国境戦 ⑰
クロア達が帰還したその日、帝国からの攻撃は無かった。
当然でもある、彼らは夜襲を受けた上に上官を失い、内紛まで起きてしまった。
それらを乗り越えて攻撃など出来るはずも無く、カランクレス軍は静かな一日を過ごした。
「先程、帝国軍が撤退を初めているとの報告がありました。皆様、我々の勝利です」
アルティのその話を聞き、その場にいる全員が安堵と喜びに包まれる。
「しかし他の戦いはまだ終わってはいません。すぐに連絡を取り合い、可能であれば援軍に向かいますので、気を引き締めておいてください。本日はこれぐらいにしておきます・・・改めて、皆様、ありがとうございました」
アルティが頭を下げ、軍議が終わる。
各々が戦勝の報告や、次への備えへと急ぐ。
クロアも部屋を出ていこうとすると。
「クロア殿、少々お待ちいただけますかな」
「ザゼンさん、承知致しました」
部屋には、侵攻したメンバーだけが残された。
しばらくすると。
「失礼します。イストフィース・リーゼ・エリア、参上しました」
「おう、良く寝れたか?」
フェーネ様が姉様と話している。
メンバーを見るにグラオラス様だけが居ない。
「皆様、今回の事・・・本当に申し訳ございません」
開口一番にアルティ様が頭を下げる。
「姫様・・・」
ザゼンさんが何か言いたそうにしているが、フェーネ様が手で静止する。
「私は構いません、元からその予定でしたから」
「僕らも同じです、ポールト様の言う通り、計画通りですから」
俺の言葉に姉様も頷いている。
「それでも・・・命の賭けたのはここに居る皆様です。その成果が正しく評価できずに・・・」
アルティ様は今回の成果に置いて、俺達の事を気にしてくれている。
当初の計画通り、侵攻組が成果を上げた場合、あの時に黙認した貴族達の評価として献上すると言う話。
だけど元からその予定だったので何も不満は無い。
「それに、息子に自慢話が出来ましたので、私めは満足ですよ」
ポールト様の言葉を聞きながら、俺と姉様の目が合う。
我々の番らしい。
「僕達も元々生きて帰る、と言うのが最大の目的でしたので、これ以上の報酬はありません」
「私も、この戦いでたくさんの事を学ばせて頂きましたので、大満足です」
姉様と二人でアルティ様に礼を言う。
「うぅ・・・どうしましょう、お三方共ザゼンの言う通りの言葉が返ってきました・・・」
その発言に、ポールト様含めて三人で首をかしげる。
「はっはっは!」
「あー・・・この話をする前にお嬢様がアタシ達に相談してきてな。そん時にザゼンがさ」
「・・・ご心配ありません姫様!あの方達が恨み言など言いませんとも。寧ろ気を使って感謝の言葉を述べてくるかも知れませんぞ。なんて言ってな」
今のはザゼンさんの真似だろうか。
割と似ていた。そしてそれを見た姉様が若干笑いを堪えている。
「・・・おいエリア」
「も、申し訳ありません!・・・ぷっ」
その瞬間に少し緊張していた空気が溶ける。
「姉様、失礼ですよ・・・ふふっ」
「お前も笑ってんじゃねぇか!」
「あはは!」
笑いが一旦終わる。
「あの、グラオラス様は?」
「現在、ヴェルム殿は軟禁中です。ですがご安心ください、非道な扱いなどはしていませんし、ヴェルム殿もこちらに協力的なので」
それぞれの話を後から聞いたが、グラオラス家に内通者が居たらしい。
結果として裏切り者が内部にずっといたと言う事だった。
その内通者もどこかの貴族からの刺客だったようで、全ての戦闘が終わり次第捜調査するとの事。
「結果として、私達の部下に内通者が居た事で皆様にもご迷惑を」
「そこまでですよ、アルティ様。それについてはアルティ様が頭を下げる必要はありません」
アルティ様が頭を下げようとしたので、言葉を遮るのは失礼だが止めた。
それにこの件については本気でアルティ様が謝罪する必要は無い。
どちらかと言えばグラオラス様や、その動きに気付き切れなかったドーバル閣下の責任だ。
「そうですよお嬢様、それに暗い話は最初で終わらせたかったんじゃないですか」
「あっ・・・そうでしたね。お三方には改めて、今回の事での別途褒賞をお願いするので、それまではお待ちください」
「おや、それはそれは・・・有難く頂戴致します」
「僕達も、ありがとうございます」
「まだ皆様もお疲れですよね、長時間申し訳ございません。今日もまたゆっくりお休みください」
アルティ様の言葉に姉様と一緒に部屋を出ていく。
そのまま俺のテントに戻っていく。
半分姉様の場所になっているけど。
「それにしても・・・服って直すところあるかしら」
「カランクレス領の中心街に行けばいくらでもあるとは思いますけど、意味無いと思いますよ」
「なんでよ、このまま母様に怒られろって言うの?クロアも嫌でしょう、なんか考えなさいよ」
二人共、治療魔導士からの回復を経て身体の怪我は完治に近い。
しかし戦場に裁縫が仕事な者などおらず、自分達の戦闘装束がボロボロである。
「多分、直しても気付かれるので諦めて母上に怒られますよ」
「本気で言ってるの!?また部屋から出られなくなるじゃない!」
昔エリア姉様も俺ほどでは無かったが似たような大怪我をして、母上からほぼ軟禁状態にされた時がある。
そしてそれは姉様にとっては苦痛でしかない。
「また大量の本と謎の計算をさせられる・・・私は嫌よ!」
軟禁状態だと母上はかなり付きっきりになるので、自然と座学が増える。
俺はそれらを終えてしまっているので特に無かったが、それでもかなりの頻度で母上が見に来ていたので外に出る事は不可能だった。
「たまには良いのでは?それに、ここで散々身体は動かしたでしょう・・・」
「イ・ヤ・よ!それに色んな人の戦いを見て、もっと強くなりたくなったわ」
「それはそれは・・・」
少し呆れていると。
「・・・正直、私個人としては負けた気がするわ」
姉様が今回の戦闘を振り返る。
「負けた、と言うのは?」
「話をしたでしょ。帝国の団長よ」
「聞きましたね、でも勝ったのでは?」
「そうね、でももしあの時。一対一なら私が確実に死んでいたわ」
「剣技でも、生きるための剣技って言うのかしら。騎士団みたいな正当な型じゃなくて、本当に戦いをするためだけの、みたいな」
「その上あの固有魔法、絶対に勝てなかったわ」
姉様がここまでハッキリ言うのは珍しい。
それほどまでに強かったのだろうと、理解はできる。
「クロアなら勝てたのかもね、アンタは剣技が一番の得意でも無いしね」
「どうでしょうかね、フェーネ様とアルティ様からも聞きましたけど、魔力循環もヘンテコにされたら俺なんて一番弱いかも知れませんよ」
エリア姉様が考え込んでいる。
「・・・無いわね、アンタは私より慣れるの速そうだもの」
「それに、クロアは勝ったんでしょ?」
俺の戦いも振り返るらしい。
「そうですね、勝ちましたよ」
「やっぱり強いわね、クロアは」
「でも、多分、あの人は本気じゃなかったと思います」
「本気じゃなかった?戦争をしてたのに?」
クロアは、あの時の事を思い出す。
「多分、としか言えませんけど。優しすぎたんだと思います」
エリアはクロアの話を聞き続ける。
「剣で戦っている時に、明らかな手加減を感じました。恐らく、子供殺す事に躊躇いがあったんでしょうね」
「俺達の国では、十歳に成れば成人、もしくは生誕の儀式を終えた時点で一人の大人として扱われます」
「でも、帝国では違いますからね。子供が戦う事なんて帝国でもあるでしょうけど。実際に子供を手にかけるタイミングなんて、基本的にはあるはずも無いですからね」
「その上、彼は例外者だったので、剣技では俺なんかより遥かに上でしたね」
「例外者と戦ったの!?」
「ええ、初めてでしたね」
「だからこそ、剣技では諦めていたので致命傷だけは避けていましたけど、なんだかそれに相手が安心している気もしてましてね」
「魔法で戦ってからが、あの人の本気だったんでしょうね。もし最初から彼が本気だったら腕か足を一本、もしくは両方失っていたかもしれません。不意打ちの様にとどめを刺したので、なんとか勝てただけな気がしますよ」
「強かったの?」
「身体能力が凄まじい人でしたね、夜と言うのもありましたけど目で追うのは無理でしたね」
いいなぁ・・・なんて呟いている姉様。
俺からしても、学ぶ事が多かった。
「でも、二人共いい経験になりましたね」
「それについては同感ね。まだ終わってないかも知れないけど、帰ったらまた鍛えなきゃ」
「クロアも手伝いなさいね」
「時間があればいいですよ・・・帰ってから俺達二人が外に出れればですけどね」
「あー・・・」
二人で話しながら、その日を過ごす。
いつもの日常のような空間に戻っていく。
ここでの戦闘結果が他の場所にも届いた頃には、帝国は完全に撤退をしたらしい。
捕えた帝国幹部などはカランクレス家が預かり、帝国との政治の手札にするとの事。
静かに、粛々と、終わりを告げていく。
クロア達は、生まれて初めての戦争にて、勝利を手にする。




