新年は病と共に ⑨
宿に戻れば、小さなエントランスに大量の荷物があった。
様々な買い物袋と食べ物などが見える。
「これはまた・・・年に一度の開放日ですね」
そんな大量の荷物の中から悲鳴が聞こえる。
「助けてください兄様!!」
スーが叫びながらこちらに向かってくる。
クロアがスーを抱きとめる。
「母上に姉様達も、スーで遊ばないでください」
「別に遊んでないよ、ロア君」
「言い換えます、スーを着せ替え人形にしないでください」
スーを人形にしてた女性五人が笑っている
「だってスーは顔が可愛いんだもの、母として可愛く着飾ってほしいわ」
「スーは男児ですよ」
「だからこそいいんですよ、兄様」
ルーシまで・・・
「そろそろ夜食の時間でしょう、早く片付けて支度をしましょう」
「なんだか話を逸らされた気がするけど、そうね。クロアも手伝ってちょうだい」
荷物を片付け、父上も帰って来たので食事を皆で楽しむ。
そんな中でベニアがクロアに声を掛ける。
「ロア君、あとで話さない?」
「構いませんよ」
「じゃあお風呂が終わったらここに来てね」
そうして家族の団欒が過ぎていく。
年に一度の、家族全員で食事をする日。
今日が終われば、またベニアがこの団欒から外れてしまう。
クロアが湯浴みを終え、エントランスに向かう。
「あ、来たね」
「お待たせして申し訳ありません、ベニア姉様」
「ロア君は知らない間に女の子を待たせる子になっちゃったんだね」
「からかわないでください」
二人で笑いながら、椅子に腰かける。
「今日は何してたの、お姉ちゃんは寂しかったです」
「領のためと家族のために色んな人に挨拶をしてました、父上もそうだったでしょう?」
「ふーん、本当に父様の手伝いをしてるんだね」
「ベニア姉様こそ、エリア姉様はどうでしたか?」
「リアちゃんだけじゃなくて結局皆と手合わせしたんだ、皆ずっと強くなってるね」
「それは良かったと言うべきですかね、エリア姉様に教えた甲斐もありますね」
「やっぱり、あれロア君が教えたんだ。変だと思った、リアちゃんが急に魔力を込めたからビックリしちゃった」
「それで、それを聞くためだけに呼び出したわけでも無いのでしょう?」
「呼び出したなんて、そこまで仰々しくもないよ」
「言ったでしょう、皆と手合わせしたんだって」
「・・・そう言う事ですか」
クロアが椅子から立ち上がると、ベニアは満足そうにエリアと戦った場所に向かう。
「相変わらず戦闘狂ですね、姉様は」
「そんな事ないよ、でも戦いってさ」
くるくるっと回りながら
「心地が良いの、殴り合う感覚がね♪」
クロアは呆れながらベニアと歩く。
その夜はとてつもない音が響いたと言う、魔法と魔法のぶつかり合う音が、光があったと言う。
-----∇∇∇-----
もっとも王都内が騒がしい日。
新年祭の当日だ。
とは言え、イストフィース家にはあまり関係ないかもしれない。
と言うのも新年祭で行われるのは王の演説しかないから。
そして貴族の爵位によって、王の言葉を聞く場所が変わる。
公爵と侯爵は王城内でそのまま演説を聞く。
伯爵は王城の庭などでそれを聞く。
子爵と男爵は王城には入れないので外で魔道具による映像で、国民と一緒に聞く。
会場の様な物は用意されているので、そこに行き出席を果たして、演説を聞く。
「みな準備はいいな?」
「大丈夫そうですよ、父上」
そう言い、家族で会場に向かう。
会場に着くと、様々な貴族とその家族が居る。
我が家は割と大家族である。
基本的に四人家族が多い。
揉め事も増えるので、貴族は基本的に子供の数は多くは無い。
ある意味で我が家が特殊なのだ。
「皆、あまり離れてはいけないよ」
「はい、兄様」
「私あれが食べたいですお兄様」
「わかったわかった、座って待っててくれ」
会場に食事もあるので、それを父上と一緒に取ってくる。
女性陣は座って待つのが基本である。
またスーは遊ばれている。
そうして父上と歩いていると。
同じ男爵や子爵の人達に挨拶をされる。
そんな中、一人の男が現れる。
「おやおや、今話題のイストフィース卿じゃないか」
「これはザーロ閣下、お久しぶりです」
「盗賊の件は大丈夫だったかね、素晴らしい活躍だったとも聞くがね」
「お恥ずかしい話ですが、中々手痛い被害を受けました。しかしインチェンス閣下の温情もあり、今は復旧の目途がたっております」
「そうであったか、まぁこの寒さの中でご苦労な事だ」
そんな会話の中で、クロアがザーロに挨拶をする。
「お初にお目にかかります、僕はイストフィース・リーゼ・クロアと申します」
「おお、君が噂の」
「僕もインチェンス閣下からザーロ閣下の話を聞いておりました」
「そうであったか、自ら挨拶とは殊勝な心掛けだ」
「しかしザーロ閣下も大変だとお聞きしましたが、大丈夫ですか」
「何の話かね?」
「いえ、何やら随分と羽振りがいいみたいで」
ザーロ子爵がクロアも睨む。
「何が言いたいのだ小僧」
「足元には気を付けた方が良いと思いますよ」
「無礼な子供だ、やはり成り上がりの者は親も務まらないのかねぇ」
そう言いながらウィンを睨みながらその場を去っていく。
そんなザーロ子爵に頭を下げているウィン。
「・・・珍しいな、お前があんな事を言うとは」
「最後に姿ぐらい、見ておきたいと思ったので」
「お前の悪巧みが上手く行けばだがな」
「上手く行かなくとも、奴にはこの社会から消えてもらいますよ」
「・・・はぁ、早くリリル達の所に戻るぞ」
ウィンとクロアは家族の注文通りの料理を持って行く。
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演説が始まる。
映像に王の姿が映る。
王の名は、エリュトリオ・クラウン・フローレレ。
その時の王がフローレレの名を継ぐらしい。
本名は違うと父上から聞いたことがある。
演説を全ての貴族が静かに聞いている。
エリアが眠たそうに、オルカがクロアの膝の上で王の話を聞いている。
そんな中で、クロアが耳を疑う。
「今年はさらに、薬物などを規制していく。我が国にそんな無粋な物を使う事を許してはならない」
王の演説の中で、そんな話が聞こえる。
(これは・・・驚いた、インチェンス侯爵の仕業か?しかし王族が何も考えずこんな話をするとも思えない)
何か思惑があるのかと考え、クロアは静かに警戒度を上げる。
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新年祭が終わりを迎える。
始まるまで、相当な騒ぎだったが。
終わってしまえば早いもので、各々の貴族が解散していく。
派閥同士のパーティーなどがさらにこの後開催される事もあるとか。
イストフィース家も声を掛けられたが、今日中に帰ると決めていたので、全員で自分たちの領に帰る。
その日の内に帰る者は少ないので、ある意味今日が一番空いている。
宿主に別れを告げて、馬車に乗り込む。
「もっとベニア姉様とお話したかった・・・」
オルカがそう呟くと、他の兄妹達も少し暗い表情をする。
「また来年ね、ベニアにもっと色んな話を聞かせてあげましょう」
母上がそう宥める。
「そうだな、我々も今年はゆっくりばかりしてられんからな」
父上が皆を鼓舞する。
馬車の中で、皆が少しだけ前を向く。
そうして静かに終わっていく。
新年の始まりの祭りが。
また一年が始まろうとしている、いつもの事だが、今年は去年よりもさらに忙しそうな予感がしている。
そして静かに、ある貴族が、王国騎士団に捕らわれたと王国に響く。
その貴族は、違法薬物の生産と運送をしてたと言う。
功労者はインチェンス侯爵と王族。
フローレレ王が改めた薬物への取り締まりのやり玉として、その貴族は家族共々処刑された。
ベガトリオン運送もさらに厳しくしていくとして、この件は王国中に知れ渡る。
ある意味で、これは復讐とも言えるのだろう。
けれど、劇的な最期なんて無くて。
容赦無く潰した貴族の最後は、報告を受けただけ。
これが普通なのかも知れない。
この貴族社会で生きていくのは大変なのに、崩壊するのは一瞬で。
自らの行動も思い返しても、準備するのは非常に困難だったのに。
改めてこの世界の恐ろしさを知る。
だけど、もう自分も土俵には上がってしまっているのだと理解している。
だからこそ、クロアは、自らの意思を、折れない心を、強く持つ。




