動物と魔物 ⑥
「まず最初に、皆には謝らないといけない事があるんだ」
いつものメンバーは集まり、クロアが最初に口を開く。
「坊ちゃんが謝りたい事ってことは・・・何かイラズラの様な事でやらかしたってことですか?」
「違うよ、かなり真面目な話」
ヴォルフォが茶化してくるので注意する、人をなんだと思っているんだ。
「今回の魔物化の件、多分俺のせいなんじゃないかと思ってる」
「クロア、何か心当たりがあるのか?」
父上の言葉に小さく頷く。
「皆覚えていますか、盗賊達との戦い」
「そりゃぁ今でも鮮明に、あんな明るい夜は初めてだったしな」
「そうですね、不謹慎かもしれませんが私も少し綺麗だと思ってしまいましたから」
ディンとグラハが笑いながら思い出している。
「恐らくあれのせいじゃないかと思うんだ」
「魔力の滞留ってやつですか?」
「うん、あの時盗賊達の中にいた魔導士と魔法の押し合いをしていたから・・・恐らくその大量の魔力が山に流れて今回の件につながったんだと思う」
「申し訳ありません、俺の落ち度でもあります」
クロアが頭を下げる、その場にいたルーシがクロアに抱き着く。
「兄様が頭を下げる必要はありません、だってあの時はそのおかげで・・・私達は皆無事だったんです」
「兄様は頭を下げるのではなる誇って、胸を張って下さい」
ルーシに慰められる、それでも今回の件を引き起こしたのは俺の可能性がある。
原因の可能性があるなら頭を下げるのが筋だと思うから。
「そうですよ。坊ちゃんの作戦が無く村に奴らが入ってきていたかもしれないと思ったら、負けていた可能性もありますから」
「人質などが取られた場合は我々は・・・戦い続けられなかったかもしれません」
「そうだぜ、坊」
「皆の言う通りだ、お前はあの時、最大限の仕事をした。そしてそれを責める者はこの領にはおらんよ」
皆の言葉が、嬉しくもあるが、なんだか甘えてしまっているようで、何とも言えない感情になる。
「それでも、もう少し考える事も出来たはず。だからこそ、原因の一つかも知れないと思って今回の件は注意してください」
今一度、気を引き締める。
魔物化した魔物とはそれほどまでに脅威であるから。
「でも確かに、坊ちゃんの魔力から生まれたかも知れないって考えると、ちょっと怖いですね」
「そうだな、警戒を強めるように勧告を出しておこう」
「さて、話は魔物の件だが・・・」
「その前に、一つ」
「どうした、グラハ」
「色々な不信な点から魔物化した動物と決めていますが、目撃情報はあるのでしょうか?」
現状恐らく魔物化した動物が暴れている可能性が高いとしか言えない。
「魔物化した動物を確認した人はいないね、狩人の人達にも聞いたけど鹿が凶暴化してるって事しか」
「となると魔物では無い可能性もあるのでは?」
「状況を考えれば、でしか話が出来ていないからな、山を広く調査するしかないか」
「しかも本当に魔物だった場合を考えると、調査は我々が担当するしか無さそうですね」
「細かい作業は苦手だぜ・・・」
「そうも言えないでしょう、狩人達だけで魔物化した動物の相手など危険です」
「でしたら、私達も同行させていただけませんか?」
ルーシが調査に手を挙げる。
「私とオルカとスーは魔物化した者を見たことが無いので、勉強にもなるかと思いまして」
父上が頭を抱える。
「言いたい事は分かるが・・・危険すぎる」
「これに関しては俺も反対だよ、ルーシ」
「兄様・・・」
うるんだ瞳でこちらを見てくるが、その顔で揺らぐほど甘くは無い。
「ダメだよ、少なくとも母上と父上が良しとするまでは鍛錬だけだ」
熊の件で皆強くなろうとしているが、流石にまだまだである。
エリア姉様ほどの剣技、俺と同じほどの魔法、とまでは行かないまでもヴォルフォ達騎士と戦える程になるまで父上と母上は許す気は無いらしい。
「しかしこの広大な山を探すとなると、骨が折れそうですね・・・」
「無理に広げなくてもいいと思うよ」
「坊には何か考えがあるのか?」
「鹿が多いところを調査すればいい、恐らく鹿の魔物化だろうからね。狼や猪の生息地は除外しても大丈夫だと思うよ」
「それなら・・・いやそれでも広いですね」
「こればっかりは地道にやっていくしかないかな」
予測などは建てられなくも無いが、あくまで予測でしかない。
本当に魔物化しているのかも現状確認出来ていないので、どうしても後手に回るしかない。
そんな会議の中、慌ただしい足音が聞こえる。
「クロア様ー!!」
サキユが扉を開けて入ってきた。
「そこまで慌てていると言う事は緊急事態?」
「大変だよ!リリーとロズが子供達を連れて魔物探しに行っちゃった!!」
「なっ・・・!!」
しまった、魔物化を見てみたいのは、ルーシ達だけでは無かったようだ。
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「子供達は!?」
「領主様、それが・・・少し前に山に入る子供達を見かけたと」
「どこに向かったとかは分かりますか?」
「いえ、見張りの者が休憩中の隙に山に向かってしまったみたいで・・・」
「つまりまだそこまで時間は経っていないのか」
「大将、俺に行かせてくれ、バカ息子共を連れて帰る!」
「いや、やみくもに追っても夜の山で子供達を見つけるのは難しいだろう」
父上が少し考えて口を開く。
「リリルに追跡を頼もう、だから少しここで待て」
「くっ・・・了解」
「俺もそれが良いと思うよ、母上を呼んできます」
「頼む」
「その必要はないわ」
群衆の中から透き通るような声が聞こえた。
「何かあったと思ってきてみれば、元気な子達ね・・・」
「リリル様、申し訳ありません・・・」
「私からも、娘が申し訳ありません」
「いいのですよ、私達の領で好奇心旺盛な子供なんて、いつもの事じゃない」
何となくクロアに目線が集まる。
当の本人は知らん顔をしている。
「それよりも、ディン、グラハ、何かあの子達が身に着けている物だったり、いつも持っている物は無い?」
「私の娘は剣を持っていますが・・・持って行っているようですね」
「ちょっと待っててください、多分あのバカが良く持っていた本があったはず」
そう言うとディンが自宅へ急ぐ、その間に捜索隊を選ぶ。
「夜の山だ、私とヴォルフォ達で行こう」
「いえ、父上は村に残って下さい」
「クロア、お前が行く気か、流石に無茶だ」
「しかしそうしなければ村に居る騎士クラスが姉様だけになってしまいます、もし魔物化した奴が山から出てきたら誰が相手をする気ですか」
「だが山の中にもその可能性がある」
「状況が変わります、山の中で戦闘になるなら最悪逃げる事も出来ますが・・・村では逃げる事は出来ない、ここで仕留めるしか無くなります」
「それに他の魔物も呼応して活発になっている危険性もあります、村には最大戦力が残るべきです」
「それは・・・」
「隊長、大丈夫ですよ、俺とディンも坊ちゃんに付いていきます」
「む・・・」
父上が難しい顔をしているが、納得してくれたらしい。
「兄様」
「連れてはいけないよ、ルーシ」
目を見ればわかる、連れて行ってくれ、と。
「私も今回の件には参加させてくれると、前に約束してくれましたよね?」
「確かに言ったよ、だがさっきも言ったけどこれは・・・」
そう言いかけて、ルーシが、初めて見る目を、顔をしていた。
知らない間に、そんな顔にもなるようになったんだと、家族ながら思った。
「わかった、いいよ」
「ありがとうございます!」
「おい、クロア」
「分かっています、もちろん最大限守ります。けどあんな顔を見たら、止めるなんて、子供だからなんて、俺が言えた義理でも無いですし・・・それに、平等じゃないですよ」
「・・・分かった、だが万が一の時は」
「分かっています、家族を最優先で守りますよ」
父上と二人で目を合わせて、頷く。
「申し訳ねえ、待たせてちまったな」
ディンが帰ってくる、手に持っていた本はロズが良く持っていた本だ。
「少し借りるわね」
母上が受け取ると、母上の周りから魔力が溢れる。
これが母上の固有魔法、『魔力追跡』
魔力を持っている対象の人、または物に対してこの固有魔法が使える。
一度に追えるのは三つまで。
そしてその追跡は母上の魔力が無くなるまで魔法の道しるべが現れる。
母上はこれを応用して、自分の扱う属性魔法などにこれを乗せる。
魔法に追尾機能の様な効果が付与される。
魔法の扱いに長けている証拠だ。
少しして、道しるべが現れる。
「これを追って、少なくともロズ君の居場所は分かるはずよ」
「分かりました、ヴォルフォ、ディン、サキユ、ルーシ行くよ」
「合点だ!」
「えっ・・・あなた?」
「承知の上だ、あの子の覚悟を無下には出来ん」
そう言われて母上も、何も言わずルーシを見送る。
道しるべがを追って、五人で山に入って行く。
子供達の好奇心はいつだって止められなくて。
でも、ルーシにもあったように、彼ら彼女らも、村のために、領のために何かしたくて。
山は人を拒まない、しかし無事で帰すとも、恐怖も与えないとも、答えてなんてくれなくて。




