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収穫祭 ④

「ふぅ・・・今日からまた始められる」


朝のジョギングを終えたクロア。

いつも通り領内を周り、帰ろうとした時に遠くに一人の男の子を見かける。


「あれは・・・」


領内から少し離れた所に切り株に座るリアンが見えた。

気になったので近づく。


「こんな所でと言うか、こんな離れた場所でどうしたの、リアン?」


「あ・・・クロア様・・・」


かなり疲れたような顔でリアンがこちらに振り返る。


「随分顔色が悪いな・・・」


「いやぁ、その・・・少しありまして」


これは・・・あの事だろう、俺達子供の中では話題の中心だったしな。


「それって告白の事かな」


「何でクロア様まで知ってるんですか!?」


「まぁそりゃぁ、皆噂してたからね」


「そんなに噂になってるなんて・・・もう嫌だ・・・」


更に項垂れるリアン。確かにあまりいい気はしないだろうな・・・


「まぁ噂なんてすぐに収まると思うよ。それにこんな領だと色恋の話は珍しいからね、特に女の子達は好きそうだからね」


「そうだと良いのですけど・・・でももうミミリの顔が見れません・・・」


ミミリと言うのは領の子供の一人。リアンと同い年の俺やリリー達よりも年上の女子。


「ミミリの話では、今は領での仕事が楽しいからって断られたんだっけ」


「そこまで知られてるんですね・・・その通りです」


「なら待つしかないんじゃないかな」


「そうかも知れないですけど・・・気持ちに整理がつかないんです」

「祭りの熱気に当てられて、多分調子に乗ってたんです・・・」


お山座りになり顔を埋めるリアン。これは収穫祭をやった俺にも責任がある気がしてしまう。


「あー・・・リアンはまだミミリの事が好きなの?」


「それは・・・まぁ・・・」


顔は見えないが耳が赤いのが分かる。色恋とはすごいな。


「それなら、諦める必要は無いんじゃないかな」


「え・・・?」


「別に振られたからと言っても、この狭い領じゃ会わないわけにもいかないだろうから」


「それは、そうですね」


「祭りの熱気と言うなら、俺にも責任があるからね。ちょっと手助けでもしようか」


「手助け?」


リアンの顔がこちらに向く。


「まぁ手助けと言っても、結局は本人達次第だから何か変わるわけでも無いかも知れないけど。勿論ミミリにも少しは聞くけどね。嫌と言われたら諦めて」


そう言いながらクロアが帰って行く。


「え、ちょっと待ってくださいクロア様・・・!」


二人か・・・丁度良いな。とは言えあの父上が素直に受けてくれるとは思えないから無理かも知れないけど。

後ろから聞こえる声を無視してクロアは帰路に着く。





-----∇∇∇-----





「記録係?」


「はい、今年は領内も多少潤いましたので、担当などを決めてもいいのではないかと思います」


父上の部屋にて相談事。


「と言っても、各々管理や記録はしているだろう。それを見ればいいだけでは無いのか?」


「でも潤えば、ズルをする人も居るかもしれません」


ほんのちょっと、出来心で。なんて、誰にでもあるだろう。

今、イストフィース領は上手く行っている。だからこそ、気を引き締めるべきだ。


「クロア、お前な・・・」


「分かっています、けれど綺麗事ばかりでは貴族は務まらないでしょう」


「しかし、それは余りにも・・・」


父上が嫌そうな顔をする。父上の性格を考えれば当然だろう。


「それを許してしまえば、あの時のカランクレス家の様になるかもしれません」


「クロア!」


父上の怒号が飛んでくる。


「それは言わない約束だろう」


「ですが、自らの地盤を固めなければ、そういう事が起きるかもしれません」

「それに俺達は悪目立ちしすぎています。対策は事前に考えるべきでしょう」


「・・・お前の考えは分かる。だがそれは、気にし過ぎだろう」


「実際、我々だけでは手が回らなくなっているのも事実です」

「管理の目が届かなくなる方が多いでしょうし、複数の確認があるのは悪い事ではないでしょう?」


「言い分も分かるが、私の領でそれは駄目だ」


「そうですか・・・」


「お前の言い分も分かる、あれだけの大貴族だからこそ起きた事とも捉えられる。だが私達がそれに狙いを付けられる可能性があるのも否定は出来ない」

「それはそれで対応しようとは思っている、心配するな」


父上の言葉で議題が終わる。

ただここで引くわけにはいかない。


「では記録係では無く、手伝いではダメですか?推薦したい二人が居るのですが」


「やけにしつこいな、何かその二人にあるのか?」


「まぁ、何といいますか・・・ちょっとした責任と言いますか・・・」


「責任だと、何かしたのか?」


「まぁ、その、ちょっとした事がありましたね」


父上に彼らの話をした。


「・・・はっはっは!」

「まさかそんな事でお前がこんなにも必死になるとは・・・ふっ!」


父上が笑いを堪えながら言う。


「そこまで笑いますか・・・」


「当たり前だ、お前からそんな話が出てくるとは思わなかったからな」


「俺だって、どうすれば良いか分からないんですよ・・・」


「まったく、先にそれを言えば良いのに、あんな話をするから余程の事が在ったのかと考えていたよ」


父上が笑い涙を拭きながら言葉を続ける。


「そういう事はそっとしておけ、気を使いすぎるとかえって逆効果だぞ」


父上が遠い目をしながら言う。


「そう言う物なのですか?」


「そう言う物だ、お前にはまだ分からんかもしれんがな」


これに関しては父上の言う通りかも知れない。少なくとも俺よりは確実に知識がありそうだし。


「・・・分かりました、今回の件に関しては俺がリアンに謝罪しておきます」


「謝罪の必要があるかと言われれば微妙だが・・・クロアがそうしたいなら、そうしなさい」


「けれど、先程の地盤固めの話は本気です。心配するなと言われても気にはなります、父上には何か考えがあるのですか?」


「うむ、実は昔の知り合いが近々この領に移住したいとの事でな」


「昔の知り合いと言うと、騎士団の時のですか?」


「ああ、しかもかなり信頼のおける方でな、あの人にも少し領の事を手伝ってもらうつもりだ。来た時に紹介もする、今は少し待っておけ」


「父上がそこまで言うなら、今はそれで納得しておきます」


そこまで言う人が居たとは、元騎士の人だろうけど、あの三人以外にも信頼関係を築いていた人が居たのが少し驚きだ。


「いきなり申し訳ありませんでした。また何かあったら相談します」


「勿論構わん、しかしクロアにも苦手な事があったか・・・ふふ」


「可愛げのない子供で申し訳ありませんね」


そんな事を言いながら部屋を後にする。


「何にせよ、リアンには悪い事をしてしまったかもなぁ・・・」



その後、イストフィース領で一人の男の恋愛話の話題で盛り上がったそう。



多少の事はあったけれど、収穫祭事態は大成功に終わった。

イストフィース領に、少しの間平穏が訪れる。

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