国境戦 ⑧
あれから直ぐに、防衛魔導士隊が組まれた。
簡潔に言えばあの膨大な魔力攻撃にのみ集中する部隊。
かなりの威力を誇っている物ではあるが、撃ってくるタイミングと目標が分かりやすいので対策もし易い。
撃ってくる場所は決まって城門、多少ズレても城門周り。
タイミングは膨大な魔力の起こりもあるが、攻め込んでくる者が居ない時、すなわち味方に被害が出ない様にしているのだろう。
つまり敵軍が近くに居る時は放ってこないので、昨日と今日は開幕の一撃として放ってきていた。
しかし、魔導士をそちらに割いてしまっているので、ザゼンやクロアの部隊の人数が単純に少なくなってしまったのだ。
「くっ!」
「うわ!」
帝国軍からの攻撃もどんどん激しくなっている。
さらには前衛部隊にも兵器が投入されているのか、現状少し押され気味である。
「この程度で項垂れるなよ!」
ザゼンさんが気合いを入れている、何とか保っているが俺も少しきつい。
「クロア殿、まだいけるか!」
「はい、まだ戦えますよ」
そう言いながら、魔法攻撃を防ぐクロアとザゼン。
二人が居なければ魔法での遠距離戦はすでに、カランクレス軍が敗北している可能性がある。
魔導士隊の防衛は単純に相手の魔法を防ぐ事と、飛び道具を砦に投げ込ませないのが仕事になる。
余裕があるならそのまま攻撃も行う。
こうして、カランクレス軍は押され気味ではあるが、現状では帝国軍も一歩届かない。
そんな数日が続いていた。
そしてそんなある日だった。
-----∇∇∇-----
「オオォォォ!!」
戦闘の中で、クロアは一つ気づく。
「・・・?」
「クロア殿、どうされた」
ザゼンが声を掛ける。
「何か、変じゃないですか。いきなり攻め込んでくるのもそうですが、敵軍の人が少し変わってませんか?」
塀から戦っている兵士達を見ると、いつもの様な制服を着ている軍人達では無かった。
「確かに妙ですな、いつもの見ていて目が痛くなる赤色の上着を着ていませんな」
ザゼンさんも疑問に見えるか。
「それに、何だか攻める気概を感じないと言うか・・・弱くありませんか?」
この頃の攻め落としてやるぞ、みたいな感覚がまるで無い。
「ふむ」
ザゼンさんも防衛をしながら。
「クロア殿の言う通りですな、弱い。これも敵軍の作戦の一つなのでしょうかのぅ」
敵軍の兵士の目が死んでいるような、この戦いにまるで興味が無いような、でも何かに必死な様なそんな感覚。
何をする気だろうか・・・?
そんな思考をしている時にザゼンさんから一枚の手紙を渡された。
「これは?」
「一人で読んでくだされ、そして読んだら得意の魔法で燃やしてくれ」
「・・・分かりました」
手紙をしまい、また防衛に戻る。
敵の人数はいまだに増えている、増援に次ぐ増援。
しかしその増援の誰もが、あの軍服を着ていない。
戦場を観察してみれば魔導兵器を使っている者も居ない。
「人数だけで押し切る気か・・・?」
そこまでこちらの軍は弱くないのは向こうも分かっているはず、なのにだ。
「しかしこの人数はなかなか大変じゃな」
ザゼンさんも愚痴が出ている、ちょっと珍しいかもしれない。
だけど。
その時だった。
「「!?」」
ザゼンとクロアは気づく、いや彼ら以外も気づいただろう。
何故ならその膨大な魔力はここ数日にわたり自分達を苦しめてきたから。
「馬鹿な・・・!」
ザゼンが驚きを隠せていない。
当然だ、今撃てば、帝国側の兵士もタダでは済まない。
けれど。
「なるほど・・・最悪の考え方だなまったく・・・!」
クロア達が焦る、それは防衛魔導士が居ないから。
敵兵が居る時が、防衛魔導士の唯一の休める時間であるから。
敵が居ない時は常に見張っていなければならないので、この戦いの時間だけがある意味で彼らが居ない時間。
つまり最初の一撃と同じ、いや最初よりも乱戦中の今、カランクレス軍の被害は。
「「逃げろおおおお!!」」
幻想的は極光は、再び砦に直撃する。
-----∇∇∇-----
クロアは再び城門の確認も踏まえて下に降りる。
「!?」
まるで血の海、人の焼けた匂い、欠損した部位。
それは、地獄の入り口のようで。
城門はほとんど崩壊している、修繕したにも関わらず。
「これは・・・」
声にならない、そんな時に見かけた見知った後ろ姿。
「姉様!」
「クロア・・・」
「ご無事ですか?」
「私はね、ただ・・・フェーネ様が」
見ると目の前にフェーネ様が倒れていた。
「クッソ・・・しくったぜ!」
左腕と左足、その部位が焼けただれていた。
「平気・・・ではありませんね、すぐに治療室へ」
「舐めんな、こんなもんで倒れてられるかよ・・・!」
ふらふらと立ち上がるフェーネ様、しかしこれで戦わせるわけにはいかない。
「姉様、連れていって」
「おい!ふざけんな!」
「クロア殿!!」
ザゼンさんもこちらに走ってきていた。
「これは・・・フェーネ様」
「おい!ザゼン、アタシは戦うぞ・・・!」
「フェーネ様、ごめんなさい」
そう言って姉様と数人の騎士が無理やり連れていく。
半身が使えないフェーネ様では抵抗もできず。
「なっ!おい!」
「・・・状況はどうだろうか」
「最悪ですね、城門はご覧の通り、そして恐らくですが・・・」
敵軍の、いつもの声が聞こえてきた。
「あれは・・・正規軍か」
「恐らくさっきまでのは捨て駒でしょうね」
「そこまで本気と言う事か・・・」
「ここまで本気だった事ってありましたか?」
「いや、長年儂も戦ってきてるが、このような攻撃で来るのは初めてじゃな」
「大人気ですね、アルティ様は」
「流石我らの姫様じゃ、なぁクロア殿」
「何でしょうか?」
「まだやれますかな?」
ザゼンさんが笑いながら聞いてくる。
「やらないと、我々が死にますからね」
笑って返す。
「はっはっは!流石じゃ!」
「まだ戦える者は立ち上がれ!一歩たりとも奴らを我らの砦に入れるなよ!!」
そんな中で、クロアが一人前に出る。
「流石にこちらが不利が過ぎるので、時間稼ぎでもしましょうか」
「何か策が?」
「ザゼンさんは出来るだけ水魔法を使うように呼び掛けて下さい」
「構わぬが・・・」
クロアが両手を地面に付ける。
「大地のありがたみを知れ、帝国」
クロアの魔力が、上がる、上げる。
帝国の兵器に負けず劣らずの膨大な魔力、あの時は守りに使ったが、今回は違う。
『解体』
瞬間、地面が、大地が、バラバラに割ける。
「うわああああ!!」
「なんだこれは!!」
帝国軍が割けた大地に落ちていく、それは巨大な落とし穴の様な、土や石の、土砂崩れの落とし穴。
「ザゼンさん、お願いします」
「なるほど・・・考えたのう!」
「皆、放て!!」
クロアの作った巨大な落とし穴に次々と水魔法が放り込まれていく。
砦前は、まるで泥沼。
穴に居た者達は、その泥の中で窒息していく。
後続の者達は前に出れず、左右に広がって大回りをしてくる。
「多少の時間稼ぎにはなるでしょう」
「流石、やるのう」
戦闘は続いて行く。
-----∇∇∇-----
クロアの妨害もあり、何とか帝国軍を退く事が出来た。
ほとぼりが冷めた頃に、手紙を読んだ。
綺麗な字で丁寧な言葉、恐らくアルティ様が書いたものだろうと分かる。
まとめて言えば、今日の戦闘が終わり次第ある部屋に来て欲しいとの事だった。
ザゼンさんに言われていた通り手紙を燃やし、指定された場所に向かう。
そこは、砦の地下。
部屋に入ると数人の人が居た。
「クロア殿!」
「遅れて申し訳ありません」
部屋にはアルティ様、フェーネ様、ザゼンさん、姉様、そして数人の貴族が居た。
「フェーネ様はもう動けるのですか?」
「うちの治療師は優秀なんだよ」
そう言いながら立ち上がるが、何だかぎこちない。
「フェーネ、万全では無いでしょう、座ってていいから」
アルティ様に座らされる。
「皆様、集まって頂きありがとうございます」
「ここには、私が信頼できると思った方々を集めました。そして今から私がお話する事に、付き合っていただけると思って、お集まり頂きました」
アルティ様が一呼吸を置き、話を始める。
「お聞きしていただきましょう、私の覚悟の話を」
この戦争が、王国に置いて一つの転換期になると言われた。
一人の少女の覚悟が国を変える、そしてそれを信じた彼女の部下達。
その中には、剣鬼と呼ばれる少女と突然変異体の少年が居た事を、彼ら彼女らだけが知っている。




