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国境戦 ⑨

「むむ・・・」


報告を見て顔をしかめている男、カランクレス家当主。


「どうしたのだ、ドーバル」


「ウィンか・・・どうやらアルティの戦場が大分押されているようでな」


「それは・・・!」


ウィンにも焦りが出る、当然である。


「心配するな、お前の娘達はまだまだ元気なようだ」


「そうだったか」


一安心するウィン。

その様子を見て、ドーバルが口を開く。


「すまない、本来ならお前の家族は全員同じ場所に配属するはずだったんだがな」


悔しそうに告げるドーバル。


「よしてくれ、仕方がない事だと、私もあいつらも分かっているさ」


何かと悪目立ちが多いウィンは、貴族達から疎まれる事が多い。

なので嫌がらせの様に、難癖を付けてくる。


「それにドーバル、お前だって娘も初陣は自分の目で見たかったのでは?」


「当然だ、しかしアルティなら実力でそれを示すと信じておる」


二人の親馬鹿が同時に頷く。


「とは言え、まるでアルティを狙っているような戦況だ」


「やはり、あの件は本当のようだな」


裏切り者、その存在をどうやって見つけることができるのか。


「少なくとも、この戦争の間はあぶりだすのは不可能だろうな。もし見つけてつるし上げても今は士気が下がるだけだ、やるべきでは無い」


「早々に決着を付けるしか無い、か」


「我々も目の前の帝国軍にしっかりと対処せねばな」


「そのつもりだ」


二人の当主は、自分達の娘と息子を信じて、軍議を続ける。





-----∇∇∇-----





「侵攻しましょう」


その言葉に、部屋の空気が変わる。


「正気ですか!?」


一人の貴族がアルティ様の言葉に反応する。


「私は正気です」


それは王族や多くの貴族達の言葉を無視する行為そのもの。

事と次第によっては反逆と言われるかも知れない。


「ご乱心なされたか、アルティ様」


「今、正気だと述べたはずですが?」


貴族達がざわついている。


「現状、我々は帝国軍に押されています。しかもただ押されているだけでは無く、敗北寸前と言っても過言では無いでしょう」


「何を言い出すかと思えば・・・初陣で怖くなってしまったのですかな」


一人の貴族がアルティ様をあざ笑うように喋る。


「では、あなたにお聞きしましょう。我々がここから勝てる作戦でもあると?」


「それは・・・」


押し黙る、彼だけでは無く、その場にいる全員が。


「・・・ですが、皆様が反対するのも分かっておりました」

「ですので、これから侵攻するメンバーを話します、そしてそれ以外の皆様は、黙認して頂けると幸いです」


その言葉に驚きを隠せない者が多かった。


「王家や他の貴族に虚偽の報告をしろと言うのですか!?」


それは決して許されない行為だろう、だが今それを気にしている場合かと言えば。


「黙認して頂けないのなら、そのまま報告して頂いても構いません。しかしもし、この侵攻で我々が戦果を挙げた場合、あなた方は何もせずに砦で待っていた、と報告する事になりますわね」


アルティは畳みかけるように話を続ける。


「勿論タダで黙認して欲しいとは言いません、もし黙認して頂いた場合、戦果を挙げた時には皆様の戦果として頂いても構いません」

「さらに侵攻するメンバーは下級貴族の方々に勤めて頂きます、もし敗れた場合は彼らの独断だと報告して頂いても構いません」

「これでもまだ、不安があるのならば・・・この戦場から逃げて頂いても構いません」


それは脅しにも近かった。

当たり前だ、戦場から逃げ出すなどもはや敵前逃亡、貴族として最悪の恥。

さらに黙認をしなかった場合も、万が一戦果など挙げられよう物なら、自分は何もしてませんでしたと、報告するようなものだ。

それに、死ぬ可能性があるのが下級貴族だと言うなら、彼らは。


「・・・そこまで仰るなら、私は異論在りません」


「なっ!?」


「ありがとうございます」

「他の方々は如何ですか?」


アルティ様が見回す。


「構いません」

「戦果が頂けるなら」

「勝手に死ぬのが彼らなら別に」


「では、皆様の意見が一致したようなので」


アルティ様が一呼吸を置き、侵攻するメンバーを発表する。


「イストフィース家、ポールト家、グラオラス家、そして我が兵が侵攻します」

「目的は帝国軍の兵器の破壊、及びに戦力を削る事」

「可能であればそのまま帝国軍の領土を占領します」


「お待ちください!」


最初に反論をしていた貴族が、言葉を遮る。


「兵器の破壊までは黙認しましょう、しかし領土の占領は行き過ぎでは?」


「・・・その驕りが、帝国をつけあがらせているのでは無いですか?」


アルティ様が、声を上げる。


「我々からは攻めない?領土を奪わない?そんな綺麗ごとのせいで、今日まで一体どれだけの命を散らせてきたのですか?」

「帝国はすでに命を捨ててまで、この戦争勝とうとしている、その中でまだ、あなた方は防衛に徹するなどと言うのですか?」


すでにこの戦争がいつもの小競り合いでは無いのは確かだった。

この戦いの歴史を知っている者達も、現状が異常である事は分かっている。

それでも、手をこまねいているのは、王国の方針を守っているからと、侵攻をしたことがほとんど無いから。

王国は歴史の中で、たった一人の女王が、ここまでの国を築いたのだ。

かの女王が退いてからは国土を広げた事は限りなく少ない。


「すでに、待っているだけの時間は終わったのです。あちらもすでにそれだけの覚悟を持って、この戦いに挑んできている。ならば私達も迎え撃たねば、負けるだけです」

「そしてもしこの戦いに負ける事があれば、それはカランクレス家として責任を取ります」

「何か、意見がありますか?」


アルティ様のその言葉に、反論する者は、居なかった。





-----∇∇∇-----





「ふぅ、緊張しましたわ・・・」


「かっこよかったですよ、お嬢様」


「流石我らの姫様です」


「二人共・・・ありがとう」


軍議が終わり、侵攻するメンバーだけしかいない部屋。

フェーネ様とザゼンさんがアルティ様を褒めている。


「皆様も、申し訳ございません。悪者扱いの様に・・・」


そして俺達、下級貴族に頭を下げる。


「構いません、打ち合わせ通りでしたから」


「ですが・・・」


「そうですよ、アルティ様が俺達に頭を下げる理由なんて無いぜ!」


グラオラス家当主、グラオラス・レント・ヴェルム子爵。

カランクレス家の派閥の筆頭でもある、実質的にカランクレス家の配下。


「ありがとう、ヴェルム殿」


「私からも、平気ですよ。何よりここで逃げたら息子に顔向けできませんからね」


ポールト家当主、ポールト・エル・パキラ子爵。

南の貴族の一人、イストフィース領とも近く、多少見知った中である。


「ありがとうございます。それでは、作戦を詰めて行きましょうか」


そうして、兵器の破壊の為の作戦が開かれる。




「まずは、誰が破壊に行くか、ですね」


「儂からよろしいでしょうか」


「どうしたの、ザゼン?」


「恐らく兵器だと思われていますが、現物を見ていない我々からすれば兵器なのかもわかってはおりません。となると、あの凄まじい魔力をたどる事になると思います」


「そうね、ハーピィ隊もすでに何人かの犠牲を生んで偵察を行っているけど・・・使っていない時は隠されているのか、兵器が見つかってないわ」


「つまり魔力感知ができる者が行くのが前提になると思われるのじゃが、皆様の中で感知が得意な方はおりますでしょうか?」


全員が顔を見渡す。

その中で。


「ごめんなさい。私は苦手、魔法そのものが苦手なの」


エリア姉様が手を挙げる。


「それで言うなら俺も苦手だなぁ、殴り合いの方が得意だ」


グラオラス様も手を挙げる。


「そうなると・・・ポールト家かザゼンか、イストフィース家の長男が破壊するのがベストなのか?」


フェーネ様が俺達をを見て言う。


「借りに兵器だとして、帝国もあの兵器はかなり大事にしている可能性があります。破壊するならば人数は欲しいでしょうね」


「確かに、クロア殿の言う通りじゃな。しかし相手がかなりの警護をしているなら、魔導士隊である儂らとクロア殿は少々不利かも知れませんな」


「何故ですか?ザゼンとクロア殿なら簡単に勝てるのでは?」


「姫様、我々の力を買っていただき有難いのですが、問題は魔力の多さです」

「多くの魔力が固まって動けば敵方もそれ相応の対応をしてくるでしょう。その上帝国からしても、目的が何かを理解するのは容易でしょう」


「なるほど、帝国からしても兵器が狙われるのは当然と言う事ですね」


「でしたら、一つ」


クロアが手を挙げる。


「僕とザゼンさんなどの、魔導士の数名で帝国の拠点近くで暴れるのが早いかと」


「ほう、誘導するという事ですかな?」


「誘導もそうですが、恐らく帝国も襲われる事を想定していないはずです。いきなり襲われているかも知れないと思えば、兵器を守ろうと動く者を多いのではないかと」


「敵に兵器までの道案内をしてもらおうって事か、頭いいなお前」


フェーネ様が感心している。


「確かに、帝国からしても初めての事と言うのは忘れてはいけないかも知れませんね」


「ってなると、俺やフェーネ様が兵器の破壊に行った方が良いのか?」


「そうでしょうね、グラオラス殿やフェーネ様が隠密をしながら兵器の破壊へ、そして私やザゼン殿、クロア君が囮になるのが良いかと」


ポールト様が賛成する。


「その・・・皆様」


アルティ様が、何かを言い出そうとしている。


「私も、出陣します」


アルティ様の発言に、フェーネ様とザゼンさんが一早く反応する。


「「ダメです!!」」


「何故ですか!?」


「お嬢様は指揮官なんですよ、一番の前線に行くなんて・・・」


「それにドーバル様から姫様をお守りするように承ってます、それは許せません」


「けど・・・」


アルティ様が俺とエリア姉様を見つめる。

恐らく、居ても立っても居られないのだろう。

その感覚も分かるので、これは、どうするべきか・・・


「あの、良いでしょうか?」


姉様が発言する。


「私は別にいいんじゃないかと思っているのですが、ダメなのですか?」


「そうですよね!エリアさん!」


アルティ様が姉様の手を取る。


「おい、これはカランクレス家の話だ、お前が割り込むなエリア」


いつの間にか名前で呼ばれる程になっていたのか、俺もザゼンさんと呼んでるし同じか。


「それに、お父様も指揮官だけど前線に出ているじゃない、何故私は駄目なの!?」


ここにきて正論、うちも一番上の当主である父上が一番に出撃をするからな・・・


「それは・・・まだ姫様には早いと言いますか・・・」


「それならイストフィース家のお二人はもう前線で活躍しているじゃない!」


さらに畳み掛ける、これはどうだ?


「ぐぅ・・・クロア殿も何か言ってください」


俺に振るのか、ザゼンさん。


「・・・あくまでも僕の意見ですが、アルティ様の出撃に関しては何も言えません。お二人が言っていた様に今ここではアルティ様が指揮官ですから」


「なっ!?」


ザゼンさんが驚いている、止めてくれるとでも思っていたのだろうか。


「それに、さっきの軍議でアルティ様が仰っていた言葉を、お忘れですか?」

「この戦争は、もういつもの小競り合いでは無いのです。ならば全力で、出来る限り成功率を上げる事を、悪い事とは言いません。勿論、指揮を執る者が最前線に居る事が良い事とも思いませんが」


「ぬぅ・・・」


「クロア殿・・・」


ザゼンさんがしかめっ面をしている反面、アルティ様が少しキラキラしている。


「・・・ハァ、おいザゼン、諦めるぞ」


「フェーネ様?」


「お嬢様はこうなると頑固なんだ、一緒に居るから良く知ってる」


「なっ!?頑固ではありません!」


少しだけ、部屋の中が笑みに包まれる。


「皆様まで・・・もう」


「まぁ、お嬢様はアタシが守るよ」


「・・・分かりました、儂も少々過保護が過ぎているのかも知れませぬ・・・しかし、いざと言うときはお願いします」

「では、部隊はこうしましょうか」


そうして、兵器の破壊と陽動隊が分かれた。

兵器の破壊を、アルティ、フェーネ、グラオラス、エリアと数名の騎士が。

帝国軍の陽動を、ザゼン、ポールト、クロアと数名の魔導士が。


「奇襲とは言え、恐らくかなりの抵抗が予想されます、この戦場に居るかは分かりませんが、帝国軍の団長にはお気をつけて」


「あいつか・・・戦いたくはないな」


「フェーネは知っているの?」


「はい、少し前の戦いの時ですが、あの女の固有魔法が厄介すぎて。アタシはその時戦わなかったんですけど、部隊が結構滅茶苦茶にされました」


「固有魔法・・・」


「お嬢様もお気を付けください」


「確かに、その方が守っている可能性もあるのですね」


「いざとなったら俺がぶっ飛ばしますよ!」


「グラオラス・・・多分お前じゃ勝てねぇぞ」


「まじすか!?」


フェーネ様とグラオラス様がじゃれている、元から知り合いだからか仲が良さそう。


「儂らの方も気を付けましょう、こちらに来る可能性もあるだろうからの」


ザゼンさんが声もかけてくれる、ポールト様もなんだか俺を見ている。


「まさか、息子と同じぐらいの子と、一緒に帝国に攻めに行くなんて、夢にも思わなかったよ」

「だけど、君の力はすでに何度も目にしている。よろしく頼むよ、クロア君」


そう言って、手を差し出してくる。


「こちらこそ、ポールト様の背中を見て、学ばせていただきます」


手を握り、一礼する。


「ははっ、私から学ぶ事なんて、君にはもう無いんじゃないかな?」


笑いながら、そんな事を言ってくる。


「まとまったようですね・・・改めて、皆様」


アルティ様が全員の顔をもう一度見て、一礼をする。


「私の覚悟にお付き合い頂き、ありがとうございます」


その言葉に、その場にいる全員の気が引き締まる。


「明日の夜、帝国に攻勢を開始します。どうかその時までお休みください」





歴史が動き出す。

ある女王が広げ続けた広大な地。

その地をまた、一人の少女が、勝利の為にに広げようとする。

これ以上奪われないために、これ以上奪わせないために。

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