馬車のありがたみを改めて知る
窓から刺さる朝日に目が覚める
眠った時間はそんなに長く感じないのに、疲れが取れているのが感覚で身体に伝わる
「父上は・・・さすがですね」
「おはようクロア、よく眠れたか?」
父が朝から剣を振っている
部屋が広いから父が鍛錬していてもだいぶ余裕がある
「朝から元気ですね、父上は」
「お前も領では朝からよく走り込みをしているではないか」
「そうかもしれませんが、流石にこういう時ぐらいは休みますよ」
時々にしか訪れない静かな朝に高級なベッド
しっかり休まねばもったいない
しかしそうも言ってられない、俺も起きねば
「どーぞ父上」
父にタオルを投げる
「うむ、ありがとう」
汗を拭いている父を横目に俺も身支度を済ませる
昨日まとめておいたからすぐに準備は終わる
「ショウナ様に挨拶しに行った方が良いですかね」
「ああ、ここまで世話になったのだから出立する時に顔を見せねば失礼だろう」
ということはまずは教会に行って馬車の乗り合いに行く感じだろうか
「俺の準備はできていますよ、父上はどうですか?」
父が鍛錬着からよそ行きの服に着替え
「私も大丈夫だ、行くとするか」
父と二人で宿屋を出る
宿屋が教会から近いので歩いて挨拶をしに行く事になった
「朝から行って迷惑ではないでしょうか、お祈りの時間などもあるのでは?」
「聞くところによるとここの教会は祈りを捧げるのに決まった時間がないそうだ、いつどんな時間でも祈りを捧げられるように時間を決めていないらしいぞ」
「なるほど、それなら朝起きられない人も安心ですね」
姉様が頭によぎる
「そう言う事だ、もう目の前だぞ」
教会の扉を開ける
中に入るとほかの人は特に居なかったが、銅像の前に一人の見覚えのある女性が祈っている
扉の音に気付いたのかこちらを振り返ると
「おはようございます、イストフィース殿」
「クロア君もおはよう」
「お祈りの中失礼します、おはようございますショウナ様」
「おはようございます」
「もうご帰宅なさるのですか?」
「はい、流石に自分の領を長く開けておくわけにもいきませんので」
「なんだか驚く事があったから大変だったでしょう、お二人の帰路に不運が無いことをお祈りしておきます」
「ショウナ様には色々ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした、その上宿なども用意
していただいて」
「いいのですよ、困ったときはお互い様ですからね」
「ありがとうございます、長居するのも失礼でしょう、我々はこれで失礼いたします」
父と二人で頭を下げる
「クロア君」
「はい、ショウナ様」
「もし機会があったら、クロア君の魔法見せてね」
「わかりました、その時は使いこなせるように日々精進します」
笑顔を我々を見送ってくれる、王都の聖女と呼ばれているのはあの人なのかもしれない
「では乗り合い馬車に行きましょうか」
「ああ、帰りまでは贅沢できんからな」
我が国フローレレ王国には素晴らしい移動手段がある
ベガトリオン運送という組合がこの国の運搬のほとんどを担っている
手紙の配達、馬車での人の運搬、さらに大金になるが空中移動手段もある
この馬車での運搬の仕組みが今ではかなりの平民やお金に余裕がない我々のような貴族の移動手段となっている
馬車で走るルートが決められており、止まるところと行く所にすべて時間で馬車が来るようになっているのだ
馬車に乗る者は止まるところ、つまりは停留所で降りたりそこで待っていたものが乗ったりできる
しかもかなり賃金が安く、大人は一人銅貨二枚、子供は無料で乗れるのだ
さらに時間が決められているからもし大幅に遅れていたりした場合、その時間の馬車に何かあったのだとわかりすぐに組合から兵士か雇われている冒険者などが馬車のルートを探索する
これによって賊などの被害がほとんど出ないようになっている
国がお抱えの組合に手を出す者などいないのだ
そうしてフローレレ王国では毎日様々な所で人を乗せた馬車が走っている
我々の領にも当然走っているのだが如何せん我が領が王都から離れすぎているため朝から乗り継がなければ領地にたどり着けないのだ
王都の停留所に行き父と二人で乗る
朝一番の馬車だからか我々以外に人がいない
「朝一は流石に混んでいませんね」
「朝早くから王都を出る人が少ないのだろう、そもそも王都で仕事している者ならば馬車には乗らんだろう」
「それもそうですね、これなら多少ゆっくりできそうですね」
「出発しまーす」
御者が声を上げて馬車が動き出す
改めてこの組合には感謝せねば・・・
無料で乗れる自分は何だが得をした気分になれる
それに組合の取り組みは俺は好きなのだ
まったくの差別をしない、組合のやり方が
クレドリア大陸には様々な人種がいる
人間、エルフ、ハーピィ、ドワーフ、獣人、竜人、魚人などなど
クレドリア大陸では人間が一番多いが他の人種もかなり多い
そうなればどうしても差別というものは多かれ少なかれ起きてしまう
特にハーピィ族はその筆頭である
すべての種族にそれなりの強みがあったりするのだがその中でハーピィ族は少々劣ってしまっている歴史があるからだ
どの種族でも魔法は扱えるのだが基本属性の偏りがあるのがハーピィ族である
人間やエルフは魔力が高い者が多く、ドワーフや獣人などは身体能力がかなり高かったりとあるのだがハーピィ族はどれもさほど優秀でない者が多いのだ
空なら竜人も飛べてしまうが故に更に差別が酷かったのだ
しかしベガトリオンの創始者はこのハーピィ族に目を付け、仕事を頼むために自ら頭を下げに行ったのだとか
空を飛ぶというのは羽がある種族なら基本的に可能なのだが空での速度がハーピィ達はすさまじく早かったのだ
これはハーピィ族の習性のようなものらしく
空を飛ぶことを楽しむ
という家訓のようなものが一族で受け継がれてきた歴史なのだという
今では手紙の運搬や軽い物資であればハーピィ族が運んでくれて、すさまじい速さで手紙のやり取りなどができる事から戦地での情報交換などで王国では情報の切り札として扱われる様にもなっているらしい
この取り組みからフローレレ王国ではハーピィ族の差別が薄く、いまでは王族のお気に入りの配達人がいるとかいないとか
故に俺はこの組合が好きだ、陸海空すべてであらゆる人種を雇い何処へでも配達をするのが、ベガトリオンの取り組みなのだ
馬車の乗り継ぎなどもハーピィ族の雇い入れもすべて創始者が始めたことだったと聞く
そしてこの創始者は例外者である
こういったことが多いから例外者の考えには普通とは違う何かがあるのだと思っている
さて、この乗り継ぎの旅は一日掛かりそうだ
「父上、俺は例の書物でも読んでおきます」
「そうか、では私は少しだけゆっくりさせてもらおう」
父がそう言って目を閉じながら座る
剣は抱えたままだから周囲の警戒を解いているわけではないのだろうけど
基本襲われないとはいえ、こういったところはやはり騎士精神が抜けないのだと思う
「では読み込んでおくとしようか」
それと固有魔法の使い方と、鍛え方も考えておくことにしよう
馬車で揺れる感覚が少し懐かしく感じた
この二日でまた世界の広さを知れた気がする
眩しい朝日が行く道を照らしている
王都を出て土草の香りが鼻をくすぐる
帰ろう、自分達の家へ