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不等で理不尽な世界で(仮)  作者: 麒麟草
成り上がり貴族の宿命
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成り上がり貴族の宿命 ④

「そういえば、エリアさんは長女ではないのね」


インチェンス閣下が俺に聞いてくる


「はい、我が家の長女は王家の騎士団におりますので」


「そういえば最年少で騎士団に入った少女がいると聞いたことがあるわ」

「もしかしてその方が?」


「合っていると思います、姉が騎士団に入団したのは九歳の時でしたので」


「イストフィース殿は武勇だけでなく、お子様方にも恵まれておるのですね」


ローゼス殿が笑いかけてくる


「僕の事も含めてよく自慢してくれます、僕達からすると少々お恥ずかしいのですけどね」


「ほっほっほ、我が子を褒めるのは簡単そうに聞こえるかもしれませんが、それができる親と言うのは少ない者です」

「老婆心ながら、ご家族を大事にするのがよろしいかと思います」


「そのつもりです、僕からしても自慢の家族なので」


そんな雑談をしていると目的地に着いたようで

ローゼス殿開けてくれている扉を潜ると


「!!」


部屋にはかなりの人数がいた

大きな屋敷であり部屋そのものも広いので使用人などが居るのは当たり前化もしれない

しかし




その全てがインチェンス閣下の護衛だと思われる


(帯刀しているのが、七・・・八・・・十人か)


ローゼス殿も含めるならばその数11人

この部屋には護衛が居る


「なにやら随分と物々しい雰囲気に見えますね」


「そうかしら、これでも女の身ですので守りは多い方が部下も安心してくれるの」


どの口が言っているのだか

正直これだけの人数がいても魔導士としてわかる

この中で一番強いのはインチェンス閣下だということが


「座って良いわよ、あなたはお客様なんだもの楽にしてちょうだい」


「ではお言葉に甘えて、失礼いたします」


ここまで警戒されているとなると下手な事は言えないな


「さっそく本題からの方が良いかしら」


「よろしければ手土産だけでも先にお渡ししてもよろしいでしょうか」


「手土産と言うのは先程広間で出していた物かしら?」


「その通りです、閣下の分は別で取っておきましたのでこちらをお納めください」


「それは嬉しいわ、ありがたくもらっておきます」


護衛の一人が俺から瓶を受け取ると部屋の隅にまた戻っていく


「ありがとうございます、話をお聞きいたします」


「では早速聞いてもいいかしら」


「僕が答えられる事であればなんなりと」


カランクレス公爵の件だろうか

少なくとも今はまだインチェンス侯爵にもカランクレス公爵にも肩入れする気はない

俺と父上との共通認識だ

現状ではどちらと組んでも様々な事に巻き込まれるのは目に見えている

ただでさえ色々な勢力に声を掛けられることが多いのだ、誰かの勢力に加わるとなると騎士団に居る姉様にも迷惑がかかる


「クロア殿、あなた面白い固有魔法を使えるそうね」


「えっと、模型などを作ってる事でしょうか?」


(商売の方の話だったか?)


「ああ、そんな物もありましたわね」

「でもそれだけでは無いのでしょう、『解体』でしたっけ?」

「その魔法、人にも使えるのでしょう」


「!?」


俺はどこかでこの人を侮っていたのかも知れない

先代から受け継いだ爵位

侯爵という立場でありながら茶葉などの商売で名をさらに広げ、今では南最大の領を誇る貴族

そして彼女の魔導士としての武力

恵まれた力や才能を持っている彼女

しかしこの領に何度か来訪しているからこそわかる

ここには明日生きれるかもわからない子供達を見かけたことがある

貧困層の中で生まれた子供達は売られたり捨てられたりなどが起こりうる

そんな者達が居る中で、彼女は現在も商売を広げその金を今日の様な茶会や武力に変換されていると知っている

もちろんそれが悪ではない、両方とも貴族勢力を広げるためにはよく聞く行為だ

だからこそ俺は目の前の彼女を軽視していた

それだけの財や力がありながら自らの勢力拡大をし続ける彼女に

故にどこかで、金が大好きなよくいる貴族だと認識していたのかもしれない


「なんの事でしょうか、この魔法は木などの材料を切るのに便利な魔法ですよ」


「あら、とぼけるの?」

「あなた達の持ってきた荷物が良く話してくれたわよ」


やはりか


「元々あなた達の領を襲ったときはもっと多くて捕まった時には九人いたとか」

「それが二人も減って私の所に持ってきたときは七人になったなんてね」


これならカランクレス公爵の件の方が楽だったな


「賊どもの戯言ではないのですか、ああいう者達の言葉をすべて信じるわけにもいかないでしょう」


「その通りね、だから少し魔法を使って彼らを調べたりもしたのよ」

「私には優秀な部下が居るのよ、話を聞ける魔導士がね」


(記憶を見る事のできる固有魔法か何かか?・・・しかしそんな者が居ればもっと噂にもなりそうだし少し違うのだろうか)


少なくともインチェンス閣下は答えが出てる上で俺に聞いているのだと思う

盗賊達にはかなり強めに縛りの様な魔法を掛けてあるように見せたはずだ

だからこそ外部にも漏れずらいと思っていた、そして何より

あそこまで憔悴している盗賊達に更に尋問を掛けるほど我が領の事を聞き出すと思っていなかった

多少の話は聞く事は予想していたが少し聞いて王家に渡し、褒賞を貰うと思っていたからだ

特にあの魔導士の女は賞金首にもなっていたのでさっさと金に換えると踏んでいた

それこそが俺の誤りだったのだろう、彼女は俺が思っている以上に用心深い

そしてその用心深さから、なぜ彼女が勢力を拡大させているのかが分かった


「つまりは僕がこの固有魔法を人に使えるかどうか確かめたいという事ですか?」


「いえ、恐らく使えるのでしょう」

「そしてそれがかなり優秀な固有魔法かもしれないという事よ」


「どうしてそう思われるのでしょうか?」


「こう見えても私、魔法には自信がありますの」

「そしてクロア殿がかなり優秀な魔導士である事もわかりますわ」


俺が分かるなら閣下も分かる、か


「そして何よりあなたの対応です」


「対応・・・とおっしゃいますと?」


「この前の盗賊達の件でも、そして今回の急な誘いにもあなたは完璧に対応している」

「普通あなたの歳の様な子なら私を前にして平静を保つことも難しいはずなのよ」

「にも関わらずあなたは交渉も手土産すら用意して見せている」


「昔からよく大人びているとは言われます」


「そうなのね、でもだからこそあなたのその力が私は欲しいのよ」

「イストフィース・リーゼ・クロア殿」

「私に正式に仕える気は無いかしら?」


これは驚いた

ここまで俺を一人の成人として見られたのは初めてだ


「もちろんあなたが私に仕えると言うならあなたのお父様の領地にも色々お手伝いをするわ」

「悪い話では無いでしょう?」


「お時間を頂く事は可能でしょうか?」


「ダメよ」

「この場で答えなさい、じゃないとあなたは頭が回るもの」

「のらりくらりと先延ばしにされてしまいそうだわ」


逃げ場は無いという事か

確かにある意味では一つの手だろう

恐らく領地のみんなにも相当貢献できるはず

それこそベニア姉様の様に領の外で働いてその給金で支えるようなこと

しかもインチェンス閣下は領地にも恩恵を与えると言っているということは金以外にも色々融通してくれるのだろう

だけど

それが本当に

俺の成したい事なのだろうか

あの子共達を見て

何も言い返さない彼らを見て

俺は



「お断りします」


空気が張り詰める

周りの護衛からの視線が刺さる

だがこれに屈する事はない


「そう・・・」


「閣下からのお誘い、大変ありがたいと思います」

「しかしそれでは僕の成し遂げたい事は出来ないと、思ったので」

「申し訳ございません」


「良いのよ、あなた達もやめなさい」


閣下の声で護衛達の殺気が消える


「坊やのお父様も含めて、あなた達がどこの勢力にも加わる気が無いのは分かっていたから、あなただけでも欲しかったのよ」

「でも・・・そう」

「無理に仕えさせるのは趣味じゃないもの、今回は諦めるわ」


「お声がけ頂いたのは本当に嬉しく思います」

「一人の成人、魔導士として誘われて喜びがあったのは事実です」


「なら私のお話はおしまい」

「公爵については調べがついているから坊やから聞く事はないわ」


大したものだ、調べはついているのにわざわざ同じ日に茶会を開いたのか


「お詫びと言っては何ですが、閣下にご相談したいことがございます」


「私からの誘いは断っておいて?」


「これは商談のようなものです」


「・・・それなら聞いてあげるわ」





クロアとインチェンスの話はまだまだ終わりが見えそうに無い

今日の一件でクロアはインチェンス侯爵への見る目を変えた

今までどこかで軽視していた彼女を、一人の女性あるいは貴族と言う意味ではライバルとも言える程に変わったのだ

これだけのしがらみや思惑が多い貴族社会でこの人は一人で立ち向かっていたのだと

クロアは少しだけ、彼女の考えを理解する

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