貴族とは、金が掛かる ③
「今日は商談で来たよクロアちゃん!!」
かなり突然の来訪だった
「知っていますよ、朝もらったサキユからの手紙で知りましたけど」
なんと飛竜で飛んできたのだ
ベガトリオンの最高輸送の一つ、かなりのお金がかかると聞いた事がある
「いきなりすぎて流石に驚きましたよ」
「ろくなおもてなしも出来ない事が恥かしい限りです」
「いいのいいの、所で今日はクロアちゃんだけ?他のみんなは?」
「・・・母上は商談の後にでも会えると思いますよ、父上や姉様達は勉強や農作業があるので夜には会えるかと」
「そっかー残念、夜には帰るようにしてるから姉さんにしか会えないかな」
「そうだったのですか、てっきり今日ぐらいはお泊りにでもなるのかと思ってました」
「それだけ忙しいの、クロアちゃんのお願いだから飛んで来たんだよ?」
「貴重なお時間を頂きありがとうございます」
「では早速本題に入らなければ叔母様にもご迷惑でしたね」
「その叔母様ってのそろそろやめない?・・・せめてお姉さんにして?」
「いえ、叔母様は叔母様ですので」
がっかりしているトルト叔母様を無視して話を進める
「・・・と言った感じです」
「なるほどね、それでこれがその模型って事ね」
叔母様に模型の使い道を示して、商売に生かせないかを相談している
「確かにこれがもしすべてのお家の模型があったらお客様にも伝わりやすい、部屋の形も想像が付きやすくて便利かもね」
「だったら」
「でもね、いくつか欠点もある」
こちらからもご教授願いたい所だった、俺は結局の所想像で便利そうという感じしかわからない
実際に物を商売している、専門の人の意見や話を聞きたかった
「まずは私がやっている家の売買だけどね、基本的に貴族の人を相手にしているの」
「存じてます」
「そっか、なら話が早いかも」
「貴族のみんなはね、そもそも自分の買う家を見ないの」
「もちろん自分の目で確かめる人も居る、でもね貴族で言う家と言うのは資産の一つでしかないからなの」
「大きな貴族になればなるほど家なんて余る程持っている人が多い」
「それこそ使用人の人達の家にしたり、自分の息子や孫に家をあげるなんて事はよくある事よ」
これは想像より面白いかもしれない
なるほど他の貴族をあまりよく知らないから俺の中で認識のズレがあるのは当然だ
俺は父や近隣の領地の人しかほどんと知らない
そしてその知っている人達は基本的に父と同じ男爵や子爵しかいないので裕福とはあまり言えない
唯一知っているのはインチェンス侯爵ぐらいだ
「なるほど、それは僕が無知でしたね」
「もちろんこれはすっごく良い物でもあるのよ?」
「貴族と言っても皆が皆大富豪じゃないからね、それに平民の人にも家を売っていないわけじゃない」
「けどむしろそういう人達はそれが人生ですごく高い物だとわかっているから、尚更自分の目で確かめるはず」
「つまりこの模型は良い物ではあるけど誰を対象に使えばいいかわからないって事」
「これがまずは欠点の一つ」
黙って話を聞き続ける
「もう一つは、供給の問題かな」
「クロアちゃんにしか作れないんでしょ?結局作れる数に限度があるし、これを運ぶのも大変そう」
これは俺も思っていた
そもそも俺にしか作れない物に意味はあるのだろうか、この完成品を運ぶとなるとサキユでも大変なんじゃないかと言う事
「それについては僕も思っていました、今の所解決策を考えている最中です」
「そう、考えているのは良い事だね」
「総評で言うと、すごい物だけど使い道が無いって結論かな」
さすが豪商の娘、商談には手厳しい
「では家を買う方々では無く、家を建てる方々にならどうですか?」
「家を建てる人たち?」
「はい、実際にこういった形にしたいなどのイメージ模型の様に使うのです」
「買う人達はそもそも気にしないかもしれませんが、実際に作ってる方々には完成した時の家のイメージがあるとわかりやすいのかもしれないと思いまして」
「それに」
模型を半分に解体して中をのぞけるようにする
「こんな風に中のイメージもつけれると作り手にはわかりやすいのではないでしょうか、もちろん設計図があれば僕もより繊細に作ることができると思います」
「へぇ、こんな事もできるんだ」
叔母様が模型をじっと見ている
「確かにそれなら売れそうだね、私達お抱えの大工の人達にも聞いてみるね」
「ありがとうございます」
「となると、後一つ」
「なんでしょうか?」
「これを私に売る理由かな」
本題はこれを聞きたかったのか
「だってここまでの技術ならもっと売る方法があったんじゃない?それこそ国境付近の貴族様とかなんなら国に売ったっていい」
「お姉さん軍事利用した方が便利に思えるけどなぁ」
「それにお金が無くて困ってるんでしょう、尚更私じゃなくてもっとお金を払ってくれそうな人達に売るべき」
「それをしないのは姉さんとウィン君に反対されたからってことで合ってる?」
相変わらず俺はこの人が苦手だ
「本当にくだらないんだから、高く売れる物は高く買う人に売るべきなのにね」
「実際この技術を国が買うなら相当だと思うよ、少なくとも私よりは高く買うだろうからね」
「何せここまで精巧な形を作れるなら、相当研究し甲斐があると思うもの」
「こんな物を作れる魔導士も魔法もね」
簡単に言えば俺の魔法を国に売ればお金が手に入るという事
そんな事はベニア姉様の件でわかっている
ただそれは、俺の家族にベニア姉様の時と同じ苦しみを味合わせるかもしれないという事
もちろんそれで多くを救えるなら俺はそれを選んでしまうかもしれない
それでも、あの日、あの時
永遠の別れでは無いとわかっていても
家族と会えないというのは、きっととてつもなく苦しい事なのだと俺は思う
「そう・・・かもしれません」
「でも僕は、まだここでやらねばならぬ事がまだまだあります」
「だから我儘かもしれませんが、僕にはここを離れるわけにはいきません」
「そっか・・・」
「わかったわ、じゃあ商談は成立ね!」
「は?」
「え?売ってくれないの?」
「ああ、いや・・・良いのですか?」
「実は最初から買う気でいたんだ、だってこんな魔法技術とんでもないからね」
「あんなこと言ってたけど売り先はもう当てがあるんだ、だから買う事は決定してたんだよ~♪」
この人は何というか
「僕の事を試したのですか?」
「ん~?何のことかな?」
やはり苦手だ、それに多分この人は
「やっぱりトルト叔母様は僕たちの事嫌いですよね」
叔母様が驚いた顔をしている
「なんでそう思ったの?」
「叔母様も魔導士でしょう、だから感覚って言うのですかね」
「何となく魔力で感情の色が見えると言いますか・・・説明が難しいです」
「そんなことまでわかるの!?」
「クロアちゃんの変態!」
「なんて事を言うのですか、勘弁してください」
ぶ~っと拗ねている
「・・・はぁ、でもそうなんだ」
「そういうのも、わかっちゃう事もあるんだね」
「まぁ、感覚でしか無いので確証はありませんでしたが」
「クロアちゃん達の事は嫌ってないよ、ホントだよ?」
「私はね、姉さんが少し羨ましくて、ちょっとだけ憎いのかも」
「だって本当なら姉さんがやるかもしれなかった事が、全部私にくるんだもの」
トルト叔母様も、かなり辛い立場だったのかもしれない
姉である母上は家族の反対を押し切って父上と共に逃避行に近い形で家を出ている
そうなれば当然、次女であるトルト叔母様に貴族としての家の責任が押しかかる
「それなのに、すっごい幸せそうな顔で自慢してくるの」
「私の娘は可愛いとか息子が凄いとか旦那がまた勝ったとか」
「なんで逃げた姉さんがあんなに幸せなのか、すっごい考えて、すっごいむかつく時があるの」
「な~んて、こんな話されても困るよね?ごめんね愚痴何て、それにお母さんの悪口なんて聞きたくなかったよね」
「いえ、それについては俺もちょっと思っていたので聞かせてください」
「へ?」
「実際僕が知っているのは反対を押し切った事ぐらいしか知らないんです、もっと母上の事聞かせてもらえませんか?」
「・・・じゃあちょっとだけお話ししようかな、君のお母さんの悪口」
「はい、興味があるので是非」
「やっぱりクロアちゃんって変わり者だね・・・」
その日は結局商談より母上の話の方が長かった
それを聞けば聞くほど、この人も母上の事が好きなんだと伝わってくる
知らない話をたくさん聞けた、ついでに商売についても少しだけ教えてもらった
どんな話でも家族の事を聞けるのは嬉しさがこみあげてくる
俺はやっぱり、恵まれている