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国境戦 ⑬  (クロアVSリュダ)

暗い森の中で、剣戟の音が響く。


「はっぁ・・・はっぁ・・・」


「私とこれだけ打ち合えるとは、やはり君は強い」


打ち合えてなどいない、すでにクロアの身体は生傷が多い。


「お前、例外者(エクセプション)か」


「流石に気づきますか。その通り、私には魔力が扱えません」


最初の一撃から妙だった。

一切魔力探知には引っかからずに自分達に近づけた時点で、違和感しか無かった。

つまり目の前の男に魔力切れの概念は無い。

あるのは疲労感ぐらいだろうか。

それに比べてこちらは肉体的疲労感もあるが魔力を扱うのにも疲労する、その上魔力が切れたら戦いにすらならない。

長期戦は無理だ。


「私の国では、すごく大変でしてね」


「代わりに異様に強い身体があるようだけど?」


「魔道具に頼っている我が国では、私は全ての物が扱えないのと同じでね」

「君達は寒くなれば薪に火を付けれるだろう、暗い場所ではそれは光にもなる。土を耕すのにクワを何本もダメにする経験があるかい?」


「確かにそれは不便そうだ」


「かなり不便だったとも。だからこそ私は強くなれたのかも知れないがね」


その言葉と同時にリュダはクロアに斬りかかる。


「!?」


咄嗟に反応するクロア。

しかし。


「ぐっ・・・」


「私が押し勝てないとは、団長以来だよ」


クロアの出力故に何とか鍔迫り合いにはなるが、それでも。


「ふっ!」


「がぁ!」


クロアは何とか致命傷は避ける。


「はっぁ・・・」


「ふむ・・・」


「戦いの中で考え事か?余裕があるな」


「当然でもあるだろう、傷の数を見れば力量の差は明らかだ」


リュダは疑問を投げかける。


「君は、魔導士なのだろう?何故、剣を握り、さらには私と剣で戦おうとする。その姿はまるで騎士や剣士のようだ」


「魔導士が剣で戦ってはいけない何て決められてないからな」


「確かにそれはそうだろう。私の知る魔導士も剣を持っている、だがその人でさえ剣だけで戦おうとはしない」

「聞き方を変えよう。何故、攻撃魔法を使わない?」


クロアはリュダとの戦いに未だに魔法を使っていない。

最初からずっと、魔力循環だけをし続けている。


「不謹慎かもしれないけど・・・試したかったんだ」


「試す?」


「今の俺の剣術は、お前の様な強い戦士にどこまで戦えるのかと」

「こんなことを言ったら、この戦いに参加している人達に怒られてしまうけどね」


「君は、戦いが好きなのかい?」


「どうかな、ここまでの殺気と重圧にさらされたことが無かったから、好きかどうかと言われると分からないかな」

「でも、多分。嫌いではないかな」


「その歳で、殺し合いを好きと言えるのか・・・君の国も大変そうだ」


「どうだろうな、国と言うよりは、我が家が特殊なのかも」


「不憫な子だ」


リュダの剣がクロアを襲う。


「チッ・・・!」


何とか、致命傷は避ける。


「くそ・・・」


目の前の男の剣術の腕前は、恐らく父と同等かそれ以上。

その上魔力が無い事により、攻撃の予測が立てずらい。

普通の騎士であれば魔力循環による身体強化で戦いを行う。

ただ身体強化と言ってもあくまで魔力がある。大きな攻撃をするときはその魔力に起こりがある。

剣を強く振る為に身体強化の出力を上げる、速く駆ける為に足に魔力多く回す、隠密性を上げるために魔力を一時的に下げて暗殺するなど。

しかし目の前の男にはそれが無い。

クロアからすれば彼が振るう剣は全てが必殺かも知れないし、防御を誘う囮にも見える。

いつもならそれを魔力から多少感じ取る事が出来るが、この男にはそれが出来ない。


「これが、例外者(エクセプション)故の力か」


「まだ、続けますか。私は・・・正直子供を殺める事など、したくは無いのですが」


「お優しい事だ、あの帝国の人間とは思えないな」


「そうかも知れませんね。私は軍人には向いていないと、つくづく思っているよ」


「・・・そんな人があんな兵器を使ってたとはな」


「・・・何が言いたい」


「あの膨大な魔力を撃ってる物の事だよ。あれは、一人や二人で撃てる物じゃない」


クロアの兵器の事をずっと考えていた。


「俺も魔導士だから分かる、あの膨大な魔力は異常だ。受け止めたからこそ尚更ね」


「最初の時に防いだのは君だったのか・・・」


リュダがクロアを見て、納得する。


「あれは、大量の人間を使っているな」


「・・・」


クロアの問いに、リュダは答えずに斬りかかる。


「大分弱い打ち込みだな」


「さっきも、言っただろう。私は軍人に向いていないのだ」

「だがそれでも、私達にも守りたい物が、人がいる」


クロアが受け流す。


「そろそろ言葉は不要だ。君には悪いが、こう見えて私も多忙な地位でね」


「・・・そうだね」

「俺も、諦めるとするよ」


そう言って、クロアは剣を捨てる。


「?」


リュダは疑問だった。

確かに、魔導士なら剣は不要だろうとも思うが、剣を防ぐと言う意味でも捨てる意味は無いはず。

そして、目の前の少年の雰囲気が変わる。


「先にお礼を言っておくよ、今の俺の剣術ではまだまだ弱いって事が分かった」

「だから、魔導士として、戦うよ」


そうして、クロアの魔力循環が変わる。

クロアが扱っている普通の循環よりも更に上の強化。

しかし現在、何か物を持ってこの強化を行うことはまだ出来ない。故に剣は捨てるしかない。


その光景に、魔力は感じ取れないが何かが変わったと、リュダも警戒する。


アースモリス(生活土魔法)


つま先を地面に叩きながら、魔法を唱える。


「!?」

(地面の土が柔らかくなった?踏ん張りがしずらい)


リュダが地面を確認している瞬間。

クロアが腕を振るう。


「なっ!」


無数の水玉が自分に向かって飛んできている。


「くっ!」


己の身体能力のおかげで避ける。

そのまま水玉が後ろの木々に撃ち込まれる。


ゴシャァ!


異様な音と共に木穴が空きかけている。


「無口頭魔法!?」


クロアは続けてその水玉、いや水弾を撃ち続ける。


「チィ!」

(この暗がり、その上柔らすぎる地面、なんて視認性の悪さと避けずらさだ!)


何とか避ける、が。


「ぐっ!?」


水弾の一つが肩に当たる、想像以上の威力。


昔に聞いた、団長の言葉を思い出す。


-----∇∇∇-----


「ん?無口頭での魔法が凄い事だって?」

「アハハ、そりゃぁ凄い事だよ。魔導士として出来ると出来ないとじゃぁ魔法発動のスピードが違いすぎるからね」

「でも、私が無口頭で扱えるのは自分の固有魔法と生活魔法程度。攻撃や防御は流石に無理」

「リュダには分からないかもしれないけど、魔法って言うのはイメージや経験が凄い大事なんだ。火を飛ばすイメージや、風が吹くイメージ。でも棒立ちしてそれらを行うのは非常に難しい。てか私には無理」

「だから皆、イメージしやすい魔法の名前や、指や腕で指向性を決めたりしてイメージを補完する。そうすることで精度の高い魔法を扱えるから」

「だから覚えておきなさい、無口頭魔法で攻撃や防御をしてくる奴が居たら・・・」


「迷わず逃げるか、絶対に殺すかを決めなさい」


-----∇∇∇-----


(彼は・・・危険だ!)


リュダは、決める。

目の前の少年を、いやこの男を、殺す事を。


「ふんっ!」


「!?」


リュダが周りの木々を飛び回る、地面に居るのが危険だと思ったのだろう。


(魔力を追えないから、目で追うしか無いけど、無理だな、速すぎる)


クロアは見つけるのを諦める。


(一か八かだけど)


魔力循環の出力をさらに上げる。


(もっと込めろ・・・)


肌に、筋肉に、神経に、臓器に、骨に、脳に。

クロアの膨大な魔力を、集中力を上げる。


(立ち止まっている・・・?何かを考えているのか)


リュダが移動をしながら、クロアを観察する。


(だが、彼には私を感知することが出来ないはず、ならば・・・!)


さらに速度を上げる、この男は、ここで屠ると。


森の中で、枝の折れる音と、葉がざわめく音だけが聞こえる。

リュダを感知することはクロアには出来ない。

だが、リュダもクロアの異様な魔力に気付けない。



(もらった・・・!)



超速な斬撃。

リュダの剣は確かにクロアの首の後ろを捉えた、捉えてしまった。


「!?」


斬れていない、刃は確かに当たっている、血も流れている、だがそれは、まるで薄皮一枚を何とか斬ったような。


「だと思ったよ」


その言葉と共に、クロアがリュダの腕を掴む、そして。


「解体」


クロアの固有魔法が発動する。


「ぐがぁっ!」


リュダがクロアの手を振り払う、しかし。

服や軽鎧には傷が無い、だと言うのに身体が、斬られている。


「魔力を持った者に使った場合でも、抵抗されるけど、やっぱり身体が強い人でも一撃で殺すまではいけないか。まだまだ出力不足だな・・・」


そう言いながら、魔法を構える。


「はっ・・・はっ・・・!」

「何故だ・・・どうやって・・・」


「どの疑問かな、首が何で繋がってるのかを答えると・・・首から上に魔力を全部集中させた」

「きっと、お前は俺を一撃で殺しに来ると思ったよ。そして人を一撃で殺すなら首から上を壊すこと。脳天ならもっとも良いってとこかな、でもお前は剣士だから首に最も注力したけどね」


クロアの全魔力を注力させた肉体はリュダには斬り落とせなかったのだ。


「もちろん一か八かだけどね、まぁでもお前とはさっきまで打ち合ってたからな、恐らく守れるとも思ったよ」

「それにその剣、優れてはいるけど魔力を帯びた剣でも無いからね」


「この・・・傷は・・・君の魔法か・・・」


「その通り、本来なら俺も首から上を斬り落とす気だったんだけどね。まだまだ出力が足りなくて身体を斬るのが限界だったみたいだ」


「は・・・はは・・・」


リュダは、笑っていた。


「王国とは、恐ろしいな・・・君の様な子供が、存在するのだな・・・」


「さっきも言ったでしょう、俺は特殊みたいだよ、家族からも良く言われる」


「そう、か・・・」

「・・・一つ、聞いて良いか」


「何?」


「名前を、教えてくれるか」

「私の名前は、リュダと、言う」


リュダは、剣を支えにしながら、クロアの目を見る。


「・・・イストフィース・リーゼ・クロア。イストフィース家の長男だ」


「強い目を、しているな・・・」


その言葉を最後に、リュダは力なく倒れ込む。


「お前も・・・いや貴方も強かったよ。正直、二度は戦いたくないな」


クロアは倒れたリュダに近づく。


「さっき言ってたよね、多忙な地位だって。悪いけど、戦争だからね、敵将の首は貰って行くよ」


クロアがリュダに触れようとする瞬間。


「がぁあ!」


最後の力を振り絞り、剣を振るう。

だが。


キンッっと鉄の音。


「言ったでしょ、俺の家が特殊なのかもって。戦士や騎士ってのは、最後まで力を振るうと、知っているから」


クロアは捨てた剣を拾っていた。

その剣で、リュダの最後の一振りを受け止める。


「解体」


リュダの首を、落とす。


「・・・本当に、強かったな」


首を布に包み、歩みを進める。


「いてて・・・気が抜けると、痛みが・・・」

「取り敢えず、ザゼン殿達と合流しようかな・・・」





一つの決着が付く。

それは、この戦争を決定づける、一つの勝利だった。

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