国境戦 ⑦
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「状況はどうなっているんですか!?」
「現在確認中でして・・・!」
クロアとザゼンが戻ると、かなり混乱していた。
「失礼します!フェーネ様に代わり、ザゼンがご報告に参りました!」
ザゼン殿が一声で場を鎮める。
「ザゼン!クロア殿も」
「皆様も、今一度被害の確認をお願いします」
「しょ、承知しました!」
他の騎士や貴族の部下だろうか、バタバタと部屋を出ていく。
「では、ザゼン。報告お願いします」
「はい、姫様」
-----∇∇∇-----
「はぁ!」
「やああ!」
城前では前衛の騎士達が戦っている。
先程の魔法攻撃で人数を減らしてしまって、人数差では帝国軍に軍配が上がっている。
「やるな!イストフィース家!」
「そちらこそ、流石ですね!フェーネ様!」
彼女達二人もさることながら、カランクレス家の騎士達は皆この戦いに慣れている猛者が多い。
多少の人数差では負ける事は無い。
しかし。
「うわあああ!!」
「くそっ!何でこんな目に!」
戦場に慣れていない貴族の騎士達や、下級貴族である彼らは話が違う。
特に貴族達は人と戦った事の無い者も少なくはない、当然訓練や実戦経験を積んでいる者もいるにはいるが。
現在のフローレレ王国において、常日頃戦いがあるのはこのカランクレス領ぐらいであるため、魔物との戦いには心得があっても、対人とは無いと言う者が非常に多い。
実際クロア達も、動物や魔物とは狩りなども含めて出会う機会は多いが、殺意を持った人と戦う事は少ない。
「チッ!あっちがやべぇか」
「フェーネ様、ここは私達に任せてあちらを」
「そうか?じゃあ任せる!」
フェーネが戦場を駆ける。
その戦い方を見て、やはりまだまだだと思うエリア。
「エ、エリアさん!」
「あら、大丈夫?」
「はい!」
「魔導士隊もちょっとずつ戻ってきてるみたいだし、もうひと踏ん張りしましょ!」
そう言いながら、エリアはどこか楽しかった。
決して、領での鍛錬や手合わせがつまらないわけでは無い。
確かに母から教わる勉学や、弟のしている農業などの事は良くわからないし、あまり面白くはない。
でも、ここまでも、明確に。
自分の命を狙って剣を振るう者が、魔法攻撃を放ってくる者が、居ただろうか。
そして自分が、こんなにも簡単に、人の命を終わらせる事があっただろうか。
最初は怖くなると聞いた事もあったし、実際にこの三日の間、命を奪った日は、寝付けなかったし苦しかった。
それにそれが気分の良い事でもない事も。
だけど、それを分かった上で、今この瞬間、この戦いが。
「楽し♪」
笑っている自分が居た。
「エリアさん?」
「何でも無いわ、来るわよ!」
-----∇∇∇-----
「そうですか・・・つまり、帝国軍の新兵器の可能性があると言う事ですね」
「恐らくは、ですが。クロア殿も同意見だろうか」
「実物を見たわけでは無いので、確証はありませんがその可能性が高いかと」
アルティは二人の報告、先程の魔法と現在の砦の状況を聞いていた。
「どうすれば・・・」
アルティが焦っているのが二人にも伝わる。
当然だ、初陣でまさか敵の新兵器の的になるなど、最悪すぎる。
そんな中でザゼンが口を開く。
「しかし、あれ程の威力を放つ兵器をどうやって運んだのだ・・・ハーピィ隊の報告にも無かったと言うのに」
「・・・そういえばそんな報告はありませんでしたね、今日は遊撃が多くてあまり偵察できなかったとは聞きましたけど」
クロアも考えていた。
あの膨大な魔力を放つ程の兵器、少なくとも人間一人で抱えられる兵器では無いはず。
そもそも一人で使えるなら全員でそれを抱えて突っ込んでくれば良い。
となると大き目な兵器になるはず、にも関わらずただの行軍と言っていた。
「組み立てたのかもしれませんね」
「なるほど!他の物資と一緒に運び、戦場のこの場で組み立てたと」
「それならこの三日の辻褄も合いますな、兵器が組みたつのを待っていたと言う事ですかな」
「でも、そんなに強大な兵器なら、もし組み立てて居る間に攻められたら大変危険なのでは?」
「お忘れですか、アルティ様」
「あ・・・」
そう、我々から攻める事は出来ない。
それをしてしまえば、その責任がカランクレス家にのしかかるから。
もちろん他貴族が勝手に先行して、突っ込むならその者の責任になるだろうが、そこまでのリスクを負ってまで攻める程の奴は居ない。
「情けない話ですね・・・今ならお父様の言葉が理解できるわ」
アルティが天井を見つめる。
「しかしずっとこんな部屋に籠ってるわけにはいきませんわね。お二人も防衛に戻って下さい」
「はっ!」
「承知しました」
クロアとザゼンが席を立ち、部屋を出ようとすると。
「お二人共」
二人が振り返る。
「この戦争・・・勝てるでしょうか・・・?」
声が、震えている。
怖いのだ、何に恐れているかまでは、分からない。
戦いに負ける事?
自分の家に泥を塗る事?
この戦場に置いての責任感?
分からないが、女の子は震えているのだ、どうしようも無い、恐怖が目の前にあるから。
「ご安心ください姫様。このザゼンが姫様に勝利を運んで見せます!」
「と、フェーネ様もおっしゃると思います。姫様は胸を張って、堂々と指揮を執って下さい」
ザゼンさんがアルティ様を鼓舞する。
そのまま二人が俺に目を向ける、俺も何か言わないといけないか。
「・・・アルティ様のお立場を考えれば、などと言葉を並べても、結局アルティ様の今の心を理解などは出来ません」
「ですが」
クロアが一呼吸置く。
「絶対に勝たないといけない、なんて事も無いと思います」
「どういう事ですか・・・?」
「これは、戦争なんです。そして戦いにおいて、絶対何て物は無いんです。絶対に勝てる戦い何てありません、絶対に死なない戦い何てありません、僕はそう思っていつも戦ってます」
「勿論、勝つために全力を尽くします、勝つためにあらゆる事考えます、負けたら死ぬなら、死ぬ気で勝ちます」
「だから今、アルティ様がどう考え、何をするのか、それがどんな事でも、我々は付いて行きます」
「もしそれが間違いでも、間違いを正してくれる人も、アルティ様には多そうですから」
その言葉にザゼンさんがアルティ様に笑う。
「そして、何より、アルティ様の初陣を派手に飾ると、我が姉と約束しましたので」
そう言いながら、笑うクロア。
その顔には不安や恐怖など、何処にもなくて。
「・・・ありがとうございます、呼び止めて申し訳ございません」
「いえ、ではこれで」
「すまないクロア殿、もう少し姫様と会議をして行く。任せても良いだろうか」
「分かりました、先に力を振るってきます」
クロアが部屋を出ていく。
部屋にはザゼンとアルティの二人が残る。
「大丈夫ですか、姫様」
「改めてありがとう、大丈夫よ、二人の言葉で何とか自信が戻ってきたわ」
震えは、もう止まっていた。
「でも、すごいわ」
「同感です」
「あれが、強さと言う事なのでしょうか?お母様がクロア殿を気に入っていた理由が今なら分かる気がするわ」
「夫人が?」
「ええ、私もうじうじしている場合では無いですね。少しだけ、覚悟を決めましょう」
「いつもの姫様に戻られたようで何よりです」
「そうね、ザゼンも、呼び止めてごめんなさい。皆を助けてあげて」
「はっ!」
ザゼンも部屋を出ていく。
砦の外だろうか、戦場の音が聞こえる
アルティは部屋に一人で、先程までは恐怖で押しつぶされそうだった。
「お父様、ごめんなさい」
部屋で呟くアルティ、この言葉は、苛烈な音の中で静かに、覚悟の表れだった。




