第12話:決勝ラウンド(京真戦・後半) 奇跡の始まり
レースは最終局面を迎えていた。
データ上では勝負はついている。
Aurora-9の圧倒的優位は動かない。
だが、技術区間に入った瞬間、状況が変わり始めた。
カーブの連続する複雑なセクション。ここで、Rusty Hawkが真価を発揮し始める。
「Sky Drift」が自然に発動した。
空中での滑るような急旋回。
工業地帯で生まれたあの技が、最大の舞台で再び輝きを放つ。
観客席が「おおー!」と沸いた。
「来た!Rusty Hawkの十八番!」
「Sky Drift!やっぱりすげぇ!」
京真も驚いた。
「まさか、この区間で」
計算では、技術区間でもAurora-9が有利のはずだった。
しかし、あの古い機体は数値では測れない何かを持っている。
少しずつ差が縮まり始める。希望の光が差し始めた瞬間だった。
SNSでも瞬時に反応が起きる。
「#SkyDrift復活!」
「#RustyHawk まだやれる!」
世界中の人々が、この逆転劇の始まりに注目し始めた。
迅はピットで拳を握った。
「やった!あいつ、諦めてなかった!」
技術者として、データでは説明できない現象を目の当たりにしている。
古いRusty Hawkが見せる可能性に、心が震えていた。
結衣は涙を浮かべながら叫んだ。
「遼!信じてたよ!」
彼女の声援が、無線を通じて遼の心に届いているかのようだった。
ビル群の壁面を利用した「Wall Run」が発動する。
鷹のような優雅な飛行フォーム。
郊外サーキットで生まれたあの美しい技が、都市の壁面で再現された。
「Wall Run!」
「来た!」
観客席が総立ちになった。
実況が絶叫する。
「Rusty Hawkの真骨頂です!まさに都市を舞う鷹!」
美しすぎる飛行に、京真も感嘆せざるを得なかった。
「なんて美しい」
彼は初めて、技術や戦略を超えた何かを感じていた。
レースにも芸術性があることを、この瞬間初めて理解した。
Aurora-9は確かに速い。
完璧な設計、最新の技術、申し分ない性能。
だが、Rusty Hawkには別の魅力がある。
「これが楽しむということなのか」
京真の心に、新しい感情が芽生えていた。
順位がどんどん上がる。5位、4位、3位…
「まだ分からない!」
観客の期待が最高潮に達する。
「やっぱりRusty Hawkはすごい!」
「最後まで諦めない心が違う!」
子どもたちの大合唱が会場に響く。
「がんばれー!」
「Rusty Hawk!」
迅と結衣も興奮して抱き合った。
「やったー!」
「信じてて良かった!」
工場のじいちゃんも、テレビの前で拳を握っていた。
「そうだ、その飛び方だ。それがお前の本当の力だ」
昔の自分を重ね合わせながら、遼の成長を見守っていた。
でも京真は動揺していた。
予想外の展開に、初めて計算が狂い始める。
「なぜそんなに速い?」
完璧だったはずの戦略に、ほころびが見え始めた。
データには表れない、心の力というものがあることを、彼は理解していなかった。
「このままでは?」
初めて感じる焦りの気持ち。
勝利のみを追求してきた京真にとって、予想外の感情だった。
だが同時に、胸の奥で何かが熱くなっていた。
これが「楽しい」という感情なのだろうか。




