第11話:決勝ラウンド(京真戦・前半) 冷徹な天才
決勝当日の朝。
会場には史上最大の観衆が詰めかけていた。
Aurora-9チームが会場に現れた瞬間、雰囲気が一変した。
企業スポンサーの豪華な機材車が整然と並び、プロ整備チームが統制された動きで準備を進める。
全てが完璧に管理され、無駄が一切ない。
京真が機材車から降りると、メディアが一斉に注目した。
14歳とは思えない貫禄と冷徹な表情。
整った顔立ちだが、その目には氷のような冷たさが宿っている。
「今日の本命」
という扱いは明らかだった。
Aurora-9のお披露目が始まる。
全長4.8m、最高速620km/hの圧倒的性能を誇る最新鋭機。
洗練されたフォルム、完璧な整備状態、そして機体を覆うスポンサーロゴの数々。
「美しい」
「速そう」
観客の感嘆の声があちこちから聞こえる。
技術者たちも注目する最新テクノロジーの結晶だった。
Rusty Hawkとの歴然とした差を、誰もが感じ取っていた。
「すげぇな、完璧すぎる」
迅が唸る。
整備士として見ても、Aurora-9のクオリティは圧倒的だった。
「でも、何だか冷たい感じがする」
結衣が複雑な表情を浮かべる。
確かに美しいが、Rusty Hawkのような温かみが感じられない。
遼だけは素直に感心していた。
「すごい機体だね。きっと京真くん、大事にしてるんだ」
その時、京真のインタビューが始まった。
「勝利こそ全て。楽しむなど愚者の戯言です」
記者が質問する。
「Rusty Hawkについてどう思いますか?」
京真の表情が一瞬歪む。
「あのような旧式機では、私の相手にはなりません。レースは感情ではなく、技術と戦略で決まるものです」
遼の「楽しむ走り」を完全否定する発言だった。
スポンサー陣営からの期待も大きい。
「確実に勝ってくれ。我々の投資を無駄にはするな」
商業的な圧力が、京真の肩にのしかかっていた。
彼にとってレースは楽しみではなく、義務だった。
一方、Rusty Hawkチームの準備は対照的だった。
手作り感あふれる整備道具、古いが愛情を込めて磨かれた機体、そして何より3人の自然体な雰囲気。
遼は相変わらずマイペースで、京真の発言も気にしていない様子だった。
「京真くん、きっと緊張してるんだよ。だからあんなこと言うんだ」
その純粋な解釈に、迅と結衣は苦笑した。
「お前って奴は」
観客席も二分されていた。
最新技術のAurora-9を支持する声と、アンダードッグのRusty Hawkを応援する声。
「やっぱりAurora-9だろう」
「いや、Rusty Hawkの技術は本物だ」
「でもスペック差が」
「数字だけじゃないんだよ、レースは」
議論が白熱する中、京真は機械的なウォーミングアップを続けていた。
彼にとって感情は邪魔なもの。全てを数値と戦略に置き換えて考える。
「勝利確率97.3%」
自分の計算に間違いはない。
そう信じていた。




