新たなる住人達 ②
騎士とは何か。
騎士、兵士、魔導士、全てを含めて兵力や戦力と呼ばれる。
魔導士はその名の通り、魔法を主に扱う者の事。
国に定められた機関を卒業した者にも与えられる称号でもあるが、独学で魔導士になれる者はほとんどいないので、ほとんどが卒業者だと考えることができる。
では兵士と騎士は何が違うのか。
騎士とは馬に乗っている戦士が、『騎士』と呼ばれるもので単なる戦士ではなく主君に仕えて領地を与えられる代わりに軍役の義務があった者を指す。
兵士とは一般市民がその戦いのおいての指揮官に従い、戦う事を意味する。
しかしこれは昔の話で、現在では騎士も国に定められた機関を卒業した者を言う。
そして兵士とは時には強制的に集める事もあるが、基本的には自ら貴族や国に志願して戦う者の事を指す。
そして現在の貴族はこの兵士をかなり重要視している、何故か。
それは他の貴族に素性があまり知られていないからである。
騎士は機関に属していた時に様々な人と触れる機会が多い。
だが志願した兵士を雇う事ならその者が何者であるかなどは、その貴族や雇い主が見定める事なので情報が流出しずらい。
更には騎士になった者達は出来るだけ大きな力を持つ貴族に仕えたい。
なので位の低い貴族達は尚更この兵士と言うのは大事な戦力なのである。
そして、イストフィース領も志願した者達の試験を毎年行っている。
行っているのだが・・・
「・・・志願者の名簿にリリー達の名前がない」
クロアが椅子から立ち上がる。
「あれ、どうしたんですか、クロア様」
「すまない、サキユ。少し用事を思い出したから外に出てくるよ」
「わかりました!皆さんにも伝えておきます!」
そう言って部屋を後にする。
「去年から志願できるからってあれだけやる気に満ちていたのに、まだあの時の事を気にしているのか・・・」
実は魔物化の騒動から、リリー達と全く会えていない。
そもそも俺が治療のためにも安静かつ外に出られず、インチェンス領に行くまではかなり監視もされていたので会いずらいと言うのもあったし、現在も新しい人達を向かい入れている最中だから会う時間が無いと言うのもあるが。
教会の神父殿に直してもらってからは完治していると言っても過言では無い、何となく痛みの感覚はあるが普通に生活は出来る。
幸いなことに後遺症も無いし、何なら死にかけた事で魔力循環の精度が一段階上がったとも言えなくない。
「名簿に全員居ないのは、グラハ達から止められているのか、それとも自分達による意思なのか・・・」
聞かなければならないし、この程度の事を、親友達に気になどしてほしくない。
-----∇∇∇-----
「おはようございます、ロズは居ませんか?」
「あら、クロア様。おはようございます」
「朝早くからごめんなさい、ロズは居ますか?」
「それが・・・この頃朝から居ないのよ、あの人に言っても放っておけしか言わなくて」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「クロア様、その・・・あの子達と何かあったんですか?」
(そうか、ディンも含めてあの時の事を奥さんには言っていないのか)
俺があまり咎めるなと言ったからか、領内で彼らを非難する者は居ない。
話の大筋としては俺が襲われた事になっているだけ。
「いえ、ただこの頃時間が合わずに会えていないので、少し話がしたくて」
「そうなの、あの子が帰ってきたら伝えておきます」
「ありがとうございます、朝早くから失礼しました」
ロズが家に居ないと言う事は、恐らくリリー達も居ないのだろう。
あえてロズの所に最初に来たのはそれを確かめるためだ。
「さて、どこに居るのやら」
少し考える、彼らの行動、今何をしているのかを。
「もし、俺が逆の立場ならどうする」
思考する、親友が、自分の弱さのせいで傷ついたと思ってしまう出来事、そして己の無力感。
そうなれば答えは一つしかない。
「朝早くに修練場での稽古はやっていない、となれば行く場所は一つか」
思い当たる場所にクロアは歩み進める。
目的地に近づいて行くと、鉄の音と魔法の音。
そこには。
「朝早くから、汗だくだね二人共」
「クロア・・・」
「・・・」
「休憩がてら、少し話さない?」
-----∇∇∇-----
「何しに来たんだよ」
「何しにって言うと、今年やる兵の志願者の名簿に二人を含めた、あの場所に居た皆の名前が無かったから理由を聞きに来た」
「そんなの・・・!」
リリーが拳を強く握る。
ロズも口を開かない。
「もし俺に負い目があるなら気にしないでくれって言いに来たけど、それだけじゃないのかな?」
その言葉にロズが反応する。
「負い目が有るか無いかで言えば、有るに決まってるよ」
「でもクロアの言う通り、それだけじゃないよ」
「何かあったの?」
「あの場所に居たあいつらが、もう戦いたく無いって、危ない事をしたく無いって、ロズとあたし以外、この場所にも来なくなっちまったんだ」
そう言う事か。
「そっか・・・まぁ、あれだけ怖い思いをしたらそれが普通だと思うよ」
「でも!」
「それでも、あの時クロアは戦ってた!ロズの父ちゃんやヴォルフォだって居たのに、クロアが一番・・・戦えてた」
「それは・・・そうなっただけだよ」
「あたしは、もっと自分が強いと思ってたんだ」
リリーが泣きそうな声で、でも悔しそうな顔で。
「すごく、怖かった。今でも、思い出せる。あの時もしクロアが来てくれなかったら、あたし達は死んでた気がするし、何より・・・あたしのせいで皆が死ぬかもって、思ったら」
リリーの顔に涙が流れる。
「それに・・・あたしのせいでクロアが、死ぬんじゃないかって、怖くて・・・」
「僕も怖かった、クロアや父さんが来てくれなかったらって、考えた事もあるし、あの時は父さんの背中に隠れる事しかできなかった」
ロズも悔しそうに、泣きながら言葉を紡ぐ。
「そっか・・・でもじゃあ、なんで二人はここに居るんだ?」
クロアの言葉に二人が顔を見合わせる、そして。
「「強くなりたいから!!」」
泣いている親友達を見て、でもその言葉を聞いて、クロアは笑う。
「流石俺の親友、ならなおさら志願するべきだったのに何で?」
「それは、親父にダメだって言われた」
「僕も、そんな感じかな・・・」
グラハ達には説教だ。
こんなにも有望な、そして信頼できる勇者達を断るなんて事は出来ない。
「俺からも言っておくよ、二人も時間には来てね」
そうしてクロアがその場を後にしようとすると、服の袖が掴まれる。
「どうしたの、二人共」
リリーが袖を掴んでいた。
「クロア、その・・・ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「・・・さっきも言ったけどあれは俺のせいでもあるんだから、良いんだよ、いつもの様にまた悪巧みでもしよう」
その言葉に、二人が笑う。
「それなら、ごめんなさいじゃ無くて、あの時はありがとう!」
「そう、だな・・・ありがとうな!クロア!」
「親友を助けるなんて、当然でしょ?」
「それより、あの時結構な力で吹き飛ばしけど、リリーは怪我無かった?」
「当たり前だ、クロアが・・・守ってくれたんだろ」
「むしろ本当にびっくりした、クロアってやっぱ強いんだな」
「そうだね、すごいってずっと思ってたけど、思ってたよりもっと!」
「今度はあたしがお前を守るからな!」
「僕も、父さんのようには・・・なりたくないけど、力になって見せる!」
「それは、今から楽しみだね。そもそも二人が弱い未来なんて想像も出来ないからね」
二人の涙をクロアが拭う。
そしてまた、いつもの様に笑いあう。
親友達とのわだかまりは、完全に消えたわけでは無いのかも知れない。
だけどクロアはこの日、さらに二人と仲が深まった気がした。
またいつものように笑いあえる様に、この場所を支えてくれた人達を大切にする様に。




