表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sky Runners  作者: SKY
19/32

第7話:夜戦への扉 光の街に舞い降りた少年


夕暮れのメトロシティ。高速道路を降りたトラックの荷台から、遼は思わず身を乗り出した。


「うわあああ……!」


目の前に広がるのは、昼間とはまったく違う世界だった。

普段なら車の行き交う大通りには、まばゆい光を放つゲートが浮かんでいる。

高層ビル群の間にも虹色のリングが宙に浮き、まるで光の橋のように空中に架かっていた。


「すげぇ……街全体がレース場になってる」

迅がトラックから降りながら、感嘆の声を漏らす。


結衣は目を輝かせて周りを見回していた。

ビルの外壁には巨大なスクリーンが設置され、すでに観客席となる屋上や歩道橋には人だかりができている。

街角の屋台からは甘い匂いが漂い、まるでお祭りのような賑やかさだ。


「本当に、ここを飛ぶんだ……」

遼の胸に、今までとは違う種類の興奮が湧き上がる。


工業地帯の煙突や、郊外の自然とも違う。

都市の真ん中、光に包まれた空を駆ける。

そんな体験が待っているのだ。


Rusty Hawkをトラックから降ろしながら、遼はそっと機体に話しかけた。


「相棒、今度は光の中を飛ぶよ」

機体の古いボディに映り込むネオンライトが、まるでRusty Hawkも光を纏っているかのように見えた。


運営スタッフがやってきて、手早く説明を始める。

「ナイトレースは昼間の三倍危険です。光の残像で視界が狂いやすく、判断ミスが事故に直結します。ブロンズリーグなので安全装置は作動しますが、過信は禁物です」


いつもなら「楽しそう!」と即答する遼が、珍しく真剣な表情で頷いている。

迅と結衣も、その変化に気づいて視線を交わした。


「夜の空は美しい。しかしそれは同時に、パイロットを惑わす罠でもある」

スタッフはそう付け加えると、次のチームへ向かっていった。


静寂が三人を包む。


「三倍、か」

遼が小さく呟いた。


その声には、今まで聞いたことのない緊張感が混じっていた。

日が完全に沈むと、街の変貌はさらに劇的になった。


ビルという ビル、すべての外壁がスクリーンとして光り、レーザーライトが夜空を縦横に駆け巡る。

ゲートの輪郭は虹色に発光し、そのリングを通り抜けるコースが、まるで光の川のように空中に浮かび上がった。


「きれい!」

結衣はコースの美しさに目を見張る。


遼も言葉を失って見上げていた。

工業地帯の無骨な美しさとも、郊外の自然の美しさとも違う。人工の光が作り出す、幻想的な世界がそこにあった。


「こんな空、初めて見る……」


だが同時に、胸の奥に押し寄せるのは不思議な感覚だった。

美しいが、どこか怖い。

光が目を眩ませ、方向感覚を狂わせそうな予感がある。

昼のレースとはまったく違う、夜ならではの"静かな緊張"が空気を支配していた。


迅がRusty Hawkの機体チェックを続けながら言った。

「光の乱反射で計器が読みにくくなる可能性がある。それに、光が強すぎるとゲートの境界線が見えにくくなることもある」

技術的な不安要素を口にしながらも、迅の目は輝いていた。

整備士として、新しいタイプの挑戦にワクワクしている自分がいる。


「大丈夫、迅の調整を信じてるよ」

遼がそう言うと、迅は照れくさそうに頭を掻いた。


「まあ、やれることはやったからな」


結衣がノートを取り出し、ペンを走らせ始めた。

応援グッズの確認リストだ。

ペンライト、横断幕、メガホン——夜戦用に光るものを中心に準備していた。


「私も、絶対に遼を支えるから」

三人の決意が、静かに夜空に向けられた。


遼は改めて空を見上げる。

恐怖と興奮が入り混じった複雑な気持ちだったが、その中心にあるのは変わらぬ想いだった。


「怖いけど、楽しみだ」

その言葉を聞いて、迅と結衣は安堵の笑みを浮かべた。

やはり遼は遼だった。


どんな状況でも、最終的には「楽しみ」に行き着く。

そんな彼だからこそ、二人も全力で支えたいと思える。

夜のメトロシティに、小さなチームの大きな決意が響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ