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-第四客 皇帝 ハイキダヨン

-第四客 皇帝 ハイキダヨン



私はこのスーパーで主に二つの仕事をしている。

1つはバックヤードの掃除

お魚を捌く場所…通称 水産 の部屋だったり、お肉を捌く場所…通称 畜産 の部屋の

器具や床のお掃除と、それぞれの売り場の清掃や見切り等を、部署ごとにローテーションしている。

特に魚の強烈な臭いのする水産コーナーの掃除はアルバイトの中でどうしても不人気だ。

実際に手に臭いが付いてしまいなかなか取り除けない。

そして2つ目のお仕事は、売り場の補充業務

前日の夜に売り場を確認して発注をする。

すると朝・昼・夕に便が着て、便が来た物を売り場に補充する。

朝便は主に生食品、昼夕便が加工品となるので、アルバイトは昼と夜が忙しい。

昼便の補充は主にキャンペーン商品棚の補充や飾りがメインで行い、

本格的な補充はお客さんが減る夜に人海戦術にて翌日に備えた補充をする。


閉店15分前になると ホタルノヒカリ の音楽が流れる。

これまでの経験上、閉店音楽にホタルノヒカリを採用するお店がかなり多い。

いったいなぜなのか不思議でしょうがない 夕焼け小焼けでもいいじゃないか


閉店音楽が流れた頃背中を叩かれた。

「ちょっといいかな これ賞味期限今日までなんだけど廃棄するよね?」

はい本日も降臨されました。

さすがに当時のあだ名や特徴を教えてしまうと特定されてしまう恐れがあるので、

皇帝 ハイキダヨンと崇めておこう。


皇帝は別にクレームを言ってきているわけではない。

ではなぜ皇帝はこのようなことを言ってくるのか、察しはつくと思うが、

「廃棄するなら買うよ!値下げして!」

とわざわざ賞味期限切れや期限の近いの商品を店員の代わりに選別してくれる

なんともメンd…アリガタイエンペラー様だ。


仕方ない…急ぎで半額シールを持ってきて対応する。


こうして皇帝はイソイソとレジに並んでその日の買い物を済ませた。


皇帝の滞在時間は短い 30分~1時間 といった閉店間際を狙って来店なさる。




普段このように賞味期限切れの商品を陳列しないように以下の用の事を実施している。

・先入先出 … 手前から商品が取られやすいので、新たに補充する商品は棚の奥から入れる。

・前出し … 閉店前に陳列されている商品のパッケージを合わせたり、見栄えを良くする作業。

この際に余裕があれば期限もチェックをする。

・チェック … その名の通り、定期的に商品の賞味期限切れが無いか1つ1つチェックをする。

加工品に関しては賞味期限も長いので殆ど賞味期限切れの商品が陳列することは無い。

だがしかし、生ものは時折賞味期限切れの商品が陳列されたままになってしまうことが稀にある。

それでも稀である。それほど入れ替わりが早いため滅多に起こらないしチェックも厳しい。


この後どんなことが起きるか想像できると思うが、

今日も皇帝はセカセカとご来店なさった。


閉店前に前出し作業をしているときに、

「ちょっといい? これさ、賞味期限切れてるんだけど」

皇帝のお眼鏡にかかったその納豆は1日賞味期限が切れていた。


大変申し訳ございませんでした。と商品を受け取ろうとすると、

「これさ、捨てるんでしょ?だったら貰うからさ頂戴 ダメなら安く買うからさ!」

とこれまた非常に痛いところを突いて来た。

気持ちはわかる。納豆なんて別に数日過ぎても大したことは無い。

私もそんなのがまかり通るならただで貰いたいぐらいだ。

でもさすがに賞味期限切れ商品を売るわけにもいかず、

「すみませんこれはちょっと販売できないです 大変申し訳ございません。」

と言ってもなかなか引き下がってくれない。


困り果てた私はちょうど遅番で残っていた店長に相談。


インカムにて、

「店長お客様対応願います」

「皇帝のご来店か?」

「皇帝がお呼びです」

「…分かった…対応する」

そうしてバックヤードからやってきた店長が対応を始める。

私も皇帝の気を静めるための術を学ぼうと耳を澄ました。




「お客様 大変申し訳ございません。 本製品は確かに賞味期限が切れております。

それに気が付かず陳列してしまい申し訳ありませんでした。」

「いいよ それは気にしないからそれ安くして売ってよ! どうせ廃棄するんでしょ?

店もお金に変わるから得だよ?」

「そうは申しましても、万が一という事がございます。

そうなったときの責任の所在を当店に向けられた時何もできず大変辛いのです。

全面的に当店の落ち度ではございますが、わかった以上こちらは販売することができません。」


なるほど、普段ボーっとしている店長だがなかなかうまい手段を使う。

とてもいい勉強になった。


こうしてこの日は諦めてお帰りになった皇帝。

そして次の日も皇帝は来店なさった。


相変わらず皇帝は見切りができそうな商品を探し続けて

相変わらずバイトを困らせているが、

この店の品質は陰ながら皇帝によって守られているのかもしれない。





エピローグ


高校~専門学校に通っている間、4年間アルバイトをしてお世話になったあのスーパーは、

卒業して数年後に閉店して別のお店になってしまった。


山から降りる冷たい風は私の息を白く染める。

寒いから今日は鍋にしようと、スーパーBに立ち寄った。

そこで品出しをしている女性を見かけた。

なんとその女性は見切りの魔女だったのだ!

名前もしらない人だけと、スーパーでアルバイトしていた頃の記憶が蘇る。

きっと彼女は私の顔も名前も覚えていないだろう。

今度は私が客になる立場だが、私はあだ名がつけられないように立ち振る舞いたい。


それでもあの山は次の季節の風を先取りして町に降ろす





あとがき


この小説だけでは紹介しきれないほど、

スーパーでアルバイトして体験した面白エピソード等はたっぷりあります。

ですが、この手の話は中だるみしてしまうので、

厳選したエピソードを4話に絞って紹介させていただきました。


スーパーでのアルバイトは同級生の友人と一緒に始めたアルバイトだったのですが、

もうほんと楽しい思い出ばかりで、学生時代に経験できてよかったなと心から思っています。

ゆえにそのスーパーが閉店してしまうと知った時は本当にショックでした。

スーパーの名前も従業員も全て変わってしまいましたが、

メインで買い物をしているスーパーはその新しくなったスーパーです。

今でも買い物しているときに、あ~こういうことやったなぁなんて時々記憶が蘇る日もあったりして、

自分にとってとても貴重な期間だったのだろうとしみじみ思います。


もしアルバイト探しで迷っていたり、パート探しで迷っているような方がいれば、

スーパーで働くというのもとてもアリな選択肢だと思います。


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