動物と魔物 ⑤
山が、森がざわめく、動物たちが動いているのか、それとも、何かが生まれているのか。
「未だに動物の大量発生の問題は分からないまま、か」
熊の飼育などを始めたから動物を捕まえるなどして生体の調査も進めていている。
しかしここまで増えた原因がわからない。
「何匹か捕まえて、やはり鹿が多すぎるのは分かったけど・・・」
全ての動物が総じて多くなっているのは分かる。
全体的に狩りなどに行ける人が少なくなっている現状なので増えるのは理解できるが、同一の個体だけが多い理由を考える。
元々鹿が多いと言うのはわかる、しかも繁殖力が高いかと言われれば高い。
だが山に居る動物たちを考えれば、捕食される側でもある。
狼や熊、魔物も当然肉食がいる。
となれば鹿、いわば食料が増えたから他の動物も増えたと考えた事もある。
だがそれなら鹿は減るのが必然なはずだ。
捕食者が多い場所で増え続けるのは異常だ、食べられるより増える方が早いと言うのは流石に考えずらい。
「何かが起きてるのか、ただ単に増え続けているだけなのか・・・」
答えが出ないと言うのは何とも精神的に良くない。
「・・・考えすぎても仕方ないか、そろそろ畑に行くか」
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「魔力土だと本当に成長が早いな・・・収穫する人を増やさないとな」
畑に来るたびに言っている気がする。
自分の畑に関心していると。
「クロア様!!」
領民の一人がこちらに向かって叫んでいた。
「何かあった?」
「急に申し訳ありません。それが・・・」
「皆、おはようございます」
「クロア坊かい」
住人の人達が道を開けてくれる。
「この人は・・・狩人だったよね、何があったの?」
「襲われたんだとさ、山でね」
「自分はそいつの仲間です。クロア様、その・・・鹿に襲われました」
「鹿に?」
変だな、生存本能で抵抗する事はあってもいきなり人を襲うほどの凶暴性は鹿には無いはず。
しかも狩人ならば基本的に抵抗ぐらいできるはず、二人一組で動いているから後れを取る事も少ない。
にもかかわらずこの怪我は普通ではない、かなり損傷している。
「詳しく聞いてもいいかな」
「はい・・・その、いつも通り山に入って罠の確認などをしてました」
「そして帰り道にはぐれの鹿を見かけたので、村に入る前に仕留めておこうと思ったのですが・・・」
よく聞く話でもある、人里の畑に猪や鹿なんかは入ってくるからはぐれた動物が山から下りて味を覚えているのでもう一度下りてくるみたいな話。
「俺達の事を見かけたら急にこっちに突っ込んできて、角を振り回しながらこっちに・・・」
「なるほど、この人の怪我はその角によるものってことか」
「そうだね、かなり固いものでえぐられてるねこりゃぁ」
そんな話を住民の人達をしていると。
「坊ちゃん、ここに居たんですか」
「ヴォルフォ」
「ちょっと見て欲しい物があるんですが、いいですか」
「わかった、すぐに行くよ」
「皆さんも山に行くときは気を付けてください、必ず一人ではいかないで」
住民達に注意しつつヴォルフォと一緒にその場所に向かっていく。
「こっちでも何かあったの?」
「ええ、隊長か坊ちゃんに見てもらった方が早いと思ったので」
たどり着くとそこにはルーシとサボンも居た。
「何か見つかったの?」
「兄様・・・」
そこには兎と狼の死骸があった。
乱雑に嚙み砕かれた跡が付いているが。
「これは・・・」
よく見てみると、噛み跡がいびつだった。
熊にしては変だし、猪にしては小さい。
「何の噛み跡なんだこれ・・・?」
「それがのぉ・・・鹿の口の大きさにぴったりでの」
「鹿が、狼を食ったと?」
「ありえん話じゃが・・・他の動物ではない事は確かじゃ」
あり得ないと断言できる、草食動物が肉を食らうなど。
確かに動物の死骸を食べると言う話は聞いたことがあるが、これだけ広大な山の中でわざわざ肉を食う意味が少ない。
「鹿に襲われた狩人に、鹿に食われた可能性がある動物・・・」
一つだけ、考えられることがある。
「魔物化した動物が居る可能性がある」
「やはり坊ちゃんもそう思いますか」
「魔物化・・・?」
「ルーシはまだ母上に教えてもらっていないのかな?」
「はい、初めて聞きました」
「そうか・・・ちょいどいいかもしれないし、夕食の後に皆で話そうか」
「わかりました」
「俺も向かいますね、隊長にも報告しないといけません」
「そうだね、サボンさんも山に入るときは気を付けて」
「そうしようかの、何かあったらまた頼るわい」
一旦そこで解散する、しかし魔物化か・・・心当たりと言えば、あの時だろうな。
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魔物化
それは魔物が生まれる二つの事象の一つである。
魔物には二種類の生態がある。
一つは自然生成。
これは魔力が滞留している場所に起きる現象。
魔力は滞留していると一つに固まろうとする、そして固まると魔石になる。
この魔石を守る外皮の様な形で魔物が生まれる。
よく聞くスライム種などは外皮を生み出すほどの魔力が無い状態の最低の状態なのだろうと言われている。
魔石を守る様に出来るが生まれる場所の環境にも左右されると見た事がある。
例えば寒さが厳しい場所では毛深い魔物になったり、海の中で生まれた魔石なら魚のような形状のしたりと、魔物の見た目が多種多様なのは環境による違いなのかもしれないと言われている。
そしてもう一つが魔物化。
滞留している魔力が生命に取り付き、その生命が魔物になる現象。
これは人間にも起きる現象、しかし人間や魔力を宿している生命には自身の魔力があるので基本的に滞留している魔力を取り込み自分の物に変換できてしまう。
だが動物にその変換機能がない。
故にこの現象は動物に最も多い、魔力に憑依された動物と言われる事もある。
魔物化の恐ろしい点は元の動物に魔力が宿り凶暴化してしまう事。
自然生成の魔物は魔石を守る形にも魔力を使うらしいので、強力な魔物が生まれることが少ないのだが、動物などの場合はすでに外皮が用意されている。
普通の魔石より一段階程上の魔力の結晶になる。
魔物はこの魔石から魔法や身体強化を行っているので非常に強い魔物になる可能性が高いのだ。
なので魔導士の様な人々は魔法を使ったら基本的に滞留させずに霧散させたりもする。
とは言え膨大な魔力を使わなければ別段起きる事も無い、滞留している魔力も大地に宿る事が多いのであまり気にせずに魔法を行使できる。
「魔物ってそんな生まれ方をするのですね・・・」
「そう、だから魔法とは強力な物だけど制御しないと危険なんだ」
現在、熊を飼う為に家族は全員鍛錬をしているので魔法が危険な物と言うのも教えておきたかったので丁度よかった。
「私も失念してました・・・一番最初に教えるべき事でしたね」
「そんな事は無いさ、リリルは本当によくやってくれている」
「あなた・・・」
子供が全員いる中で急に二人の空間を作らないでほしい。
「今回は恐らく鹿が魔物化したんだろうね、そしてその鹿がリーダーの様な動きをしていて、鹿の個体が非常に増えたんだろうね」
鹿が多い理由にも納得がいく。
そんな魔物が居たら捕食者である熊や狼も勝ち目はないだろう。
「しかしそうなると、かなり危険ですね」
「そうだな、至急皆を集めて今後の事を決めよう」
「なら、その件はクロアとウィンに任せて私達は食後の運動でもしましょうか」
「すぐに用意するわ!」
そう言うとエリア姉様が部屋を一番に出ていく。
母上と鍛錬できるのが楽しいのかもしれない。
「母上、ルーシはこっちに出てもらってもいいですか?」
ルーシが言いだそうとしていたので先に聞く。
「いいわよ、今回の件はルーシも気になるでしょう」
「母様、ありがとうございます」
「いいのよ、その代わり明日は厳しくするわよ?」
「はい!」
こう見えて母上も強いのだ、まぁベニア姉様とエリア姉様を見ると弱いわけが無いのだが。
「ではヴォルフォ達にも声を掛けてきますね」
そうして部屋を出る、原因が分かれば後は対処するだけ。
だが相手は魔物の中でも危険な個体。
自然は人の都合で待ってはくれない。
クロアは、山がいつもより脅威な存在に見えた気がした。




