新年は病と共に ⑦
戦乙女、なんて言葉がある。
戦場に居る女性をそう呼称することがある。
ただし戦乙女とは、武器を持って戦う女性を言う事が多い。
味方から見ればそれは美しいのだろう。
だが敵から見ればそれは、絶望を振りまく赤黒い花に見えるだろう。
「よし、それじゃあリアちゃん」
「準備できてるよ!」
二人が模擬戦の準備を終える。
「怪我したら私が治してあげるね♪」
「・・・ベニア姉が言うとシャレにならないんだけど」
「ルーちゃんも審判お願いね」
「うん、じゃあこの木の枝を私が投げるから落ちたら模擬戦開始」
「「わかったわ」」
「それでは」
ルーシが木の枝を投げる。
枝が、地面に落ちる。
瞬間。
二つの影が交差する。
エリアの剣を全て、ベニアは拳で叩き落す。
「くっ!」
「ははは!強くなったねリアちゃん!」
エリアだって、決して弱くない。
なんなら領ではクロアとウィルにしか相手しかできない程に。
だが今戦っている姉は、最年少で王国騎士団副団長を務める最強の戦乙女である。
「こうなったら・・・!」
エリアが魔力を剣にも込める。
「!!」
それを見たベニアも魔力を身体に纏う。
魔力を込めた者同士がぶつかり合う。
「そんなことも出来るようになったんだね!」
「うっそ・・・!」
クロアから教えてもらった技術も、難なく流される。
二人の模擬戦は続いていく。
-----∇∇∇-----
「多分、この人か」
クロアは商業ギルドで働いている者達を調べていた。
その中にデモールに聞いた特徴の者を見つける。
「貴族の戦いを始めるとするか」
商業ギルドの中に進んでいく。
朝にも関わらず人が多い、明日が新年祭だからなのかいつもこれだけ賑わっているのか。
奥を見ると受付が居る。
「これが並ぶという事か」
ここまで人が並ぶことが無い自分の領を思い返しながら、受付の列に並ぶ。
「こちらにどうぞ」
意外にも早く順番が来た。
「すみません、僕はこういう者なのですが」
貴族の紋章を見せると受付が少し強張る。
「おはようございます、こちらにはどのようなご用件でしょうか?」
「ラビラと言う商人はこちらにいらっしゃいますか?」
「少々お待ちください」
そそくさと受付の人がギルドの奥に入って行く。
少し待つと違う人が出てきた。
「これはこれはイストフィース様、ラビラは今ギルドを出てしまってまして。そろそろ戻ると思いますので奥の部屋で少々お待ち頂く事は可能でしょうか?」
「わかりました、そうさせていただきます」
「ご案内します」
そうして、二階の部屋に案内される。
「こちらで少々お待ちください」
案内人が出ていく。
(紋章だけでイストフィース家と理解したのか、さっきの案内人は恐らくこのギルド内では上位の者だったのかな)
ラビラの帰りを待つクロア。
しばらくすると、部屋にノックの音がする。
「ラビラと申します、部屋に失礼してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
ラビラが部屋に入ってくる。
それと同時にラビラが驚く。
自分を呼び出したのは、娘と同じぐらいの男の子だったから。
「初めまして、僕はイストフィース・リーゼ・クロアと申します」
「俺はラビラと言います、ご用件とは何でしょうか?」
「まぁ、先ずは座っていただいて」
「失礼します」
ラビラは内心焦っても居た。
当然だ、ザーロ子爵命令されたとはいえ自分がやっていた行為がバレているんじゃないかと。
「さて」
「回りくどい言葉は苦手なんです」
「そうなのですか?」
「ええ、だから単刀直入聞きましょう」
「ザーロ子爵命じられてイストフィース領に来る食料や薬品を買い占めていたのはあなたか?」
ラビラは汗が止まらない、男爵とは言え貴族は貴族。
平民と貴族では戦いにならない。
「・・・知りません、もし君の言ってる事が正しかったとしても証拠がない」
「そうですね、ギルドを通じてないやり取りは記録に残らないからね」
「だから今回は一つの忠告をしに来た」
「忠告?」
「ラビラ、家族はいますか?」
「は?」
「あぁ、今この質問は脅しにも聞こえてしまいますね。申し訳ない」
「単純にいるかどうかを聞きたかっただけです、他意は無いです」
「・・・娘と息子、それと嫁がいます」
「そうですか」
「もしあなたの娘さんが、理不尽な目にあったとしましょう」
クロアはソファから立ち上がって話し出す。
「自分の家族がくだらない嫉妬心やただの嫌がらせに命を落としかけたら、あなたはどう思いますか」
「何の事なのですか?」
「質問をしているのは僕なのだけど」
「・・・嫌に決まっています、文句でも言いに行きます」
「相手が貴族だった場合は?」
「それは・・・」
この世界では、貴族に逆らう事はとても危険である。
もちろんそんな貴族ばかりではない、だけど。
貴族至上主義を掲げている者達がいるのも事実。
実際に平民や農民が貴族に目をつけられたらひとたまりも無いだろう。
だけど、クロアはそれが嫌いなのだ。
だから。
「この忠告は、あなたには理不尽に聞こえるだろう」
「でもあなたにも、平等にチャンスはあるべきだ」
「チャンス・・・?」
「僕は決してザーロ子爵を許さない」
クロアの目には一切の迷いがない。
その言葉はラビラにも伝わる。
「もしあなたが、ザーロ子爵から手を引くなら、我が領であなたに少し働いてもらいたいのです」
「それは・・・御用商人なのに裏切れと?」
「いや、御用商人をやめるだけでいいですよ」
「まぁ証言などがあればより助かりますけど」
「俺に何のメリットがあるんだ、それに子供の言う言葉などに付き合う気は無い」
「そうですか」
「あなたにとっては理不尽な二択だろうから、今日の夜までは考えを改めても受け付けますよ」
「気が変わるならこの宿に来てください」
「君は本気で言っているのか?」
「ええ、悪いですが、ザーロ子爵は潰れてもらいます」
ラビラにもわかる。
本気なのだ。
目の前の子供は、本気で子爵に何かをする気なのだと。
「それでは、返事が変わったらお越しください」
「なぜわざわざ忠告しに来たのですか」
「・・・理不尽じゃないか」
「理不尽?」
「あなたはきっと、命じられたのだろう」
「そしてそれは、逆らえないものだった、いや逆らう気も無かったのかな」
ラビラは黙って聞いている。
「それが今度は仇となって、違う貴族に狙われて」
「あなたから見たら、おかしいじゃないか」
「逆らわなかったのは自身のせいだろう、でも逆らうほどの力もない人に逆らえと言うほど愚かでは無いのですよ」
「だから、逃げ出すチャンスぐらいあったっていいじゃないか」
沈黙が部屋に訪れる。
そして
「さっきも言った通り、これは忠告です」
クロアは部屋を出ていこうとする。
「僕はザーロ子爵と徹底的に戦う、そしてあなたがザーロ子爵に付くなら、あなたにも徹底的に戦います」
「逃げてもいいし、裏切らなくたっていい、でも敵になると言うなら・・・」
「その時は、もう忠告もしませんよ」
クロアが部屋を後にする。
残ったラビラはポツリと呟く。
「あれは子供の言う事だ・・・きっと」
どこか悔しそうに、言い聞かせるように呟く。
「・・・あれは裏切らんか」
子爵と戦うために少年はまだ動き続ける。
まだまだ日は落ちない。
新年祭に向けて王都は賑わっている。
そんな煌びやかな街中で、クロアは暗躍する。
クロアの中で、楽しんでいる心情もあるのかもしれない。
それはいつか見た貴族が理不尽を振りかざしている時、そんな奴らを、自らの手で潰せるかもしれない事に。




