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国境戦 ④

「流石、広いですね」


クロアが窓からの景色を見ながら話す。


「そうね、けれど建物が多くてなんだか落ち着かないわ」


「それだけ人が多いと言う事でもあるがな。それに我々は観光に来たわけでは無いぞ」


「分かっています」


空からの眺めを心に収めながら、ゆっくりと下に降りていく。


「足元にお気をつけください」


御者がドアを開けながらクロアが、エリアの手を引きながら降りていく。


「ここからは人の目が多そうですね」


「しっかりエスコートしてよね」


「言葉遣いには気をつけなさい」


「はーい」


そんなやり取りをしていたら、目の前に一つの馬車。


「あれは、迎えですかね」


「だろうな」


馬車の装飾にカランクレス公爵の紋章があしらわれている。

こちらに気付き、一人の男性が近づいてくる。


「初めまして、カランクレス様から此度の召集にて、皆様の移動手配をしている配下です。無礼ながら、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「イストフィース・リーゼ・ウィルと申します。召集の命に馳せ参じました」


「ありがとうございます。イストフィース様、こちらにどうぞ」


三人で馬車に入り、走り出す。


「なんだか移動が多くて嫌になるわ」


「仕方ないでしょう、そもそもまだ戦いが始まったわけでも無いですからね」


少しだけ不機嫌な姉を宥める弟。


「恐らく今日は集まった者達に向けて、カランクレス公爵が演説などもするだろうからな。貴族の顔合わせと言うやつだ、エリアも少しは慣れなさい」


「そういうの、本当に嫌いだわ」


「俺も嫌いではありますが、必要でもあるので割り切りましょうよ」


父上と二人で姉様を落ち着かせながら、街をかけていく。





-----∇∇∇-----





「城ではありますが、インチェンス侯爵のと比べるとだいぶ違いますね。当然と言えば当然かもしれませんが」


「防衛に向いているな、流石だ」


たどり着いた城前で話していると、女性が一人こちらに向かってくる。


「お、もう来たのか。やっぱり真面目なんだな」


「フェーネ殿、お久しぶりです」


この人が、カランクレス家最強剣士か。

確かヴォルフォが勝ったとか言いふらしていたっけ、父上が攻撃魔法無しの模擬戦でしかないって言ってたけど。


「そこの二人がアンタの家族・・・か」


フェーネが、クロアを見て、一瞬。

何とも言えない顔をした、だがすぐに元に戻る。


「案内を任せれたんだ、この前の時の礼をしたいって事でな」


「そうでしたか、ありがとうございます」


「礼ならアタシじゃなくて親方様達に言ってくれ。んじゃ付いてきな」


そのまま彼女に案内される。

姉様が耳打ちをしてくる。


「ねぇ、あんな態度でもいいの?」


「あれは許されているだけでしょう、俺達がやっても最初は笑ってくれるかも知れませんがその後は知りません」


「そうよね、それにしても・・・強いわね」


姉様が前の女性を見ながら、そう呟く。


「分かるのですか?」


「なんとなく、だけどね。父様やヴォルフォ達と違った感じだけど」


「武人の感ってやつですか、流石ですね」


とか言いながら、俺も分かる。

纏う魔力が濃さを物語っている。

インチェンス侯爵とも遜色無い程だ。


「防衛都市とはよく言った物ですね」



城に案内され、そのまま部屋に連れていかれる。



「親方様、連れてきました」


「入ってくれ」


中から男性の声がした、公爵だろうか。

部屋に入ると男性が一人とその奥さんと娘だと思う二人。

四人しかいなかった。


「おぉ!久しぶりだなウィン!」


恐らくカランクレス公爵が父上に握手を求めてくる。


「お久しぶりです、ドーバル閣下」


「やめてくれ、いつもの様にドーバルだけで良いさ」


「そう言われてもな・・・」


「態々部下共を出ていかせたのだ、昔の様に話してくれ」


父上が少し悩むが。


「そこまで言われては、そうだな。久しぶり、ドーバル」


「おう!」


がっしりと握手を交わしている。


「そこにいる二人がお主の家族か」


俺達に話題が向く。


「お初にお目にかかります、ドーバル閣下。イストフィース家長男、イストフィース・リーゼ・クロアと申します。以後お見知りおきを」


「同じくイストフィース家次女、イストフィース・リーゼ・エリアと申します。この度は我々をご指名していただき恐悦至極にございます。ご迷惑をかけないようにこの身を持って全力を尽くします」


二人で打ち合わせした通りに話す。

その俺達の態度に。


「これは驚いた、礼儀作法に関しては父より完璧では無いか」


奥に居たアルティ達も少し驚いている。

そしてアルティは嬉しかった、自分も年齢に似合わず礼儀正しすぎるなとど言われていたから。


「まぁ立ち話では疲れてしまう、こっちに座ってくれ」


その言葉を聞いて、クロアとエリアは立ち上がりソファの方へ父と一緒に座る。


「ではこちらも改めて」

「カランクレス・コルエ・ドーバルである。此度の戦場では期待している」


「ドーバルの妻のパトアです、いつも夫がお世話になっております」


二人が挨拶を終えると、一人の女の子が立ち上がる。


「カランクレス家長女、カランクレス・コルエ・アルティです。この度は私の初陣に参加して頂きありがとうございます」


綺麗なお辞儀に、少し驚いた。

彼女は立場上俺達より目上の人だ、頭を下げる必要は無い。

アルティ様の挨拶が終わると、順番的に隣の女の子はずなのだが。


「あ・・・えっと・・・」


「こらメルティ、挨拶せんか」


ドーバル閣下からも急かされる。

メルティと呼ばれる女の子と、目が合いそうになる。


「あ・・・」


目が合・・・いや、何か違う物を見ている?


「ご、ごめんなさい。カランクレス家次女、えっと、カランクレス・コルエ・メルティです・・・」


「メルティ様、よろしくお願いします」


父上が助け舟を出して終わらせる。


「まずはこの前アルティの護衛に付いてだが、礼を言う。何かあるかもしれんとも思っていたが、ウィンが居て安心できた」


「何を言う、私が居なくとも凄まじい強さのフェーネ殿とアルティ嬢だ、無事に終わっただろう」


「いえ、ウィル様とヴォルフォ様が居て安心できたのも事実です。私からも今一度お礼を」


父上に、カランクレス家が礼をしている。

少し誇らしい。


「それで、今回の戦いはどうするつもりなのだ?」


ドーバル閣下に父上が聞く。

アルティ様の初陣と言う事もあってか参加している貴族も多い、いつもとは勝手が違うようだ。


「それについてなのだが、一つお前には依頼をしたいのだ」


「依頼?」


「襲撃されたときもそうだが、内部に裏切り者がおるようでな」


これは俺も考えていた。

そもそも何故アルティ様が王都に行く日をわかっていたように待ち伏せ出来ていたのか、情報が洩れていたとしか思えない。


「そこで、イストフィース家には裏切り者の調査を頼みたい。もちろん戦場にも参加してもらうのだが、その中で怪しい動きをする者を報告してほしい」


「我々三人だけでそれを行えと言うのか?」


「他にも信頼できる者にだけ依頼しておる。当然依頼料も出そう」


父上が悩んでいる、依頼料は素直に嬉しいが戦いの他に考えなければならない事が増えるのは厄介だろう。


「お前たちはどう思う?」


父上が姉様と俺に話を振る。


「私は、そういうのは苦手なのでなんとも」


姉様が素直に答える、何となくこの場を察してか、嘘をつかない様にしている様に見える。


「そうか。クロア、お前はどうだ」


「そうですね・・・」


あまり長く待たせるわけにはいかないが・・・考えろ。


少しクロアが考える、そして。


「僕はお受けしても良いと思います。閣下にご確認なのですが、見つけるのは強制なのでしょうか?」


「いや、誰が犯人なのかまで特定しろとは言わん。すぐに見つかるような者ならこうして依頼などせんからな」


少しだけ安堵する。


「ありがとうございます。との事ですので、僕は大丈夫かと。他人を見るのも慣れていますので」


「そうか、お前がそう言うならば」


そのやり取りを見て、ドーバルが口を開く。


「まるでその子に決定権があるように見えるが。ウィン、当主はお主では無いのか」


「いやなに、先程の礼儀作法で分かるように優秀でな。意見を聞いているだけさ」


「ほう?」


俺に視線が何だか集まっているように感じるが、気にせずに父上が続ける。


「ではその話、引き受けた。私も友人を貶めようとしている者など許せはせんからな」


「ありがたい、よろしく頼む。今夜召集に応じてくれた者達を集めて、戦の前のパーティーを準備してある。それまでは用意してある宿で休むと良い」


「わかった、今回も勝利をして見せるさ」


「おう!お主達にも期待しているぞ」


ドーバル閣下が俺と姉様にも声を掛ける。


「「全力を尽くします」」


「案内させよう」


そう言って、フェーネ殿が呼んできた者に付いて部屋を出る。


「では失礼します」


イストフィース家が部屋を出て少しすると。


「ねぇ、あなた」


「どうしたのだ?」


「あの子達、味方にできないの?」


パトアがそんな事を言い出す。


「お母様が気に入るなんて、珍しいですね」


アルティが驚いている。


「だって、女の子の方もだけど、特にあの男の子すごいわ!」


「お前も気づいたか」


「どういうことですか?」


「アルティはまだ魔法の練習中だものね、フェーネはどう思った?」


パトアの声にフェーネが反応する。


「正直、弱そうな奴ならちょっとイジってやろうとか思ってました」


「フェーネ・・・」


アルティが呆れている。


「でも、あれは・・・戦いたく無いです」


そしてその言葉に驚いた。


「え・・・?」


「まったく、ウィンめ・・・あんな子を隠していたとはな」


「クロア君でしたっけ、そんなに強いのですか?」


「姉様、あれは、ダメです・・・」


「メルティ?」


「そうか、メルティは魔力に過敏であったな。今日はもう部屋で休んでいなさい」


「は、い・・・」


メルティがよろよろと立ち上がる。


「お嬢様、アタシが部屋まで付いて行きます」


「ありがとう、フェーネ」


そうしてフェーネに連れられてメルティが部屋から出ていく。


「メルティ・・・」


「かなり上手く隠しているが、あの歳で持って良い魔力量ではないな」


「あの子が味方になってくれれば、もう少し私達の派閥も強くなるのでは?」


「私も奴の実力を知っている、だからこそいつも声は掛けているのだがな」


「何か謝礼の様な物を用意してみては?」


「戦友の子供の力が欲しいから物で懐柔しろと?ふざけるな。それに、物につられて動く男でもあるまい」


ドーバルが妻に一喝する。


「あら、怒られてしまったわ」


「そんなにすごい事なのですか?」


「そうね、魔力の底が見えないのもそうだけど。あの歳で、あそこまで魔力を操作出来ていることが凄まじいのよ」


「魔法とは、当然才能も必要だ。しかし努力を怠る魔導士は戦場で早死にする、自分の魔法や魔力を過信してしまうからだ」


魔力を扱えれば小さな身体でも、大きな相手に勝ててしまう。

魔力を扱えば、普段持てないような物を持てる力を得てしまう。

魔力があれば、何でもできるような高揚感を得る。

魔法とは、自身に大きな力をもたらすが、同時にそれに依存してしまい、扱うだけで満足し、強いのだと過信してしまう。


「魔法に溺れたものは弱い、極める事と溺れる事は違うのだ」

「そして、あれは極めた側の人間だ」

「前に会った、王都の魔導士団の団長を思い出したわ」


「そんなに強いの・・・」


「アルティよ、此度の戦争・・・心して準備せよ。もしかしたらお前の初陣を奪われるかもしれない」


「・・・分かりました、今一度気を引き締めます」


「なんだか楽しみが増えちゃったわ。アルティ、少し鍛錬してあげましょう」


「本当ですかお母様?」


「ええ、いきましょう」


「はい!」


アルティとパトアが部屋を出ていく。


「まったく、私も少し疼いたよ・・・」

「やはりお前は、いつも楽しませてくれるな、ウィン」





戦争の幕が開ける。

いつもの様に、けど少しいつもとは違う。

まだ寒さの残る季節に、この国境では暑さを感じる。

木漏れ日の様な、落ち着く暖かさでは無い、何処にも水が無い、むせ返るような、熱気を帯びる。

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