賑やかな領地
数回の乗り継ぎを経て
夕方になってくる頃に自分達の領地が見えてくる
「やはり馬車とは素晴らしいですね、今となっては普通ですが一日で帰ってこれるなんて数年前では考えられなかったことですものね」
ベガトリオン運送が我々の領地までのルートを作ってくれたのはここ最近である
「その通りだな、私が初めてこの地に来た時を思えばもっと酷かったが」
父がこの地を王から授かった時はかなり瘦せ細った土地だったという
俺が生まれるころには人も増えていて、村と呼べるまでには大きかった
更に六年経ち、今では多少豊かな土地にはなっている、最初のころに比べればだが
王都などの広さを知って改めて、自分達の領地を発展させたいとも思えた
「父上、帰ったらさっそく相談があるですが良いでしょうか?」
この時間で本をかなり解読できたので、検証も兼ねて色々試してみたいことがある
「構わない・・・と言いたいところだが私達がこの地を離れていた二日の間に起きた出来事も聞かねばならない」
「お前の話は明日にした方がいいだろう、何もなければだがな」
「あまり不吉なことを言わないでください・・・」
二人で冗談を交えながら帰路に着く
御者に感謝を述べたあとに歩く
馬車の停留所から少し歩けば小さな柵が見えてくる
そして一人の獣人が近づいてくる
「隊長!坊ちゃん!お帰りなさい」
今日の門番はヴォルフォだったらしい
「ただいまヴォルフォ」
「戻ったぞ、何回も言うが隊長ではなく領主もしくは名前で呼べ」
「そんな呼び方できませんよ、隊長は隊長ですから」
この獣人、ヴォルフォは父上が騎士だった頃からの部下の一人
この地を父が授かり、貴族になってからもこうして元部下だった人達が何人か領内に住んでいる
父がこの地に来た時は魔物や動物が多く、一人でも多くの戦力が欲しかったらしい
今では我が領の頼れる兵士の一人だ
「ところでヴォルフォ、我々がこの地を離れている間に何か問題は無かったか?」
ヴォルフォは少し頭をかく
「何個か話があります、しかし今日ぐらいはご家族とゆっくりしていいのでは?」
「時間も時間ですから明日にまとめて話しますよ、今すぐに動かなきゃならない要件は今のところないですから」
「そうか・・・ならば明日にしようか、と言う事でクロアよ」
「わかってます、落ち着けるようになったらで構いませんよ」
実験はまた今度になってしまうな
「坊ちゃんも、お疲れ様です」
「固有魔法はいかがでしたか?」
「幸運な事に、俺はもらえたよ」
「おお!」
「さすがですね、まぁ坊ちゃんなら持っていると思ってましたが」
「この地を出立する時もかなりの人数にそれを言われたけど、なんでそこまで皆に自信があるんだ?」
「そりゃぁ・・・」
ヴォルフォが父と目を合わせる
「そうだな」
「僅か六歳であれ程の魔法を扱え、さらには領地の経営にまで口を挟む子供がどこに居るか」
「そう言われても・・・できるからここに居るのでしょう」
「「それが普通ではない!」」
二人に同時に言われてしまった
「しかし一人でも居ればすごいのに、ベニア嬢と合わせれば二人目ですか・・・」
「また他の貴族から色んな誘いが来そうですね」
「やめてくれ・・・今から頭が痛くなる」
固有魔法を持った子供が居るだけで自分の派閥に加えたい貴族は多い
ベニア姉様の時はすぐに国の騎士団に入ったがそれでも繋がりを得ておきたいと思う貴族が多くてやたらと舞踏会だの茶会だのと手紙が多かった
そもそも父が騎士からの成り上がりな事もあって貴族達からはあまり受けが良くないはずなのだが
それでもやはり戦力としてみれば父は優秀すぎるのだ、それに加えて固有持ちの子供が居るとなれば敵に回すより味方の方が心強いのだろう
「また母上にも迷惑をかけてしまいますね、あの人はなんだかんだ楽しみそうですけど」
「そうだな・・・困ったものだよ」
父は父で騎士からの成り上がりなので苦労している
舞踏会に誘われても踊りなど苦手だからだ
貴族になったことで身に着けては居るが、やはり得意でもなければやらなくていいのならやりたくないのが本音だと思う
「今から考えても仕方ないでしょう、ほら今日は帰ってまた明日色々話しましょう」
ヴォルフォが励ましている
「そうだったな、では明日からもまた頼むぞ」
「はっ!」
二人で我が家まで帰宅する
家まで歩いていると領民達から声を掛けられる
皆が世間話とか挨拶などしてくれる
父は慕われているのだ
元々が貴族じゃない父にとって領民とは一緒にこの地を作ってきた仲間なのだと言う
色んな領地の話を聞くがここまで領民と距離が近いのは父の領ぐらいだと思う
「帰るだけなのに結局時間かかってしまいましたね」
「ありがたい事だ、領民の皆が明るく元気だったからな」
「そうですね、また明日からも俺も頑張りますよ」
そうして二人で小さな屋敷に着く
「戻ったぞ!」
「ただいま帰りました」
二人でドアを開け、帰宅の報告をすると
走ってくる足音が二つ聞こえた
「お帰りなさい!!お兄様!!」
「お帰り、兄様!」
「おっとと」
双子の妹と弟が飛び込んでくる、この頃スピードが容赦無くてちょっと支えられなくなってきた
「ただいま、オルカ、スー」
「二人とも屋敷内を走り回ってはダメでしょ~?」
奥から母の声が聞こえた
「お帰りなさい、あなた」
「ああ、ただいまリリル」
「オルカ、スー、悪いけど荷物などもあるから全部置いてから色々話そうか」
「えぇ~、早くお兄様とお話ししたい!」
「オルカ、兄様に迷惑だよ」
「一人だけいい子ぶってなんだか生意気!」
「だ、だってオルカが兄様の言う事を聞かないから」
「はいはい二人ともそこまで」
二人の小競り合いを母が止める
「クロアもお帰り」
「ただいま、母上」
「ルーシとエリアも寂しがっていたわ、二人は夕食はまだ食べてないの?」
「ずっと馬車の上だったからな、水と干し肉なら食べたが」
「なら先に夕食にしましょう、ラックモックにお願いしてくるわ」
「俺も腹が減ってましたのでそれは嬉しいですね、倉庫に色々しまってきます」
「わかった、二人もいつまでもクロアにくっ付いていないでエリアとルーシを呼んできてくれ」
「ぶー、わかりました」
「俺も倉庫に荷物を仕舞ったらすぐに行くよ、スーも一緒に行っておいで」
「はい、兄様」
「スー!行こう、姉様二人を食堂に連れていきましょ!」
「また後でいっぱいお話聞かせてね!お兄様!」
二人がまた走って行く
「こら!走らないって何度言えば・・・ほんとに元気ねあの子達」
母が少し呆れている
「クロアの言う事はすぐに聞くのになんで私達の言う事は聞いてくれないのかしら?」
両親がこちらを見てくる
「まぁまだ四歳ですからね、遊びたい盛りなのでは?」
「あ、俺と比べないでくださいね、もう俺の方が特殊なのはわかっているので」
「それは私達もわかっている、心配するなリリル、ルーシやエリアも含めて皆真っすぐ成長しているさ」
まるで俺が真っすぐ成長してないみたいじゃないか父上
「そうね・・・それでも心配しすぎちゃうのは仕方ないでしょう?」
「そうだな・・・リリムは心配性だからな」
両親が二人の空間に浸っている
「では俺は荷物を置いてきます、あと身体も洗ってきます」
「わかった、私も後で使うとしよう」
荷物を置きに倉庫に行く
帰ってきただけで賑やかな領地
領民の人達も笑っていてくれた
家族も皆温かい
少なくとも俺は幸せだ
だから今はこの幸せを感じていたい
今日は家族で食事だ、まずは何から話そうかな・・・
なんだか今日の夜は色々長くなりそうだ
そんな予感がしている