動物と魔物 ④
「どういうことだ、クロアよ」
両親が俺を見る。
「別に優しさとか可哀そう、感情的に飼いたいってわけでは無いよ。ルーシ達には悪いけどね」
姉弟達も不安そうに俺を見る。
「取り合えず、飼う場合のメリットとデメリットを比べないといけないと思ったんだ」
「もちろん飼わない場合はそのまま逃がすなり何なりで、すぐに終わるだろうね」
「ではお前は飼う場合の利点があると?」
「あると思いますよ、当然かなり条件はありますけどね」
「まず一つ、人に危害を加えない様に育てられるなら領の防衛にもなるでしょう」
皆が聞いてるので、そのまま話を続ける。
「二つ目、獣害の軽減につながる可能性があります」
「どういう事ですか?」
「熊が何を好物にしているか皆知っている?」
「お魚!」
「あとは木の実とか?」
「エリア姉様もオルカも当たりだよ、でも熊ってかなり雑食なんだ」
「木の実、野菜、魚も一部食べるらしいし、昆虫まで食べるらしい」
「虫も食べるの!?」
「驚きだよね、ハチミツなどが好物なのは知っているかな、それを作っているミツバチなんかも好物みたいだよ」
「そして何より、鹿などの肉も食べるんだ」
「つまり、熊を飼って鹿などを退治すると?」
「あくまで上手く行けばの話ですけどね、熊は鹿の天敵になり得ると思っているので、熊が山に徘徊するだけでかなり鹿の活動範囲を抑えられる可能性があると思っています」
「もちろん熊の数が増えすぎても問題ですが、飼えるならいくらか制御ができるでしょう」
「なるほど、確かに上手く進めば面白いかも知れんな」
「ちょっと、ウィン」
「分かっている、その話だけで納得はしない」
(父上はほぼ説き伏せれそうだが、やはり母上が大変だな)
「そして三つ目、それはイストフィース領の名声につながる可能性です」
「名声?」
「王国内で、熊を飼育している貴族なんていませんからね。イストフィース殿は熊すらも、手懐けたって多少の噂になるでしょう」
「それに我が領の様に山や森が多い領地の方から声がかかるかもしれません。同じような事で悩む可能性がありますからね」
「お前の言いたい事は分かった、とにかくダメだと言ってすまなかったな」
「・・・私も少し反省します、でも危険だからやはり飼う事は許せないわ」
「そんな・・・!」
エリア姉様達が悔しそうに両親を見つめる。
「まぁ待ってよ、今のは利点の話」
「姉様達には悪いけど、飼う事が当然だけど良い事ばかりじゃないよ」
少し皆を落ち着かせながら、今度は不都合な点を伝える。
「まずは母上が言ったように飼う為の食糧の確保。さっき言った好物を作るか集めるかしないといけない」
「私が頑張って集めるわ!」
「そう言うとは思ってたけど、その話はあとでにしてください姉様。今は取り合えず俺の話を最後まで聞いてもらってもいいですか」
「ふんっ!」
姉様が不満そうに紅茶を飲む。
一旦聞いてくれるらしい。
「次に危険性、人に危害を加える可能性は当然あります、けど魔物ほどの脅威が無いのも事実」
「正直これに関しては離れに熊小屋を作ればいいと思います、あの子熊は確かに姉様と戦えたそうですが・・・魔物と同じぐらい強かったかと言えば、如何ですか姉様は」
「一撃で倒れなかったけど、まぁそれぐらいね」
熊とは言え正直ただの動物でしかない、魔力や魔法を扱ってくる魔物に比べればその脅威は雲泥の差だ。
魔力循環による身体強化がしっかりできれば魔力を持たない動物に負ける事はまず無い。
あくまで一対一の戦いにおいて、だけど。
「それは一理あるが、それだけで危険がないなど言えないだろう」
「当然危険でしょうね、魔力循環にも強弱がありますから。熊相手と考えると戦い慣れている人じゃないと危ないでしょうね」
「そして飼育場所ですね、今の我が領に熊を伸び伸びと飼える場所が無いですから」
「では、クロアは難しいとわかりながら飼いたいと言うの?」
母上がこちらを真っすぐに見つめながら、聞いてくる。
「逆に言えばその難題が解決出来たら、お二人は納得しますか?」
両親が顔を合わせる、姉弟達で言葉を待つ。
「そう、だな・・・私はクロアの言い分も納得はできる。当然危険だからあまり気は進まないが、領の事を考えての結論なら私も面白いとは思う」
「私は・・・やはり納得できないわ、危険すぎるもの」
「危険って何よ!あの子は私が倒したのよ、何も危なくなかったわ!」
母上の言葉を聞いてエリア姉様が爆発する。
「それはエリアだから大丈夫だっただけでしょう?それにエリアを襲っている時点で危険だわ!」
「二人共落ち着いて下さい、まだ話は終わってませんよ」
手をたたきながら二人を落ち着かせる、また口論なっては感情論が飛び交う前に止めなければ。
「父上と母上の考えは分かりました、なので条件を付けませんか?」
「条件?」
「一つ、熊に負けないと証明する事」
「二つ、俺達姉弟は誰も熊と言う命を簡単に諦めない事」
「三つ、熊が問題を起こした場合は俺達が責任を取る事」
「四つ、従順に飼育できなかった場合は・・・それを終わらせる事」
四つ目を聞いて、姉弟が泣きそうになっているが、これだけは譲れない。
領民の安全を考えれば、そうするしかない。
「そしてこの条件を俺達の中で誰か一人でも破ったら、全員あきらめる事」
「どうですか?」
「私は構わないが・・・リリル」
「分かってます、ここまで言われたら私も覚悟を決めます・・・はぁ」
母上が、ため息をつく。
「それで、他の問題はどうするの?」
「それについては、実は色々考えてましてね」
この頃、魔力土の畑を増やしまくって困った事があったのだ。
その中の一つに倉庫の肥やしになっていた恐らく野菜の種をばらまいたのだ。
それで出来たのが山菜畑だったのだが、生命力が強いのか育つスピードが速すぎて収穫が間に合わないのだ。
しかも食べてみたところ全く味がしなくて腹の足しにするには中々の量を食べなければならないと思って失敗した畑がある。
いつこの失敗を報告するか悩んでいたので、俺にとっては実はちょっと嬉しかったり。
「一つ使えなくなった畑があるのでそこの熊の飼育場所にしましょう」
「ついでに餌にもなるでしょうから、小屋などを立てて畑ごと囲ってしまえば多少安全にもなるはずです」
「もうすでに準備してたのね・・・」
「なんだかクロアに言いくるめられた気がして、お母さんは悔しいです」
そう言いながら頬をツネってくる、痛い。
「え・・・じゃぁ・・・」
「ここまでされたら仕方ないわ、しっかりと育てるのよ?」
「「「やったああー!!」」」
姉弟達が喜んでいる、当然俺も嬉しい。
母上から逃げながらエリア姉様に一つ頼み事する。
「エリア姉様、一つ頼んでもいいですか?」
「何でも言って!ありがとうクロア!!」
「ありがとうございます!兄様!」
「お兄様ー!」
姉弟を抱き留めながら、話を続ける。
「おっとっと・・・では姉様」
「何をすればいいの♪」
「もう数匹捕まえてきてください」
「え」
家族達が止まる。
「何か変ですか?」
「兄様・・・えっと、あの子熊を飼うのでは無いのですか?」
「うん?・・・変な事を言うね、ルーシ」
「熊を飼育するって言ってるんだから、一匹なんて俺は一言も言ってないよ」
「そもそも一匹だけ育てるならそれはペットでしょう、俺は飼育と最初から言ってたはずだけど」
「だから姉様、少なくともあと五匹ぐらいお願いしますね。子熊じゃなくてもいいですよ」
「それから父上も母上も、一度認めた事をやっぱダメだなんて、言いませんよね?」
笑いながら言い放つクロア。
その顔はまるで悪戯っ子が、悪戯に成功したような。
「ならば最初から分かりやすく話さんか!!!!」
当然ゲンコツが、領主から飛んでくる。
この日からイストフィース領にて、動物、いや住人が増えた。
まだまだ問題は山積みなのですぐに、とは言えないが。
それが動物と歩く第一歩だったからか、山がいつもより笑っているような、そんな日だった。




