成り上がり貴族の宿命 ⑥
「なんなのだ、これは」
彼はある貴族に仕える魔導士
部下を連れて少女一人を誘拐するはずだった
しかし目の前で剣舞をしている者達を、誰一人として戦闘不能にすら出来ていない
「はぁ!」
「おらよ!」
次々と倒れていく部下達
16人程連れてきたはずだが今戦えているのは7人程か
「彼は・・・」
事前に情報は仕入れていた
その中にどこかに護衛依頼を出したらしいと言うのは掴めたが、どこに依頼をしたのかが分からなかったのだ
とは言えそれなりの精鋭を連れてきたつもりだった
そもそもカランクレス家の護衛である彼女が居る時点で油断していい相手では無い事は覚悟していたから
そして娘の方もそこそこ戦えると言うのも知っていた
だからこそこの人数で来たのだ
「部隊長、このままでは・・・」
「わかっています」
(しかしすでに予定より大分時間が経っている、これ以上の戦闘は不可能ですね)
「撤退しますよお前達」
「しかし!」
「さっさと準備しなさい、君も死にたいと?」
魔導士が魔力を貯める
「させん!」
「!?」
瞬間、男が飛び込んでくる
「フレイムランス!!」
直撃した
はずだった
「ふんっ!」
「なっ!」
(どうなっている!?確かに身体に直撃したはず・・・痛みに耐えるなどのレベルでは無いはずなのになぜ!?)
魔導士は斬り飛ばされた腕から血があふれている
そして自分の中で一つ、思い出したのだ
「なるほど・・・あなたが例の成り上がり貴族でしたか・・・」
痛みを噛み殺しながら男に問う
「時間はあまり無いのでは無かったのか、魔導士殿」
即座に構えているウィン
「部下は諦めましょう、これでも死ぬのは嫌なのでしてね」
「逃がさん!」
魔導士は持っていた魔道具で大量の煙を発生させた
「くっ!」
気配を探る
「ヴォルフォ、奴の場所はわかるか!」
ウィンの声が聞こえたヴォルフォは煙の中で探している
気配は探れたが
「隊長、追うのは無理です」
「どういうことだ」
「奴は地面の中です」
「・・・なるほど、最初にも放ってきたが奴は土魔法が得意ということか」
「お二人ともご無事ですか?」
「こちらは無事です、アルティ嬢もフェーネ殿もご無事で何よりです」
「だから言っただろ、うちのお嬢様は強いのさ」
「隊長、何人かまだ生きてます」
「では安全が確認でき次第尋問を」
「いや、それはこちらでやらせていただこう」
四人の前に十数人程の鎧を着た者達が来る
そしてその甲冑を見ればこの国で知らない者の方が少ないだろう
「王国騎士団・・・」
「カランクレス・コルエ・アルティ様とお見受けする、救援が遅れてしまい誠に申し訳ない」
「お気になさらず、むしろ中心街を守っている皆様がこの速さで来る方が驚きですよ」
「偶然です、丁度見回りをしていたものだったので」
「そうだったのですね、ではこの場はお任せしてもいいですか?」
「お任せを、この者達が誰に雇われたのかも含めて後日公爵殿に使いを出しましょう」
「わかりました、では私は教会に用事があるので」
アルティが騎士団から離れる
「あれでよかったんですか?」
「構いませんよ、騎士団とこじれる方がお父様にも迷惑が掛かるわ」
「それにしても・・・」
アルティがウィンの方を見る
「イストフィース殿、なぜあの魔法を食らっても平然としていたのですか?」
「あれは私の固有魔法の力です」
「頑丈なのがあんたの固有魔法ってか」
「ただ頑丈なだけなら固有魔法にはならないでしょう、どんな魔法なのですか?」
「・・・」
固有魔法は他人にあれこれ説明するものではない
どんな魔法かわからないからこそ脅威になったり、対策に限界があったりするから
逆にタネも仕掛けも分かってしまえば、固有魔法を封殺することもできる事もある
しかし
「私の固有魔法は『不変の身体』と言う魔法でしてね」
「『不変の身体』?」
12年前ある騎士が居た
その騎士は鎧も付けずに最も前線に立っていたという
『不変の身体』
ウィンが授かった時に彼の身体は怪我をしなくなってしまった
不変とは言え病気にはかかるし加齢はしていく
ただし切り傷や打撃、外傷による攻撃を一切通さないというとんでもない魔法だったのだ
当然魔法なので魔力が切れてしまえば普通の人と同じになる
だからこそ彼も己を鍛え続けた
自身の固有魔法を最大限生かすために攻撃魔法は一切習得しなかった
どんな時でも己に魔力を使い続ければいいのだから
今となっては四六時中固有魔法を使い続けることができる
そしてそれを生かす為に騎士となり、王国を守り続けた
隣国からの戦争があった時も彼は鎧を纏っていなかった
敵から付いた異名は【不撓不屈の騎士】
その騎士は鎧も無しに矢の雨を搔い潜る
その騎士は盾も無しに攻撃魔法を突破する
その騎士に出会ったら逃げろ、奴が血を流している所を見たことが無い、きっと殺せない人間なのだと
「私にはあの程度の魔法では届かないと言う事です」
「お話は聞いたことがありましたが本当だったのですね、お父様からも鎧を着ない騎士などあいつしかおらんかったと聞いた覚えがあります」
「なるほどな、あんただったんだな不変の英雄ってのは」
「懐かしい呼び名ですね、そんな事もありました」
「皆さん、馬車の準備ができましたよ」
「ありがとうございます、ヴォルフォ殿」
「良かったんですか、事細かく話してしまって?」
ヴォルフォが耳打ちをする
「いいのだ、それに公爵殿は私の事を知っている」
「確かに、知ろうと思えば知れるわけですか」
「逆に隠してしまえば不誠実だろう、信頼を裏切る真似はできんよ」
「じゃぁ坊ちゃんの事を聞かれたらどうします?」
「それは私にもよくわからないと言うさ」
「実際坊ちゃんのは俺達もよく理解してませんからね」
「それに私なぞよりよほど優れた魔導士だからな、クロアは」
ヴォルフォがまた始まったと首を振っている
「早く乗りますよ隊長」
「わかっている」
馬車の中ではまたアルティが固有魔法の話や騎士の時の話を聞いている
彼女が楽しそうに話すのをフェーネは何となく面白くなかったが、アルティが楽しそうなので水を差す真似はしなかった
「到着したようですね、私達が先に教会へ行ってまいります」
「お願いします」
ウィンとヴォルフォが教会に入って行く
「お嬢様はさっきのを見てもまだ手合わせしたいって思ってますか」
「俄然やる気が出てきてしょうがないのですが、フェーネは?」
「アタシもだよ、不変の英雄様とやりあえるなんて滅多になさそうだし」
「私たちは付いてるのか、それともこれもお父様の掌の上なのかしら」
「アタシはどっちだっていいと思う」
「そうね、こんな機会ないもの」
「儀式が終わったらすぐやりましょう」
「アタシも賛成です、あの獣に戦えそうな場所見つけてもらおう」
「フェーネもそろそろヴォルフォ殿の名前を呼びなさい・・・助けて頂いたのだから」
「あんな獣を声が無くてもアタシならお嬢様を抱えてよけれたね」
フンッっとフェーネが気に食わないような顔をしている
「まったく・・・」
そんな話をしていると馬車のドアにノック音が響く
「お二人とも、教会は準備できているようです」
「ありがとうございます、すぐに向かいます」
「イストフィース殿が護衛だったのね、この前もお越しいただいたから何故って思ってしまったわ」
「本日もまたよろしくお願いします、今回は依頼を受けている身ですが」
「失礼致します」
「カランクレス・コルエ・アルティと申します、本日はよろしくお願いします」
「この教会のシスターをしていますショウナと申します、こちらこそよろしくお願いします」
「ではアルティ様、こちらのお部屋へお一人でお願いします」
「アタシもダメなのかよ」
「こらフェーネ」
「申し訳ありません、儀式はお一人で受けるものですので」
「ッチ、部屋の前にはいていいのか」
「構いませんよ、そこまで長くなるものでもありませんので」
その言葉を聞いてフェーネは少しだけほっとする
それと同時にウィンは頭を抱える
じゃあ自分の息子は一体何だったのかと
「では行ってきます、フェーネもあの話をしておいてね」
「あぁ、行ってらっしゃい」
「何かあったら呼んでくれよ」
アルティが部屋に入って行く
残された三人は教会内で護衛を続ける
そんな中でフェーネが先程の話をする
模擬戦の話が進んでいく
ウィンは承諾をしヴォルフォが場所を探しに行く
イストフィース・リーゼ・ウィンはこの時ほんの少しだけ祈った
アルティ嬢が息子と同じ時間かからないようにと




