固有魔法とお土産を
目が覚める
どれくらい時間が経ったのだろうか
少し疲れがあったように感じた身体は軽い
そして頭の中には新たな魔法を感じ取れる
「名前だけ聞いたら、確かに役に立つ場面は少ないようにも感じるな」
小さく呟く
だが今は儀式の部屋の中だ
一先ずこの部屋から出よう、終わったのなら部屋を出ていいはずだ
台から降り改めて部屋を見渡すと、灯っていた蝋燭が完全に消えているのがわかる
儀式の魔法も無くなっているのか部屋がかなり暗い
部屋の端まで行って扉を探して部屋を出る
「ただいま終わりました」
外に出ると教会の窓から眩しい光が見える
変な感じがした、俺がこの教会に着いたのは昼を過ぎた頃だったはず
部屋にいた時間は一瞬だったのだろうか、だが蠟燭が溶け切っていたからそれは無いはず
「クロア!」
「クロア君!大丈夫!?」
父上とショウナ様が俺を見つけて駆け寄る
「たった今魔法を賜りました、それにしては父上もショウナ様もどうされたのですか?」
「どうされたではない、お前の儀式の時間が長くて心配をしていたのだ」
「ええ、生誕の儀式はもっとも長くて3時間程度のはずなのに、クロア君が儀式を初めてもう1日経ったのよ?」
驚いた、コリーネとのお喋りはもっと短く感じていたけど
もしかすると時間の流れや何かが違うのか、それとも俺が寝すぎていただけかはわからないけど
「そうだったのですね、ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いいのよ、それに無事に魔法を授かったのですね」
「はい、お声を聞けました」
「父上も申し訳ありません、1日経ってるということは王都に滞在したのですよね・・・滞在費なども・・・」
「それについては無用の心配だ、ショウナ様が手配をしてくれたのだ」
なぜか父が嬉しそうにしている
さては父上、俺を心配などあまりしておらず王都を観光していたな?
「ええ、流石に私もこんなこと初めてだったので、今回は我々教会が責任をもって対処したわ」
「ショウナ様、ありがとうございます」
「構いませんよ、それで・・・どんな魔法を授かったのですか?」
来た
来るだろうと思ってい質問だ
ここで優良そうな魔法、もしくは文献や歴史上にある固有魔法なら囲いにでも来るのだろう
事実我が家の長女であるベニア姉様は、稀な魔法を授かり今では国の軍に最年少で働いている
少なからず金銭面で父や母は助かっている、反面家族とほぼ会えないというのは俺達兄妹から見れば気分のいいものではない
とはいえ、このまま答えないわけにもいかないだろう
「それはショウナ様にもお伝えせねばならないでしょうか?」
一応断ってみる
「クロア、失礼が過ぎるぞ」
ショウナ様が答える前に父に怒られる
「お前が思っていることもわかる、だがこれは義務でもあるのだ」
「儀式を修めたのならば、義務もちゃんと果たしなさい」
「クロア君ごめんね、何でもかんでも話せというのはあまり気分のいいものではないかもしれないわ」
「でもこれが君の身を守る為でもあるの、お話ししてくれない?」
ショウナ様の言う通りなのだろう、国や貴族がなぜ知りたいのか
自身のための力として働かせるなどの理由もあるだろうが恐らく一番はこれなのだろう
魔法で悪だくみをする者などごまんといるし、強力であったのなら他国などには行ってほしくない
しかしどんな固有魔法なのかを国が知っていれば国としても安全なのだ
危険と判断され、なおかつ国のためにその魔法を使わないのなら恐らく何らかの手段を取ってくるだろう
強力な魔法で無ければ無いで国としては問題なしと判断する
姉様は前者だったから軍に入ると決意したのだろう
俺はどう判断されるかな
「わかりました、僕が授かった魔法は・・・解体という魔法でした」
「解体・・・ですか?」
「はい、恐らく木などを薪にしたり、動物を部位ごとに分けられるのではないでしょうか」
「話してくれてありがとう、改めておめでとう!」
あまり大きな反応はされなかった、恐らく大丈夫だろう
「なるほど解体か、我が領内では木こりが少なくて困っていたしちょうど良いかもな」
「同意見ですね、開拓に使えそうでよかったです」
父もなんだか嬉しそうだ
「儀式の疲れなどはないかしら?もう1日ぐらいなら教会で手配しますよ」
これは嬉しい申し出だ
しかし父が少し悩んでいる、領地を何日も空けるわけにもいかないと思っているのだろうけど
「父上、僕は王都を観光できていませんし姉様達にお土産も買ってないのでは?」
「・・・そうだな」
「ショウナ様、もう1日だけお願いいたします」
「わかりました、ではイストフィース殿に案内した宿屋を今日もお使い下さい」
父と二人でお辞儀をする、金が無い我々としては願ったり叶ったりだ
「クロア君も王都を楽しんでね!」
「ありがとうございます、ショウナ様」
「そうだわ、なんだか平気そうに見えるけど1日なにも食べてないのよね」
ショウナ様が魔法を使い始める
瞬間、俺の手元に小さなパンと水が入った瓶が出現した
「よければ食べていってね、無理をしてはダメよ?」
「あ、りがとうございます?」
「ふふっ、私もこの後お仕事があるの、ごめんなさいね」
「イストフィース殿、よろしければまたお越しくださいね」
「はっ、ショウナ様もお忙しい中ありがとうございました」
「いいのですよ、では私はこれで」
軽い会釈をして教会の別の部屋へ歩いて行った
もしかしたら俺の魔法などを報告するのかもしれない
だが今気になるのは
「これが、ショウナ様の固有魔法ですか」
聞いたことがあった
王都の教会では時々貧困の子供達に大量の食べ物を渡しているとか
「ああ、私も魔法名までは聞いたことはないがとてつもないものだな」
実際おなかも喉も乾いていたのでありがたく頂戴しよう
魔法でできたパンと水
別段なにも変わらず非常においしかった、やはり空腹のときは何を食べても美味い
「我々も出るぞ、ここに長居しては迷惑だ」
父と二人で教会を出る時
少しだけあの花畑を思い出す、教会や王族といったものに嫌悪感があったが
コリーネとショウナ様のおかげで少しだけ和らいだ気がした
「さて父上、俺は少し王都の市場が気になります」
「お前は相変わらずだな、まぁいいだろう」
父と二人で歩き出す、姉様達のお土産も含めて買わねばならない
市場にどんな物があるのか今から楽しみだ!