最後の直線
運命の分かれ道が近づいていた。
最終の長い直線区間。
ここでの勝負が全てを決める。
Aurora-9の絶対的優位は変わらない。
直線での速度差は、技術では埋められない物理的な限界がある。
しかし観客の期待は最高潮に達していた。
「奇跡を起こしてくれ!」
「最後まで信じてる!」
「Rusty Hawk!」
遼の表情にも変化が現れていた。
目の奥に宿る光は、これまでとは違う種類のものだった。
「みんな、ありがとう」
応援してくれる全ての人への感謝の気持ちが、心を満たしている。
街の人々、じいちゃん、迅、結衣、そして今日ここに来てくれた観客たち。
再び突き放される絶望的状況。
物理的な限界は厳しく、Aurora-9の速度には追いつけない。
観客席に落胆の声が漏れる。
「やっぱり」
「スペック差は埋められないか」
「頑張ったけど、現実は厳しいな」
京真も確信していた。
「これで終わりだ。所詮は旧式機」
冷静さを取り戻し、勝利への確信を深めていた。
だが、心の奥では複雑な気持ちもあった。
迅も結衣も、現実を受け入れかけていた。
「頑張ったよ、本当に」
迅が呟く。整備士として、できる限りのことはやった。
「遼らしい、素晴らしいレースだった」
結衣も涙ぐみながら言う。
勝敗より、遼が楽しそうに飛んでいることの方が大切だった。
でも遼だけは違った。
「でも、まだ終わらない!」
絶望的状況の中でも、諦めない心がある。
それは勝利への執着ではない。
もっと純粋で、美しいものだった。
「最後まで楽しもう!」
その言葉に、迅と結衣の胸が熱くなった。
「そうだ、最後まで遼らしく」
「それが一番大切なこと」
チーム全体の気持ちが一つになった瞬間だった。
遼の心に、今まで支えてくれた全ての人への想いが溢れる。
じいちゃんの優しさ、迅の技術への情熱、結衣の純粋な応援、街の人々の温かい声援、そして今日応援してくれている全ての観客たち。
「みんなのために、最後の技を」
新たな決意と共に、最後の瞬間へ向かう。
最も高い高度へ上昇するRusty Hawk。観客が気づく。
「あの機体、何をするつもり?」
「まさか、また急降下を?」
「あの高度は危険すぎる!」
京真も振り返り、その光景に息を呑んだ。
「あの高度は危険すぎる」
常識的に考えて、あの角度から降下すれば制御不能になる危険性が高い。
だが遼の目には、迷いがなかった。
「相棒、最後の飛行だ」
Rusty Hawkに語りかけるように、優しくスロットルを握った。




