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理解できない事は恐怖という感情になる

事後処理が落ち着きを見せてきた頃

クロア達は会議をしていた




「では褒賞の割り当てはこの分配で分けるとしよう」


「わかりました、では盗賊達の扱いについて如何いたしましょうか」


「取り合えずサキユに頼んで手紙はもう送っています、しかしあの人数を侯爵の元へ連れて行くというのは輸送がめんどうですね」


「坊ちゃんの言う通りです、しかも彼らが捕まっている状態でもやはり住人達からすれば恐怖心が拭えていません」

「長時間、この領に置いておくのも危険でしょう」


「んじゃあ侯爵様に運ぶ金をもらえないのか?そもそもの発端は侯爵領でのことなんだろ」


ディンの言う通りではあるが、素直に首を縦に振るわけもないだろう

そもそもの証拠が無い以上侯爵からすれば知らぬ存ぜぬで押し通せる


「・・・そこで一つ、父上にお願いがあります」


「どうした、なにか妙案でもあるのか」


「少し考えていたのですが、盗賊達は侯爵領で元々過ごしていたとの事」

「では奴らはどこに奪った物を集めていたのでしょうか」


「尋問も軽くしたが口を割る者はいなかったぜ」


ディンが尋問しても割らなかったのか


「それを知れればかなり有利になるかと」


「財宝などがもしあったとしても、今回の被害を補填できる量なのでしょうか?」


「いや、むしろ金貨などのお金より見つけたい物があるよ」


父上達が少し考える


「なるほど、侯爵様の紋章などが入っている武具や金品か!」


「それがあれば侯爵領に居た盗賊である事がわかるでしょうから」


それぞれの爵位による紋章はかなり大事に扱われている

それこそ自分の騎士達という証明をするために剣や防具に紋章を刻んだり

自分達で作った物に刻んだりと様々である

紋章の偽装は大罪になる

故に本来紋章も持っていない者が持っていた場合、それが盗まれたあるいは貴族とつながっていたなんて事も昔にあったらしい


「証拠の証としてはこれ以上ないぐらいですね」


「だがディンがやってもダメだったのですから、かなり難しいのでは?」


「だからお願いなのです、その役割をやらせてくれませんか」


「坊が奴らに尋問するんですかい?」


「危険すぎますクロア様、縛られているとはいえ奴らは人を殺すことに躊躇いが無い連中です」


「私もグラハと同意見だ」


父上達が認めてくれはしないとわかっていたのでこちらも準備はしてある


「実は俺の固有魔法の練習もかねて、なんだ」

「色々と試したいことがあってね、それの都合で彼らに協力してもらいたいんだ」


皆が納得していない顔をしている


「一日だけ許してくれませんか?」


「一日だけで口を割らせると?」


「それで無理なら諦めますよ」


「・・・いいだろう、ただし護衛はつけさせてもらうぞ」


「いいのですか、隊長」


「クロアも固有魔法を授かって、もう子供とは言えんのだ」

「何かをやってみるということは悪い事ではないだろう」


「では俺が坊ちゃんの護衛をしますよ」


「ありがとう、ヴォルフォ」


「では方針は一先ず決まったな、皆でまた壁を直しに行こうか」


やれやれと言う感じで皆がこちらを見てくる


「しかし本当に派手にやりましたね」


「坊が頑張った証とも言えるぜ!」


「仕方あるまい、早く皆で直すとしよう」


動物や魔物が好きに入ってきてしまうので最も最初にやらねばならない防護柵作りをみんなでまた始める

自分でも思う、ちょっと燃やしすぎた








「こんばんは」


クロアの声に盗賊達が彼の方を向く


「あの時のクソガキ!」

「何しにきやがった!」


「随分元気な奴らだな・・・!」


ヴォルフォが威嚇する


「くっ・・・」


捕らえた盗賊達は全員で九人

それ以外はあの時に死んだ


「魔法使いの坊やが何か私達に用~?」


「あなたは唯一の魔導士さん」


「お腹すいたよ~・・・」


「一日一食はあげますよ、餓死されても困るので」


「うぅ~」


唸る女を無視してヴォルフォに


「俺一人にしてくれないかな」


「坊ちゃん、流石にそれは・・・」


「お願い、扉の前にはいていいから」


「・・・わかりました、何が音があったらすぐに入りますからね」


ヴォルフォが渋々階段を上がっていく

地下だからか少しだけこの空間は寒い


「さて、俺は聞きたいことがあるんだ」


盗賊達は当然無視する


「まぁ、それは父上達を説得するための建前みたいな物なんだけどね」


一人の盗賊に近づく


「何する気だ!」


あの日から、その可能性を考えていた

木に行った数々の試行錯誤

サボンにも木という物を教わり今では触れることなく『解体』を発動できる

ただし木以外には使えない、触れればある程度は使えるが触れずとも使えるのは現状では木のみである

そして確信へと変わったのだ

解体する対象を理解していれば理解しているだけ精度だけではなく発動する難易度もどんどん変わっていく

丁度この村に集めた住人達の中に狩人が居たので動物の処理方法も少しだけ教わった

今では兎は触れればかなり綺麗に、猪はまだまだ粗いが『解体』自体は発動できる

つまりこの二種類の動物は現状触れるだけで殺せるという事

木の時に思ったが理解が深まれば触れることなく殺傷が可能であるという事

故に、それ故に


人間に発動したらどうなるのだろうかという疑問がわいた


しかしそれを村の人々で試すなんて事は出来ない

それにこの領地の人々は穏やかだから罪人なんて人も居ない

だからこそ、俺にとっては盗賊達は


試すのには丁度良い


と思ったのだ

勿論人を殺めたことなど俺には無い

だけどいずれやらなければいけない時が、そんな場面があってもおかしくはない

父が貴族だからこそ戦場などには徴集されたりもするだろう

何か権力や思惑に巻き込まれて戦わざるを得ない時があるだろう

そして何よりまさに昨日起きた、蛮族共に襲われるときがまたあるかもしれない


理不尽に奪われる奴らを見てきたのだ

不平等で死ぬ奴らを見てきたのだ

ならば抗うためにも

今ここで、その覚悟を決めるためにも


人間を理解する

それは人の心などや感情の話ではない

動物や木と一緒だ

人間の構造を、成り立ちを、身体を、部位を

理解を深めるために


「ぐぅ!」


クロアが盗賊の顔を掴む


「おい!何する気だ!」


離れている盗賊が怒号を飛ばす


「悪いな、もう覚悟は決めてきたんだ」





瞬間





抵抗していた盗賊の身体が静かになる

クロアの持っていたそれが急に軽くなる


「抵抗がなくなると、こんなにも軽い物なんだね」


その身体から大量の血が流れている

意味が無いのでクロアはその”物”の縄を解く

その”物”を寝かせて、さらに固有魔法を行使していく


「さて、実は見た事も無いんだ」

「なあ盗賊さん達」

「人間の腹の中ってどうなっているか、見た事ある?」


その場にいた盗賊達も

女魔導士も賊のリーダーも


戦慄する


目の前で起こっている事に理解が及ばない

おびただしい程の血とそれをずっと眺めている少年


自分達は一体、これからどうなるのだろうか

中には恐怖で吐きだす者

声が出ない者と様々である


「汚いからあまり吐かないでくれ、掃除がより大変になる」


少年が淡々と何かを進めている


「あと八人か」


背筋が凍る

その呟きはもはや死刑宣告よりも恐怖になる

目の前に居るこの子供は

拷問でもなく殺すでもなく

ここに居る者達を魔法の実験にしか見てないのだ


「待ってくれ!!」


リーダーが声を上げる


「話すよ、だからそれ以上はやめてくれ・・・」


「ふむ・・・」

「わかった、それじゃあ話を聞きましょう」


この日から盗賊達は大人しくなったという

警備の人達にかなり従順になり、あの夜の事を誰も語ろうとしない

あの恐怖を戦慄を

彼らは思い出したくも無いのだろう

決して大きくない地下の倉庫

血の匂いと吐瀉物の酸っぱい匂い

目の前で起きる理解不能の数々

あの空間を異常にしていた少年を

彼らはもう、夜が怖いのだ

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