新たなる住人達 ①
「ここが今日から住む領地・・・」
一人の女性がイストフィース領に入ろうとしている。
「すみません」
見張りらしき領民に女性が声を掛ける。
「こちらはイストフィース領で間違いありませんか?」
「間違いありませんよ、確か今日から来ると聞いていた・・・」
「はい、今日からお世話になります」
「むしろありがたいですよ、こちらこそよろしくお願いします。少し待ってて下さい、すぐに領主様を呼んできます!」
「ありがとうございます」
見張りが領内に急ぐ、今日は様々な住人が来る日。
彼女もその一人であった。
「聞いていたより、全然発展してそうですね。かなりの田舎って聞いていたけど・・・」
「お待たせしました、ご案内します」
「お願いします」
-----∇∇∇-----
大きめの広場にて、人が集められていた。
即席で作られた、お立ち台にウィンが立っている。
その後ろにクロア、ヴォルフォ、ディン、グラハが立っている。
集められた人々はクロアを物珍しく見ているが、ウィンの言葉を待っている。
「すでに知っている者もいるだろうが改めて、私がこの領地を治めているイストフィース・リーゼ・ウィンだ。今日からよろしく頼む」
ウィンが挨拶を始める、今日はこの領地に移住や働き場所として志願した人たちが集まる日であった。
三十人程の人達、およそ半分が移住であり、残りが兵士や農民としての雇用で来てもらった者達。
「この中には移住では無く働き口として我が領に来た者もいるだろう、今日は領内の案内、及びに皆の家などの説明をする。ささやかではあるが、歓迎のパーティーも用意してある、まずは皆の荷物などを運ぶためにも部屋の案内をする」
「案内は後ろにいるヴォルフォ、グラハがしてくれる。後で気になる事がある場合はここに居る五人ならば誰にでも聞いてくれ、早速始めよう」
そう言ってウィンが降りる。
「私はグラハと申します。では、移住の方々は私が案内致します」
「俺はヴォルフォと言う、見ての通り獣人だ。仲良くしてくれると助かる、こっちは移住以外の人達を案内する」
各々がグラハとヴォルフォに付いて行く。
「良い挨拶でしたよ、父上」
「やはりこういう堅苦しいのは疲れるな・・・」
「いやいや!流石大将でしたぜ、俺には絶対無理だ」
「しかし本当に来たんですね、話がとんとん拍子で進んで正直今でも驚いてます」
「それについては私達が一番驚いている、クロアのおかげかも知れんがな」
三人が一人の女性を見ていた、その者は教会に仕えているシスターであった。
「いつかは我が領にも、なんて思ってましたけど。こんなに早いとは思ってませんでしたね」
「教会の事も今は申請中だ、流石にそんなに早く返信が来るとは思えないが」
「面倒ですね、勝手に建てちまうのは駄目なんですかい」
「ディンには一回説明したと思うんだけど・・・」
「そうでしたっけ?」
教会
簡単に言えば、それは神を信仰する者達が働く場所である。
そしてフローレレ王国において教会は宗教的な物では無く、史実に基づいて信仰している。
かなり昔にはなるが、ある魔物を討伐するために、神に願い、神と共に戦った英雄が居たらしい。
それから神と言う存在が居るのだと人が認知してからはこうして信仰している。
この昔話を加え、固有魔法を授かる時の声などが影響して、王国では名前は無いが神様として信仰されている。
だが教会は国が運営しているので、勝手に教会を建てたりすることはできない。
更には神父やシスターと呼ばれる修道士になるのは非常に難しい。
国から定められた規則や過去などを全て調べられる、それだけ国の中枢に触れることが多いからか、管理が徹底されている。
更には一人一人に本人証明の為の証を支給される、その為本当にその者が修道士なのかが分かる。
偽って何かをした場合、それは重罪に値する。
逆に証を使って修道士が問題を起こした場合も重罪になる場合がある。
そうしてあらゆる試験を受け、かつ聖属性魔法が扱える者がなれる職業なのだ。
故に修道士と言うのは実は少し権力が有ったりもする、それほどまでに特殊で希少な存在である。
「兵士の志願も多かったみたいですね、ようやく見張りや魔物討伐の人が増えそうですね」
「そうだな、しかし新規卒業者の様な者が多い。いきなり魔物と戦えるかと言うと、難しいとは思うぞ」
「ですなぁ・・・俺達もいきなり魔物と戦わされた時はおっかなびっくりでしたっけ」
「騎士の場合は町の治安維持とかが優先されるのでは無いのですか?」
「今はそうなのかも知れんな、私達の時代は隣国との戦いも激しかったからな」
「魔物及び人との戦闘に慣れるのが一番優先だったからな」
「まぁ、人との戦闘は嫌でも慣れるのでは?」
「どういう事だ」
「父上やヴォルフォ、エリア姉様に付き合わされていれば嫌でも慣れますよ」
「何せ魔導士である俺が、ここまで対人戦闘に特化出来ているのですから」
父上が笑いながら言う。
「それはお前がおかしいだけだ」
「はいはい、俺はおかしいですよ」
「まぁ、新人の教育なら任せてくれ、ビシバシ鍛えるぜ」
力こぶを作りながらディンが笑っている。
「ほどほどにね・・・」
「クロアも、今日の料理を頼むぞ」
「はい、ラックモックと話してきますよ」
「久々にこりゃぁ腹を空かせないとな!」
「では一度家に戻ります、案内よろしくお願いします」
クロアがその場を後にする。
「しかし、坊はえらく気に入られてますな」
「ああ、私もそれが少し気になっている」
そもそもこの住人達は、当初の予定では十人程度であった。
しかしクロアの怪我を治す為にインチェンス領に向かい、教会で行ったときに侯爵に出会い、その話の流れでイストフィース領にも教会を作ってはどうかと言われた。
更には今年来る働き手を何人か渡すと言われ、この人数になったのだ。
「ああ見えて、侯爵様って年下好きなんですかね」
「下世話な事を言うな、まぁクロアも良く侯爵様とは会って話しているから気が合うのかもしれんな」
「ならば逆玉の輿だな」
「お前は以外にそういう話は好きなのだな」
「いやぁ、坊の相手は誰もが気になるでしょう」
「我が子ながら優秀だからな」
「そうですね、んじゃぁ俺もヴォルフォの方に顔出してきます」
ディンがまた始まった、と思ったからすぐにその場を離れる。
「頼むぞ」
「私も領民へ、今一度説明をしに行くか」
イストフィース領始まって以来の大人数の増加。
今までは人を呼べた地でも無かったため、毎年数人ずつ増えていた。
しかし今年は紆余曲折あり大幅な人数になってしまった、そのためいつもより領内にお祭りの様な感覚が流れている。
だが人が増えれば問題も増えてしまうのが世の常、嬉しい反面、面倒事も増える。
新たな風が領内に流れる、それが明るい未来の兆しなのかは、風だけが知っている。




