国境戦 ⑩
今日もまた、開幕の一撃として、極光が王国軍の砦を包もうとしていた。
しかし当然ながら、それは防がれる。
だが、帝国の攻撃は変化する。
「なんなんだよ!あれじゃ俺らは捨て石かよ!」
帝国軍は、内紛が起きる寸前まで来ていた。
「捨て石では無い、罪人としての刑を軽くしてやると言っているだろうが」
「ふざけんな!俺達ごと殺す気だろうが!」
一人の男と、群衆が言い争いをしている。
「あれは・・・」
「あんな事をすれば、爆発するのは当然でしょ。私も出来るだけ反対したんだけどねぇ」
アウフルとリュダが遠目に帝国幹部の男を見ていた。
「そもそも早く終わらせたいからって、仲間ごとやるとか、本当に彼らは単純だね」
「仕方が無いかも知れませんね、あそこに居る彼も戦場に来たのは初めてでしょうから」
群衆との言い争いが終わったのか、こちらに向かってくる男。
「おい、いつまでこんな無駄な事を続けるつもりだ。お前達は戦争が本職だろう、さっさと終わらせろ」
「そうは言われましても、王国軍の強さもこの数日で理解されているのでは?そんなにすぐ勝てているならこの戦場は長引きませんよ」
アウフルは上官である彼に、いつもの様に反論する。
「チッ!ゴロツキ崩れごときが、貴様らもさっさと出撃すればいいでは無いか、何故出撃しない?」
「指揮官が前線に行くなんて事しませんよ、それとも私の部下を全員あなたが扱いきれると?」
「・・・フン、貴様が生意気なのは聞いていた、だから一つ面白い話をしてやろう」
「面白い話?」
アウフルは特に期待もせずに聞き続ける。
しかし。
「貴様には可愛い息子が居るそうでは無いか」
「!?」
その言葉に、掴みかかる。
「ぐぅっ!?」
「団長!」
「わかってるよ!」
「誰から聞いたか知らないけど、あの子に何かあったら・・・お前らの死体で素敵なオブジェでも街中に作ろうか?」
「離せ!この狂人が!」
アウフルから離れる男。
「上官に掴みかかるとは・・・ガキが心配なら終わらせろ、あの兵器をもっと使って帝国の威光を見せつけろ、ノロマ共が・・・」
男がそそくさと自分のテントに帰って行く。
「団長」
「・・・はぁ、あいつらの誰かがゲロっちまったのかな。私の軽率さでもある、仕方ないか」
「でも、いい子ちゃんぶるのは、どうやらここまでみたいだね」
「それでも私は、団長のしていたことが間違いだとは思いません」
「ありがとう、でも、私も結局同じさ。自分の大切な物と天秤にかけて、結局は自分を取るのさ」
「それが普通だとは、思います」
「伝えて、限界まで使えって」
「・・・了解です」
リュダが離れていく。
「情けないお母さんでごめんね・・・でも、あなただけは、守って見せるから」
呟きながら、アイフルはレザーの腕輪にキスをする。
-----∇∇∇-----
「魔導士じゃない者でも構わん!防壁を作り続けろ!」
ザゼンが叫んでいる。
「これが本来の使い方って事なのか・・・?」
クロアが考えているが時間は無い。
すでに、あの極光が三度もこの短時間で放たれているから。
カランクレス軍は二射目が来た時には対応をしていた。
撃たれれば撃たれるほど威力が下がっているのは分かる、しかし。
「来るぞぉ!!」
極光。
今日すでに四度目の光。
目に見えて威力は落ち切っている、だが同じぐらいこちらも戦力がすり減っている。
「ぬぅ!城門は!?」
「大丈夫です!しかし魔導士の数がすでに・・・」
「こんな事ならば、もっと連れてくるべきじゃったわ!」
「無いものねだりしている暇は無いです、備えましょう!」
「まるで孫に怒られた気分じゃ!」
ザゼンとクロアが備える、けれど、あの魔力の起こりは感じられなかった。
「・・・あちらも限界だった、と考えて良いのかの」
「こちらからしても、願ったり叶ったりですが・・・」
休息もつかの間、いつもとは違う音が聞こえる。
耳を傾ければ、それは鉄の音。
鎧では無い、速く走るような。
「まだそんな戦力を隠していたか!」
蹄鉄を鳴らしながら、軍馬がこちらに向かってきているのが遠くに見える。
「よくやったぞお前ら!ここからはまかせろ!」
フェーネ様達が次々と出撃していく。
「軍馬相手に・・・すごいな」
「あの程度ならフェーネ様は後れを取らないでしょう」
自信満々に言うザゼンさん。
「それより、我々は今夜の為にも休みましょう」
「それを言うならフェーネ様もですが・・・」
「本人が大丈夫と言っているなら大丈夫ですよ、私達が心配してもフェーネは動いてしまうから」
アルティ様が来ていた。
「お二人共、ありがとうございます。そして申し訳ございません、お二人にばかり負担をかけているようで・・・」
「何のこれしき、まだまだ元気ですぞ姫様」
力こぶを作りながらアピールするザゼンさん。
「僕も、まだ平気ですよ。魔力の多さには多少の自信があるので」
涼しい顔で頭を下げるクロアに、アルティは分からなかったがザゼンは引いていた。
(あれだけ使用しても底が見えん・・・フェーネ様も言っていた様に、本当にとてつもない子のようじゃな)
「では、お二人も戻りましょう」
「はっ!」
「お供します」
「しかし、今回の攻撃、いつも以上に苛烈です・・・」
「姫様もわかりますか。しかし儂には焦りにも思えましたな」
「焦り、ですか」
「はい、帝国もいつまでも戦う事は出来ますまい。彼らは我々と違い隣国の数が多い、しかも友好国も少ない。いつまでも家を空ける訳には行かないと言う事です」
「ならば、私の覚悟は丁度良かったのかも知れませんね」
「彼らにも、何かここまでする理由があるのでしょうね。僕も帝国と戦うのは初めてですが、鬼気迫る、とでも言うのでしょうか。重圧の様な、そんな気迫を感じます」
三人はこの戦いについての思いを語りながら、今夜の為にも一度、戦線から離脱する。
-----∇∇∇-----
夜が、更ける。
鉄と魔法と怒号の音しかしない戦場に、静寂と暗闇が訪れる。
「皆様、準備はよろしいでしょうか」
アルティが後ろを振り返る。
少数ではあるが、そこには闘志が宿る者達しか居ない。
「聞くまでも無かったようですね。カランクレス軍、出撃します!」
アルティ様の号令と共に、侵攻が開始される。
「姉様」
「どうしたの?」
「忘れないでくださいね」
「分かってるわ、アンタも気を付けなさいね」
「ご武運を」
「また後でね」
部隊が二手に分かれる。
-----∇∇∇-----
「この辺りじゃの」
暗がりで地図を確認しながら進む。
少し開けた場所にでた。
「姫様達も、そろそろ着いた頃じゃろう。皆準備は良いか」
全員が頷く中。
クロアは、その危険性を考えていたからだろうか。
彼が警戒心を解かなかった理由があったから、それに、反応できた。
「!?」
剣と剣が衝突する音が、突然響く。
「おや、今の一撃を防ぎますか」
男がクロアを見て下がる。
「こやつ、いつの間に!?」
そこで全員が構える。
「あなた方は王国軍の方ですよね?良いのですか、今から帰るのであれば見逃しますよ」
「この人数差で良くそんな強気な発言ができるな」
ポールト様が挑発をするが、男は表情を全く変えない。
「確かに少々多いですが・・・微々たる差ですね」
「ザゼンさん、これの相手は僕がしますよ」
「クロア殿、それはいかん。お主に置いて行くぐらいなら儂が残ろう」
「目的の問題です。僕達は陽動と誘導が出来れば逃げれます。ですがアルティ様達の目標を足止めするリスクが高すぎる」
「それに、反応きたのは僕だけのようですから」
「じゃが・・・」
「クロア君」
「どうしたましたか、ポールト様」
「逃げる事は、いつでもできるのかい」
「逃げるだけなら、いつでも」
その言葉に、ポールト様は頷く。
「ザゼン殿、我々の目的を果たしましょう」
「しかし、それは・・・!」
「構いませんよ、それが、戦争と言うものでしょうから」
「お話は終わりましたか?帰り道はあちらですよ」
その言葉と同時に、クロアは上に炎の魔法を打ち上げる。
それは上空で、夜空を彩るように、破裂音と共に鳴り響く。
「あれは・・・」
「皆さん、目的を果たしましょう」
クロアの言葉に、部隊が帝国軍に走り出す。
男が止めに入るが、クロアがそれを許さない。
「悪いけど、僕と踊ってくれませんかね」
「少年をいたぶる趣味はありませんよ」
またも、鉄が弾けるような音。
「君、魔導士では無いのですか?何故、剣を持っているのでしょう」
「便利でしょう、こうして接近も行えるわけですから」
「なるほど、では君を殺してから、先程の彼らも殺しましょう」
凶刃が、迫る。
-----∇∇∇-----
「あれは!」
「合図ですね、行きましょう!」
アルティの部隊も歩みを進める。
「お嬢様、できますか?」
「少しだけ、時間を下さい」
アルティが、固有魔法を扱う。
アルティの固有魔法、『超感覚』
あらゆる感覚の超絶強化、視力・聴力・嗅覚・味覚、そして魔力の探知さえも。
しかしこれは身体にとてつもない負担がかかる。
本来なら聞こえないはずの音も、匂いも、そして魔力も感じ取れてしまうと言うのは、脳や身体への負荷が大きい。
服装の布切れが擦れた音や、戦場の嫌な臭いと自然の匂いが混じった匂い。
そして膨大な広さの魔力感知。
それらをかき分けて、目的を探し出す労力が、アルティにのしかかる。
「っ・・・」
「お嬢様、頑張れ!」
「アルティ様・・・」
アルティは、そこで初めて感じ取った。
遠くに居るはずの膨大な魔力、それは一人の少年の物だと。
(これは・・・これが・・・)
アルティは考える、だが。
(今は、それじゃない。落ち着いて探すのよ)
探し出す、自分達を苦しめた物の魔力を。
そして。
「ありました、少し離れた所ですが昼間にも感じた魔力です」
「流石です、お嬢様」
「それに、何人もそこに向かっていました。やはり防衛にも力が入っているようですね」
「陽動隊も動いてくれているみたいだし、アタシ達も行きましょう」
「皆様、我らに勝利を!」
「「「はっ!!」」」
各々の力がぶつかる。
この夜、決着が付くのだろうか。
闘志の籠る戦士達の中で、裏切りの眼光が、怪しく光る




