弱点露呈
最後の長い直線区間に入ると、Aurora-9が完全な独走状態となった。
2位以下を大きく引き離す圧倒的なスピード。
「これが現実だ」
京真の冷徹な宣告が、心の中で響く。
計算通り、予想通り、完璧な勝利。
観客席も完全に諦めムードに包まれた。
「勝負にならない」
「可哀想だけど、これが実力の差」
実況も言葉に困っていた。
「Aurora-9の独壇場です。京真選手、完璧なレース運びですが」
言葉を濁すのは、あまりにも一方的すぎるからだった。
それでも遼は楽しそうに飛び続けていた。
「速いなあ、すごいや!」
素直な称賛の気持ち。
負けている状況すら、学びの機会として捉えている。
その姿を見て、観客の心境が変化し始めた。
「あの子、本当にレースが好きなんだね」
「勝ち負けより、飛ぶことが大切なんだ」
「何て美しい心なんだろう」
純粋な心が人々に感動を与え始める。
拍手が少しずつ起こり、やがて会場全体に広がった。
迅も涙ぐんでいた。
「やっぱり機体の差が。悔しいけど」
整備士として、もっとできることがあったのではないかと自分を責めていた。
結衣は迅の肩に手を置く。
「でも遼は楽しそうだよ。それが一番大切なことでしょ?」
「そうだな、勝てなくても、遼らしいレースを見せてくれた」
チームとしての価値観を再確認する瞬間だった。
勝敗より大切なものがある。
遼を信じ続ける気持ちに変わりはない。
絶望的状況だが、諦めない観客たちもいた。
「最後まで分からない」
「Rusty Hawkならきっと何かやってくれる」
「奇跡を信じよう」
その期待に応えるかのように、遼の表情に変化が現れた。
目の奥に、何かを見つけたような光が宿る。
「みんな、ありがとう」
応援してくれる全ての人への感謝の気持ちが、心を満たしていた。
街の人々、チームメイト、そして今日ここに来てくれた観客たち。
「でも、まだ終わらない!」
遼の心に、新たな決意が生まれた。
勝敗ではない、もっと大切なもののために。
京真は、その変化に気づいていた。
「まさか、まだ何かを企んでいるのか?」
データ上では勝負はついている。
だが、あの少年の目には、まだ諦めの色が見えない。
「興味深い」
京真の心に、初めて好奇心が芽生えた。
運命の最終局面へと、レースは動き始めた。




