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Sky Runners  作者: SKY
14/32

圧倒的速度差


第1直線。谷間を貫く3キロの区間で、Rusty Hawkはみるみる差を広げられた。Falcon-Xは風を切り裂き、スポンサーのロゴが夕日に照らされて輝く。直線の最高速は480km/h。Rusty Hawkの420km/hでは到底及ばない。

タクマはFalcon-Xのコックピットで冷静に状況を把握していた。予想通りの展開。だが、心の奥で複雑な感情が渦巻いている。圧倒的な性能差での勝利に、本当に意味があるのだろうか。

観客のざわめきは広がり、失望の色が濃くなる。


「やっぱり限界か」


「初戦はまぐれだったんだな」


しかし、一部の観客は諦めていなかった。工業地帯レースを見た人々は知っている。Rusty Hawkの本領は直線ではない。

迅は整備席で拳を握りしめる。


「分かってたけど、ここまで差が出るか」


彼の心に、複雑な思いが交錯する。遼の才能を信じている。だが、現実の壁も理解している。

結衣は祈るように手を握りしめた。


「遼ならきっと何とかする」


その頃、遼は風を受けながら小さく笑っていた。負けを恐れるより、Falcon-Xの圧倒的な速さに感動していた。


「すっごい速さだな!」


純粋な感動が彼を突き動かしていた。これほどの速さと戦えることの喜び。それが彼の原動力だった。

やがてコースは森の中へと入り込む。木々の間に設けられた狭いゲート群。幅は指二本分の余裕しかなく、他の機体は慎重に減速して進む。

タクマも速度を落とした。安全第一。確実にゴールすることが最優先だった。


「ここは慎重に」


その時、後方からRusty Hawkが猛然と追い上げてきた。減速するどころか、加速している。


「ここからだ!」


遼の瞳が輝いた。狭い空間が彼に集中力を与える。恐怖は消え、純粋な楽しさだけが残った。

Rusty Hawkは急激に旋回し、木々の影を縫うように突き進む。観客席がどよめいた。


「速い! あの旧式機が!」


実況が声を張り上げる。


「信じられません! Rusty Hawk、狭いゲート区間で加速している!」


Falcon-Xを含め他機が安全策をとる中、Rusty Hawkだけが楽しむように舞う。その姿は鷹が森をすり抜けるように優雅だった。

タクマは驚愕した。あの少年は、本当に楽しんでいる。恐怖ではなく喜びで飛んでいる。


「まさか、本物か?!」


迅は整備席で立ち上がった。


「やったな、遼!」


結衣も涙ぐみながら叫ぶ。


「これよ、これがRusty Hawkよ!」


「よし!もっと速く!」


遼はスロットルを押し込み、機体を木々すれすれに滑らせた。観客席の空気が一変する。


「すげえ……Rusty Hawkが追い上げてる!」


慎重だった観客たちが次第に立ち上がる。空気中に電流のような興奮が走った。

森を抜けると、眼前に迫るのは断崖絶壁。そこに設けられたゲートは、まるで壁をなぞるように配置されていた。

遼の心臓が高鳴る。だが、恐怖ではない。これまで感じたことのない、新しい可能性への予感だった。


「壁、近い方が面白い!」


機体を傾け、崖面すれすれを走る。岩肌が目の前を流れ、観客の悲鳴混じりの歓声が会場を揺らす。

実況が絶叫した。


「な、なんというライン取りだ! まるで壁を走っているように見える!」


タクマは息を呑んだ。あれは技術を超えた何かだった。才能、直感、そして純粋な楽しみが生み出した奇跡。


「あの子は本物の天才だ」


迅は思わず立ち上がり、結衣は両手を口に当てて息を呑んだ。

遼の瞳は、恐怖よりも興奮で光り輝いていた。崖面が語りかけてくる。「もっと近く来い」と。


「よーし、相棒、行こう!」


その瞬間、観客は確信した。新たな伝説が、ここで生まれようとしている。

断崖絶壁に沿って設けられたゲート群。その隙間は紙一重。普通のパイロットなら減速し、慎重にラインを取るしかない。だが、遼は迷いなくスロットルを押し込んだ。


「もっと壁の近くを!」


Rusty Hawkが崖面すれすれを駆け抜ける。まるで岩壁に吸いつくように機体が滑る。観客席からは悲鳴と歓声が入り交じった声が上がった。


「な、何だあれ!? 壁にぶつかるぞ!」


「いや、走ってる? 壁を!」


実況アナウンサーが絶叫する。


「信じられません! Rusty Hawkが崖面をまるで"走る"かのように滑っている!」


風圧がガラスの刃のように叩きつける。だが遼には、それが心地よい抵抗に感じられた。壁と空の境目が一本の道のように伸びていく。これまで誰も通ったことのない道。


「これだ! これがやりたかったんだ!」


観客席は一瞬、息を呑んで静まり返る。時間が止まったような静寂。次の瞬間、爆発的な歓声が会場を揺らした。

タクマはFalcon-Xのコックピットで呆然としていた。あれは教科書にない飛び方だった。理論を超越した、純粋な感性の産物。


「あんな飛び方見たことがない」


迅は整備席で震える手で拳を作った。あれは自分の知識を超えている。遼という少年が、新しい可能性を切り開いている。


「遼、お前は」


結衣は涙を流しながら叫んだ。


「すごいよ、遼! あなたは本当にすごい!」



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