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Sky Runners  作者: SKY
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第13話:決勝後、それぞれの想い 朝の街、余韻と静寂


決勝の熱狂から一夜明け、メトロシティは不思議な静けさに包まれていた。

昨夜あれほど喧騒に満ちていた街路も、今朝は露店の提灯が外され、歩道に紙吹雪がまだ散らばっている。

清掃車がゆっくりと通り過ぎ、祭りの残骸を静かに回収していく。


遼はホテルの窓からそれを見下ろし、ゆっくりと息をついた。

十二階の窓から見える街は、まるで巨大な劇場の舞台が片付けられた後のようだった。

昨夜は光と歓声で埋め尽くされていた空間が、今は朝靄に霞んで見える。


「夢じゃないよな」


机の上には、新聞の号外が何部も重なって置かれていた。


『Hawk Miracle! 旧式機が決勝を制す』


の文字が躍る一面には、夜空を駆け抜けるRusty Hawkの美しい軌跡と、表彰台で満面の笑みを浮かべる自分の写真が大きく掲載されている。


隣のベッドでは迅がまだ眠りこけていた。

昨夜の興奮で眠れなかったのか、明け方近くまでスマホで反響を確認していたのを遼は覚えている。

結衣も向かいのベッドで寝息を立てている。

彼女のスマホは充電切れで電源が落ちていたが、きっと朝起きたらまた大変なことになっているだろう。


遼は窓際の椅子に座り直し、改めて街を眺めた。

昨日までの自分と今日からの自分。

何かが変わったような、でも何も変わっていないような、不思議な感覚だった。


工場に帰りたい、と遼は思った。

あの油の匂いと、Rusty Hawkの温かい機体に触れたい。

いつもの日常に戻って、この現実をゆっくりと理解したかった。


朝食の時間になって、迅と結衣がようやく起き出してきた。

三人でホテルのレストランに向かう途中、廊下ですれ違う他の宿泊客たちが遼を見つめる視線を感じる。


中には

「おめでとう」

と声をかけてくれる人もいて、遼は照れながらお辞儀をした。


「まだ実感湧かないね」

と結衣がオレンジジュースを飲みながら呟いた。


「本当に優勝したんだって」

迅はトーストにジャムを塗りながら、

「俺の胃はまだ痛い」と苦笑いを浮かべる。


「あの最後のHawk Miracle、心臓止まるかと思った」

「でも楽しかったよね」

遼は素直に言った。


「みんなが一緒で、Rusty Hawkも頑張ってくれて」

その言葉に、迅と結衣は顔を見合わせて笑った。


遼は変わっていない。


昨夜奇跡を起こした天才パイロットも、今朝は普通の十二歳の少年に戻っている。

工場へ戻るトラックの中で、結衣はスマホを握りしめ、SNSのタイムラインをスクロールしていた。

充電が復活した端末には、何千、何万という通知が溜まっている。


『#楽しいが最速』

『#HawkMiracle』


はまだ世界のトップトレンドに居座り、各国の言葉で書かれたコメントが流れ続けている。


「見て、世界中がRusty Hawkのこと話してるよ!」

結衣の声は興奮で弾んでいる。


「フランス語のコメントもある。『美しい飛行』って書いてあるみたい」

遼は窓の外を見ながら、どこか不思議そうに笑った。


田園風景が流れていく。

いつもの見慣れた景色なのに、今日は少し違って見える。


「俺たち、そんなすごいことしたのかな?」

「したんだよ!」

結衣が強く言う。


「Aurora-9を抜いて優勝なんて、普通じゃできない」

迅は溜め息をついた。


「奇跡って言葉は好きじゃないが、確かに数字だけ見れば不可能を覆した。だが一番すごいのは、最後まで笑ってたお前だ」

「そうかな?」

遼は照れくさそうに頬を掻いた。


自分では普通に飛んでいただけのつもりだった。

確かに最後は必死だったけれど、それでもどこかで楽しんでいた。

Rusty Hawkと一緒に空を駆けることの純粋な喜びを感じていた。


工場が見えてきた。

いつもの古い建物、いつもの錆びた看板。

でも今日は何台かの車が停まっていて、人の気配がする。


「あ、お疲れさまでした!」

工場の前で地元のテレビ局のクルーが待ち受けていた。

カメラを構えたスタッフと、マイクを持ったレポーターが駆け寄ってくる。


「優勝の感想を一言!」

「次の目標は?」

質問が飛び交う中、遼は困ったように笑った。


「えーっと、楽しかったです」

シンプルすぎる答えに、レポーターは戸惑いながらも笑顔を作る。

「もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」

「Rusty Hawkと一緒に飛べて、とても楽しかった。それだけです」

その純粋さが逆に新鮮で、カメラマンは嬉しそうにレンズを向けた。


工場のシャッターを開けると、Rusty Hawkがそこにいた。

昨夜のライトに照らされた輝きは消え、油の匂いと埃に包まれたいつもの姿。

でも遼の目には、それが一番美しく見えた。


「ただいま、相棒」

遼が機体に手を置くと、金属の冷たさが手のひらに伝わってくる。

でもその下には、まだエンジンの余熱が残っているような温かさがあった。


結衣も笑って頷いた。

「みんなのおかげで"奇跡"って呼ばれたんだよ」


迅は整備用の工具を手に取りながら呟く。

「奇跡じゃない。準備と覚悟と、最後に遊び心を入れる勇気だ」


午後になると、工場に地元の人々が次々と顔を出した。

商店街のおじさんがRusty Hawkを模した鷹饅頭を差し入れに持参し、子どもたちは手作りの応援旗を振りながら訪れた。

中には夜中まで起きてレースを見守っていた家族連れもいて、興奮冷めやらぬ様子で話しかけてくる。


「ラスティ、かっこよかった!」

「俺、将来パイロットになる!」

「お姉ちゃんと一緒にテレビで応援してたよ」


遼はその声に少し戸惑いながらも、ひとりひとりに笑顔で応えた。

昨日まではただの近所の少年だったのに、一夜にして地域のヒーロー扱いされることに慣れない。


「ありがとう。でも、楽しむのを忘れちゃだめだよ」

子どもたちに向かって言った言葉は、遼自身への戒めでもあった。


結衣が横で小さく笑った。

「もう、立派にヒーローだね」

遼は耳まで赤くし、慌てて首を振った。


「ヒーローなんかじゃないよ。ただ、楽しく飛んだだけだ」

でも子どもたちの目は確実に変わっていた。

憧れと尊敬の眼差しで遼を見上げている。


責任を感じる、と遼は思った。

みんなの期待に応えられるよう、もっと頑張らなければ。


夕暮れ。

三人は工場の屋上で缶ジュースを片手に腰を下ろしていた。

街の遠くでまだ花火が上がり、人々の歓声が微かに聞こえる。

優勝パーティーは街のあちこちで続いているらしい。


「終わったんだね、決勝」

結衣が呟いた。


「終わった。でも、まだ始まったばかりだ」

迅が答える。


遼は空を見上げ、笑った。

「うん。だって、もっと楽しい空が待ってるから」


その笑顔は、昨夜と同じ輝きを放っていた。

優勝の興奮も、周囲の期待も、遼の本質的な部分は何も変えていない。

彼はまだ、ただ空を飛ぶことを愛する十二歳の少年だった。



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