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不等で理不尽な世界で(仮)  作者: 麒麟草
動物と魔物
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動物と魔物 ⑨

魔物騒動から、五日が過ぎた。


「ん・・・まだまだ痛いな」


クロアはあの後、止血が済むと魔力を使いすぎたのか眠ってしまった。

丸一日ほど目覚めず、イストフィース家も意気消沈していた。

しかし二日目には目を覚まし、家族を含め領の人々も安堵していた。


「あの時の感覚が、まだ残っている・・・」


この歳にしては、色々な経験をして来ている気がするが肩を貫かれたのは初めてだった。


「身体の痛みもだけど、魔力循環の更に奥に行けたような感覚」


魔力循環による身体の強化、魔法の常識の一つでもある。

一般的な感覚として、強力な鎧を纏うイメージ。


「鎧では無く、身体の芯・・・」


起きて早々にクロアが何かを考えている、そんな事を考えているとドアからノック音。


「坊ちゃん、起きていますか」


クロアは一旦考る事をやめる。


「起きてるよ、どうぞ」


クロアの返事にヴォルフォが扉を開ける。


「あ、まだ駄目ですよ」


ベッドから降りようとしているクロアをヴォルフォが静止する。


「もう目覚めてから四日目・・・流石に飽きてきた」


「はぁー、リリル様からのお許しがでたらいいですよ」


「分かってて言わないでくれ、母上が許すわけないだろう」


「なら大人しくしててください」


「と言われてもなぁ・・・」


目が覚めた時は身体が起こせなかった、肩と背中にかなり激痛があった。

それから魔力循環を全開で回していたけど、そのせいか次の日には背中の痛みは薄れていた。

流石に肩は塞がらないけど。

そのおかげか身体の治りが早くなっているのか分からないけど、少なくとも立ち上がる事は容易にできる状態だった。


「なら何か報告書でも持ってきてくれない?」


「それも隊長に止められているんで駄目です」


八方塞がりである。

畑の状態も、この魔力循環の事も、気になる事だらけ試したい事だらけなのだけど。


「取り合えず皆に顔を出したいから、外に出る事は許してよ、母上にも今から会いに行く」


「・・・わかりました、お二人の許しがあれば俺も文句はありません」


「ありがとう、ついでに服を取ってくれるとありがたい・・・」


「手伝いますよ、この家にはメイドの一人も居ませんからねぇ・・・」


「お兄様ー!」

「クロア様ー!」


元気な声が聞こえてくる。


「おはよう、オルカ、サキユ。今日も早いね」


「お着換え手伝います!」

「ボクも!」


目覚めた日からオルカとサキユがやたらと手伝いに来る、監視も兼ねているのかもしれないけど。


「ありがたい申し出だけど、今日はヴォルフォがいるから」


「ヴォルフォ、お父様が呼んでたわ!」


「おや、そうですか。ではここはオルカお嬢とサキユに任せます」


こいつ・・・!

二人の手伝いはありがたいのだけど中々大変なのだ、取り合ったり手が届かなかったりと色々・・・


「いってらっしゃーい」


そんな事を考えていたらヴォルフォが部屋から居なかった。


「・・・今日もよろしくね」


「任せて!」

「はい!」


朝からドタバタと。クロアの部屋から大きめの音が響く。





-----∇∇∇-----





「おはようございます」


「ヴォルフォから聞いている、動いて大丈夫なのか?」


「はい、まだ痛みはありますけど、寝すぎるのも良くないでしょうし」


「もし外に行きたいと言うなら駄目ですよ」


母上に先手を取られた。


「・・・まだ何も言ってませんよ、母上」


「クロアの顔に書いてあります」

「朝ご飯を食べたら大人しく寝なさい」


「起きたばっかなのに流石に眠れないよ・・・」


どうにか二人を言いくるめなければ、外出とは行かないまでも部屋に監視付きで寝たきりは流石に身体に悪すぎる。


「ずっとベッドの上に居ても治るのが早くなるわけでも無いでしょう、せめて家の中でぐらい好きにさせてくれませんか?」


「まぁそうだな、家から出ないのであれば私は構わないが・・・」


父上がそう言いながら母上の顔を見ると。


「駄目です」


ピシャリと一言、この件に関しては怪我をしないと言う約束を破った手前反論できない。


「ならせめて、母上の授業に一緒に参加したり、皆の鍛錬を見学するのは駄目ですか?」


「クロアはもう授業を修めているでしょう?それに鍛錬を見てどうするの」


「お母様、その・・・」


オルカやスーが何かを言いたそうにしている、なんだろう。


「どうしたの?」


「オルカは・・・お兄様に勉強の成果を見てみて欲しいです」


「僕も、兄様に魔法についてお聞きしたいです・・・」


我が家において魔法は母上か俺に聞くしかない。

父上もエリア姉様も剣を修めている者なので、魔力循環はとびっきりでも魔法攻撃や生活魔法は不得手である。

父上はまだしもエリア姉様は生活魔法の制御すらめんどくさいと言ってやらないので、母上も手を焼いている。


「・・・はぁ」

「分かったわ、ただし見学するだけよ。参加したら常に部屋に居てもらうわ」


「それで構いません、ありがとうございます」


二人も俺に向かって、笑ってピースする。


「ありがとう、オルカ、スー」


片手で一人ずつ撫でる。


「えへへ、お兄様の食事の手伝いも任せて!」


「オルカ、ずるい・・・僕だって」


「食事は自分で出来るから・・・」


そうして、食事を終えて、久しぶりに母上の授業を受けた。


「お兄様、ここを教えて下さい」


「計算問題だね、ゆっくり解いていこうか」


「あまり教えすぎては駄目よ、クロア」


「分かってますよ、答えだけ教えるなんて事はしませんって」


母上と一緒に姉弟に教える、そうして昼過ぎになり、外で父上やヴォルフォ達との鍛錬。


「相変わらず、エリア姉様は父上とだけやっているのか」


少し離れたところで見学をしている。

ルーシ、オルカ、スーは魔力循環を高めるための鍛錬を。

エリア姉様は剣の腕を高めるために父上と打ち合いを。

見ていると、俺も少しぐらい動きたくなるが、流石に今やったら監禁されてしまう。


「三人共、覚えが早くて困ってますよ」


「ヴォルフォから見て、どう?」


「恐らくもう基礎は出来ていますね、後はそれをどう伸ばしていくのかって感じだと思います」


「俺から見てもかなり制度の高い循環に見えるね」


「坊ちゃんが言うなら間違い無いですね、多少は出来ますがやっぱり魔法に関しては坊ちゃんやリリル様の方が理解が深いですから」


「母上はまだしも、俺はまだまだだと思うけどね」


「ご冗談を・・・」


割と本気なんだけどな・・・確かに魔力量や出力は高いかもしれないけど、年季が違うのも事実。

いつも魔法の鍛錬をしているから分かる。

ヴォルフォ達騎士クラスは魔力循環に揺らぎが無い。

魔力の動きでどこに魔力を、力を込めているかが分かったりするのだが、騎士の人々はその揺らぎが限りなく少ない。

恐らく身体に染み付いた感覚なんだろうけど、その揺らぎの少なさは今の俺には出来ない芸当だ。

現状の俺は量と出力で誤魔化しているに過ぎない。

まだまだ自分が甘いと、思う時はある。


「兄様、どうですか」


「ルーシ、よくできていると思うよ」


「まだミツタに会わせてはくれないんです・・・」


「ミツタ・・・?」


「はい、熊の名前です」


そういえば名前を付けたとは聞いたけど名前を聞いてなかった。


「そのミツタは今誰が管理してるの?」


「今は父様とサキユがしてくれてます」


「そっか、なんでサキユが・・・」


「そういや坊ちゃんは寝てて聞いてなかったですね」


「何かあったの?」


「それが・・・サキユは動物の言葉が何となくわかるみたいですよ」


「・・・本当か?」


「その・・・ミツタでしたっけ、見事に餌の好き嫌い聞き分けましてね」


「そうなんだ・・・」


もしかしてサキユは、固有魔法でも持っているのかも知れないな。


「お兄様!」


「どうしたの、オルカ」


「お兄様の魔力循環を見せていただけませんか?」


「僕も見てみたいです、その・・・ヴォルフォ達のは何だが難しくて」


ヴォルフォ達は基本的に魔力循環を鎧を着ると言う。

だけどあの時の俺の感覚は全く別物だった。


「そうだね、ちょっとやろうか」


この頃常に循環をしていたのだけど、改めてやるのは何だが不思議な感覚。

ルーシ達はまだ魔力を探知することが難しい、だから俺が常に使っている事に今まではあまり気づいていなかったけど、今後は気づくのかも知れない。

そんな妹達の成長を感じつつ、あの循環をやってみる。


「ふぅー・・・」


研ぎ澄ます、身体の内側を、芯を、血管を、脳を、身体強化を鎧では無く自分自身が鋼鉄になるみたいに。


「こんな感じかな」


「わぁー・・・」


「体内に魔力を秘めている感じかな、これはルーシ達の考えを変えるかも知れないけど、こんなやり方もあるんだ。なんて、偉そうに言ってるけど俺も出来るようになったのはこの前からだけどね」


「それは、その、強いのでしょうか?」


「確かに、魔力を秘めているから分かりずらいかもね」


「でもすっごい静かでなんだか綺麗でした!」


「ありがとう、三人も出来ると思うから早くミツタに会えるように頑張ろうか」


「「「はい!」」」


三人が鍛錬に戻っていく、ヴォルフォも後に続いていく。


そんな皆を見て、守れたのだと実感した。

この光景が、今の幸せが、もしかしたら大惨事になっていたかも知れない。

それでも守れたのだ、まだまだ身体は痛い、だけど今はただこの幸福を噛み締めておく。



動物の魔物化による環境の変化。

動物や魔物による被害はいつもある、でもこの出来事はこの領に多大なる成果を残した。

山と言う自然、そこに生きる動物と魔物、彼らは隣人であり、時には敵にも味方にもなる。

クロア達は共存するために、味方であるために、今日も明日も、奔走する。

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