国境戦 ⑤
「そろそろですね」
「そうね、しかし・・・本当に今回は気合いが違うのね」
「兵器のみならず、兵士を募集した所までは良かったですが・・・」
「ここまで膨れ上がると統率が満足に取れないわね。彼らには悪いけどいざと言うときは私は部下の命を優先するわ」
「それが賢明かと」
パールブロウ帝国軍は兵をかき集め、例年よりも遥かに人数を増やしていた。
「けど、気合いが入っているのはこちらだけでは無いそうね」
「はい、王国の方の人数もかなり多い様子。恐らく公爵へのアピールも兼ねているのでしょうね」
「上はなんて?」
「簡単に言ってしまえば、領地を落とせと」
「仕方がない、やれるだけやろうか。このまま準備進めて」
「了解しました」
男は一礼し、隊へ向かって行く。
「まさか、子供一人を亡き者にするためにこんなに用意するとは・・・改めて軍人なんかになるもんじゃないわね」
-----∇∇∇-----
「伝令!」
情報部隊のハーピィから報告が入る。
「そうですか・・・これは困りましたね」
「どうしました、お嬢様」
「例年に比べて敵数がかなり多いようです」
アルティの言葉に周りの者がざわつく。
「おい、この戦いって勝ち戦じゃ・・・」
「俺が知るかよ、公爵様もいるんだし大丈夫だろ・・・」
「でもここの指揮ってアルティ様だろ、平気なのか?」
浮足立つ者達は、カランクレス公爵へのアピールのために参加している貴族達。
あまり戦いを知らない者も少なくはない。
しかしカランクレス家の騎士達は寧ろ平然としている、戦場が思うように行かない事を知っているからだ。
「皆様、落ち着いて下さい」
視線がアルティに集まる。
「確かに予想よりも敵は多いです、ですがこちらの戦力が劣っているとは思いません。私達は貴族の役目を果たしましょう」
アルティが喝を入れるが、やはりどこか落ち着きが無い者が多い。
「お前ら心配するな、ここにはアタシもいる。それに親方様が手配したって事はここに居る戦力で勝てるって事だろ。シャキっとしやがれ」
フェーネの言葉で何とか鎮まる。
「各々持ち場に戻れ、アタシたちはしっかりと防衛を果たすぞ!」
騎士や貴族達は戻っていく中で、アルティがフェーネに近づく。
「まだまだ指揮を執るのは難しいですね、私の言葉では皆様を奮い立たせてあげる事が出来ない・・・」
「あいつらがお嬢様の事を知らないからですよ」
「お二人も、よろしくお願いいたします」
「もちろんです」
クロアとエリアは戦闘装束に身を包み、今回の役目を果たすために準備している。
「・・・怖くは無いですか?」
アルティが二人に尋ねる。
「そうですね・・・死ぬのは嫌ですが、それよりも大切な物が有るので、僕は怖くありませんよ」
「私も同じですね」
二人が普通に会話しているのを見て、アルティは驚いている。
「お二人は・・・初陣では無いのですか?」
「ここまで大規模な戦いは初めてですが、我々の領は何分人手不足でして・・・」
「そうね、盗賊の討伐や魔物の討伐なんて日常茶飯事だわ」
「私、何だか自分が恥ずかしくなってきました・・・」
「お嬢様、自信を持ってください!」
「分かってるわ、でも同じ年ぐらいのお二人が自分で戦っていた事を知ると、私は甘えて生きてきたと実感してしまいました」
「あはは・・・恐らく我々は特殊だと思いますよ。貴族であるならばこういった戦いにこそ力を発揮するべきでしょうからね」
「そうかも知れませんが、それでもです」
「でも、何だか緊張がほぐれました、お二人共ありがとうございます」
「では我々もそろそろ」
「ご武運を」
アルティ様と別れて自分達の持ち場に戻る。
「しかし砦の防衛ですか、あまりにもやった事が無いので緊張しますね」
「確かに、私達って基本的に守るより攻める方が多いかも?」
「この前の盗賊の一件ぐらいですかね」
「なんだか性に合わないわ」
「お互いに怪我に気を付けましょうか」
「戦争なのに怪我って、本当に緊張なんてしてるの?」
「見栄を張ってるだけですよ、男の意地ってやつです」
「アンタに似合わないわ、その言葉」
二人が分かれる。
「好きに通しなさい、全員叩き伏せるわ」
「冗談言わないで下さい、姉様の方の仕事なんてありませんよ」
姉弟は軽く拳を合わせて分かれる。
「敵影在り!!」
その言葉と同時に合図が響く、始まる、命の取り合いが。
-----∇∇∇-----
クロアは公爵家の魔導士隊と一緒に行動していた。
主な役目は遠方の敵への牽制。
王国は決して侵攻しない、いわれのない歴史から侵攻されているが、それでも帝国が残っているのは王国が攻めないためである。
カランクレス公爵は毎年の様に行われるので、帝国に落としたいのだが、保守派や現在の王がそれを許さない。
理由は二つ、一つは他の国へのアピール。
帝国を消さないのは友好を結ぶために攻めないのだと、王国は大陸の侵略に興味は無いとアピールするため。
しかしこれは建前でもある、どちらかと言えばもう一つの理由。
カランクレス公爵が力を持ちすぎないためである。
もし公爵家が全力を出して、帝国を奪えてしまえば、当然そのままカランクレス公爵の功績になる。
そうなってしまえば現状でもあまりに抑えられていない公爵を抑えられなくなる。
それにここで戦いが起きるから公爵を削っているとも言える。
それが無くなってしまえば公爵の派閥は今よりも遥かに力を得る。
「酷い身内での足の引っ張り合いだ」
そんな事を呟きながら、攻撃魔法を放つ。
「フレイムランス!」
炎の矢が敵軍に降り注ぐ。
「おぉ・・・!」
「本当に子供なのか?」
周りの魔導士から声が上がる、クロアの魔力量はもはや普通ではない。
「やりますな、クロア殿」
魔導士団の副団長から声がかかる。
「いえ、しかし随分と相手が少ないように見えるのですが、いつもこの程度なのででしょうか?」
「それについては、儂も考えておりました」
髭を触りながら何かを考えている。
「いつもならもう少し激化していくもの、ですがまるで何か待っているような・・・不気味な雰囲気がありますな」
「他の砦も、同じなのですかね」
「確かに、気になりますな。姫様に少々聞いておきましょう」
敵軍からも魔法が飛んでくるのだが、どうにもやる気を感じない。
砦を破壊する気が無いと思うほどに。
そして最小限の被害のまま、その日を終えた。
-----∇∇∇-----
「お集まりいただきありがとうございます」
アルティが軍議に来ている全員に頭を下げる。
「お嬢様」
「分かっています、ですが私なりの礼儀なの、ごめんなさい」
その言葉にフェーネはため息をつきながら黙る。
「今回の侵攻は違和感があると、騎士達から聞きました。そしてお父様達にも報告をして、他の防衛拠点がどうなっているのか聞いておきました」
フェーネが地図を広げる。
「今回の戦い、すべての拠点が私達と同じように感じたそうです。どこもかしこも行軍が遅いのか、いつもより戦場が落ち着いていると」
「偵察を行っているハーピィ隊にも聞きましたが、実際敵軍の行軍が遅いのは確かなようです」
「アルティ様の初陣と言う事で、帝国も恐れているのでは!」
分かりやすく、ゴマすりをしようとする貴族。
「いえ、だとしてもおかしいですわ。それにしてはここまでの人数を集めた意味が無いもの」
ピシャリと、貴族が黙る。
そこで手を挙げる男子が居た。
「クロア殿、どうされました?」
クロア達下級貴族は、少し後ろの方で軍議を聞いていた。
「少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「小僧、これは軍議だ。遊びではない」
男がクロアを黙らせようとする。
「いえ、どんなことでも聞き逃す方が私は嫌です。クロア殿、聞きたい事とは?」
アルティが他の貴族に牽制をしながらクロアに聞く。
「先程ハーピィ隊での偵察を行っているとおっしゃいましたが、行軍が遅い以外にも何か報告はされませんでしたか?」
「・・・そうですね、何やら隊列を乱しながら進んでいるとの事。彼らからはそれ以外何も」
「そうでしたか、出過ぎた意見申し訳ございません」
「フンッ、金魚の糞が・・・」
「流石は成り上がり貴族の息子、ですね」
流石、父上は嫌われているなぁ。
俺もこいつらは気に食わないけど。
エリア姉様がこの場にいなくてよかった、たまに暴走しかけるからなあの人。
「他に聞きたい事や意見などある方は居ますか?」
「・・・では今日は一旦ここまでに、夜間警備の方はよろしくお願いいたします。戦争は始まったばかりです、皆様心して休んでください」
各々が部屋から出ていく。
クロアが部屋を出ていこうとすると、魔導士団の副団長が引き留める。
「クロア殿、良ければご一緒に休息は如何かな?」
「お供します」
「ほう、これは嬉しい。この頃は断られる方が多くてな」
「皆様、副団長さんに憧れているから一緒に居るのが恐れ多いのでは?」
「はっはっは、言葉も上手とは、参るわ」
「そういえば名乗ってなかったのう、ザゼンと言う、よろしく頼む」
「ザゼン様、改めてイストフィース・リーゼ・クロアと申します。今日は部隊に入れていただきありがとうございます」
「なぁに、姫様と同じぐらいの子の一人や二人増えても平気じゃよ。それに、儂はあくまで公爵様に仕える騎士じゃ、敬語などは不要ですぞ」
「いえ、僕は元からこうですので、あまりお気になさらず」
「そうなのですか?なんだかこの爺には取り繕っているようにも見えますが?」
ザゼンが疑いの目でクロア見る。
(流石、あの公爵家の魔導士団の副団長を務めているだけはある、中々鋭いな。)
「では、ザゼンさんと、呼ばせてもらいます」
「今はそれで満足しよう、何より孫と同い年の子に、様なんぞ呼ばれると身体が痒くなる」
「お孫さんが居るのですか?」
「うむ、これが可愛い女の子でのぅ」
「嫁にはやらんぞ!」
「何も言ってませんよ、でもそれならここで負けるわけにはいきませんね」
「そうじゃの、所でクロア殿」
「何でしょうか?」
温かなスープを飲みながら、ザゼン殿が聞いてくる。
「先程の意見、何が気になったんじゃ?」
「行軍が遅い理由です、単に人数が多いから遅いだけならいいのですが」
「報告を聞く限り、そのようだな」
「しかし隊列が乱れる程人数が居て、統率も取れていないとは、あの軍事国家がそこまで雑なのかと思いまして」
「確かに、気にはなるのぅ」
「それに、今日の攻撃です」
「何か分かるのか?」
クロアは戦場を思い出す。
ほとんど魔法の打ち合いで終わった今日。
帝国と言えば魔力循環による身体強化を軸に魔導兵器を取り入れた戦い方をする国のはず。
それが今日はどうだ、兵器はおろか、突撃をしてくる者があまりにも少なかった。
まるで何かを待っているような、準備をしているような、そんな感覚。
「何かを、待っている、そんな感じがしまして」
「待っている、か」
「気にしてはおこう、何事も無ければそれに越した事は無い」
「しかし僕なんかの意見聞くために、こうしていると?」
「なぁに、若い者と話すとやはり元気がでてな。それに、クロア殿は見事な魔導士じゃ、他の者にはわかりずらいのかも知れんがの」
「いっそのこそ我々の魔導士団にこのまま入らんか?」
堂々と勧誘してくる。
豪快な方だ。
「申し訳ありません。我が家は男児が少ないので、僕があの家から離れるわけにはいきません」
「そうか、残念じゃの」
「ならばこの間に色々話を聞かねばな、また明日もよろしく頼みますぞ」
「こちらこそ」
スープを飲み終え、仮眠をとるためにテントに行く。
全員分の部屋など無いので基本的にテントでの休憩になる。
一応貴族なので個人テントにはなる。
小さなテントに帰ると、姉様が居た。
「なんでこっちに居るんですか、女性用のゾーンがあったはずでは?」
「あっちに居ると、何だか変な扱いをされて面倒なのよ・・・」
今日は騎士団側は暇だっただろう、しかしそれでも全く無いわけでも無く、砦の修繕などやる事はある。
それよりも、姉様が男の貴族から他の女性を守ったのが大きいだろう。
俺達が軍議をしている間、何か一悶着あったようで。
「それでもこちらに居るのは不味いのでは?」
「いいじゃない、たまには姉弟で寝ましょ。この頃無かったでしょ?」
「そでに、クロアの生活魔法の方が気持ちよさそうだもの、お願いね」
そうして当然の様に使えと言ってくる、俺は結構魔法を使っていたんだけど。
「はぁ・・・まぁ、構いませんけど」
「ふふ♪」
戦場の熱が、この夜だけは冷めていく。
不気味な空気が残る帝国の行軍。
彼らは、その兵器を見た時、何を思うのか。




