境、上級リーグで戦うための設備投資。

でも、それと引き換えに失うものもあるはずだ。


結衣は必死にスケジュール帳を開き、次から次へと入る依頼を整理していた。

テレビ出演、雑誌取材、イベント参加、商品監修。


一週間の予定表があっという間に埋まっていく。


「記者会見は午後一本まで、スポンサー面談は来週以降に。遼の体調と学校を最優先にします」

結衣の声には、マネージャーとしての責任感がにじんでいた。

遼を守らなければという使命感が、彼女を大人びさせている。


そして、記者の一人が遼にマイクを向けた。

「水城選手、勝利の秘訣を教えてください」

遼は少し考え、いつもの屈託のない笑顔で答えた。


「楽しく飛んだからです」

記者たちがどよめき、カメラのフラッシュが一斉に光る。

あまりにもシンプルで、それゆえに印象的な答えだった。


「もう少し具体的に聞かせてください」

別の記者が続ける。


「えーっと、Rusty Hawkと一緒に空にいると、とても楽しいんです。だから自然に体が動いて、気がついたらああなってました」

会見後、迅が数通の封筒を机に並べた。


各企業からの正式なオファーが届いている。


『広告出演契約:全国放送・年間契約、ただし編集権は発注側に帰属』

『装備提供契約:最新パーツ無償提供、ただし機体への企業ロゴ表示義務あり』

『番組レギュラー出演:台本事前提供、自由発言は制限』


迅は一通り目を通して、肩をすくめた。

「やっぱり、見せ方を縛るものばかりだな」

結衣は眉をひそめた。

「でも、断れば資金面で厳しくなるよね。シルバーリーグに上がるには、もっとお金が必要なのはわかるけど」


確かに上位リーグでは、参加費も整備費も桁違いになる。

Rusty Hawkをより良い状態で維持するには、スポンサーの支援は欠かせない。

でも、それと引き換えに自由を失うのは本末転倒ではないか。


遼は机の上の書類を見つめ、そしてRusty Hawkを振り返った。

薄暗い工場の中で、愛機は静かに佇んでいる。

古い機体だが、昨夜は確かに奇跡を起こした。

その奇跡は、スポンサーロゴや決められた台詞から生まれたものではない。


「俺たちは"楽しむ"ために飛んでる。楽しめなくなる契約なら、いらないよ」

遼の言葉は静かだったが、確信に満ちていた。


迅と結衣は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。

「だな」

「やっぱり遼らしい」


午後、遼は制服に着替えて学校に戻った。

教室の扉を開けると、クラスメイトたちが一斉に立ち上がり、拍手と歓声で迎えてくれる。


「おお、チャンピオンのお帰りだ!」

「ラスティ、マジすげぇ!」

「"楽しいが最速"ってマジで言ったの? 全国ニュースで流れてたぞ!」

遼は耳を赤くしながら、照れて答えた。


「うん、だって本当のことだし」

担任の田中先生も苦笑しながら教壇に立つ。


「はいはい、今日は特別授業ということで、水城、ちょっと前で話してくれないか?」

前に立たされた遼は、黒板を背にしてクラスメイトたちの視線を受け止めた。三十人近い同級生の視線が、昨日までとは少し違って感じられる。


尊敬と興味が混じった眼差し。

「えっと俺、ただ飛んでただけなんだ。Rusty Hawkっていう古い機体と一緒に」

クラスに笑いが広がる。


謙遜しているつもりはないのに、その素直さが逆に印象的だった。

「でも、直線じゃAurora-9に絶対勝てなかった。だから壁際とか、変な場所とか、楽しいことを探しながら飛んだんだ」


しばし沈黙が落ち、遼は少し照れながら続けた。

「だから俺が学んだのは"楽しいが最速"ってこと。勉強も、部活も、たぶん同じなんだと思う。楽しんでやったほうが、結果的に上手くいく」


教室が一瞬静まり、やがて拍手が広がった。

哲学的で深い言葉ではないが、十二歳の少年が経験から学んだ真実として、みんなの心に響いた。


「Rusty!」

「Hawk!」


誰かが冗談めかしてコールを始め、教室は笑いと歓声で包まれた。

担任の田中先生も苦笑しながら手を叩いている。


授業が再開し、遼はノートに数式を書き込んでいた。

いつものように数学の問題に向き合う。隣の席の友人が小声で囁いた。


「お前、世界のトップトレンドにいたんだぞ。なのにここで方程式やってるの、なんか変だな」


遼はペンを止めて笑った。

「でも、こういう日常も楽しいんだよ」


窓の外では、遠くにRusty Hawkを模した手作りの旗を振る子どもたちの姿が見えた。

決勝の熱狂は街全体でまだ続いている。


でも遼にとって、この教室での平凡な時間こそ、次の空へつながる大切な日常だった。


放課後、遼は一人で工場に戻った。

迅と結衣はまだ学校で部活があるため、珍しく一人きりの時間ができた。


工場の中は静かで、Rusty Hawkだけが待っていてくれる。

機体に近づき、手のひらを機体の側面に当てる。

金属の冷たい感触。

でもそこには、確実に生命力のような温かさがあった。


「疲れたかい、相棒」

返事は当然ない。


でも遼には、Rusty Hawkが小さく頷いたような気がした。



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