第三客 -単発客との舞踏会
第三客 -単発客との舞踏会
皆さんが一番足を運ぶお店ってどこだろう?
手に汗と札束を握り興奮と非現実を楽しむ遊技場だと言う人もいれば、
一日の疲れやストレスを黄金に輝く飲み物と一緒に飲み干す憩いの場という人もいるだろう。
仕事の行き帰りに弁当や缶コーヒーやたばこを買うコンビニだという人も多いと思う。
だが、割合で見ればスーパーが最も多いのではないかと個人的に思う。
一番利用する割合が多いのだから、それはそれは大変ユニークな人が沢山訪れる。
今回はそんな実際に訪れたユニークなお客様達を何例か紹介しよう。
スターの知人
「マイケルジャクソン亡くなっちゃったね」 といきなり話し掛けられる私は全く世代ではないので困る。
「びっくりでしたね…あんな有名人が亡くなると、
何だか世の中に存在する色が一色消えたみたいに感じますよね。」
と当たり障りない回答をしたつもりだ。
実は昔、彼の仕事を手伝った事があるんだ。と とんでもないことを言い始めた。
そしてなにより「あのスター 錦野旦と友達なんだぜ!」
名前は知っているがこれまた世代ではないので、
スター錦野が何して有名になったとか全く知らなかったので反応に困った。
というよりめんどくさいので早くこの場から逃げたかったので、
インカムで呼ばれたフリをしてその場をさっと離れた。
そんな人物がこんな田舎町でのスーパーで何していたんだか知らないし、
その話が嘘か本当かどうでもいいが、ユニークだった客リストに確実に加えられた。
これなに星人
「すみません、このサッパってどんな魚なんですか?」
原産地はどこだだの、加工してるのはどこだだの、どこかの国じゃない物が欲しいだの、
その手の情報を聞いてくるお客さんは案外いた。
そんな時は一緒にパッケージを調べたりして、お隣の国ですね。等回答してあげた。
サッパというのはサビキしてればよく釣れるイワシに似たような魚 だと思っているが、
当時高校生だった私はそんなことは知らなかった。
お客様 すみませんちょっとわからないので聞いてきてもいいですか? と聞きたいとこだが、
お前店員なのに得体の知れない物を売ってるのかよ!
とか言われるかもしれないと思い、少し戸惑っていたところ…
「あ、あと、このトラウトサーモンってどんな魚なんですか?」
知るか! おさかな博士にでも聞いてくれよ!って言いたかったが、
さすがにわからないので、元々水産コーナー上がりの副店長を呼ぶことにした。
「あ、あとね、このオーシャンクックってなに? これも教えて!」
「すみません 今確認しますので少々お待ちください。」 とバックヤードに下がった私は、
ふくてんちょー助けてください! と駆け足で副店長の元に向かった。
売り場の端でやり取りを見届けた。副店長がなんて回答したかは聞こえなかったので、
文字通り見届けたのだ。
いやしかしこの時思ったのが、スーパーに食べれないもの売るわけないんだから、
なんだかわからなくて不安ならなら食べるなよ…
そう思っていた。
対応が終わった副店長は、「なんだかわからないなら食べるなととボソッと呟いてた」
なにこれ星人は後にも先にもこの一度きりしか見ていない。
サッパやトラウトサーモンやオーシャンクックはどうしたって?
彼はどれも買わずに帰っていったよ。
一晩大富豪
「ねえ ちょっといい?」
傲慢な態度で話かけてきたアロハシャツを着た中年男性。強烈なタバコの臭いがした。
接客業をしているとお客様ははっきりと分かれる。
敬語で話してくる客と、敬語は使わないが悪い感じがしない客と、
この男のように上から目線でしか物を言わない客だ。
はい なんでしょうか? と対応する。
「この店で一番高い肉と刺身をくれ」
こんな態度に少しイラっとしながらも、まじで一番高い商品を選んでやろうと一生懸命探した。
うちのスーパーは国産ブランド肉とかを取り扱うのは大型連休などの時だけだ。
なぜかというと普段そんなの店に出しても買っていく客なんかいないからだ。
そういう高級な物が欲しければデパートに行ったほうがいい。
肉は和牛の中で一番高いものを、刺身は油たっぷりのマグロを厳選して渡してあげた。
「ん、まあこんなもんか」 と言い残して男はレジに向かった。
普段見かける客ではなかったため、私が推測するに、
遊技場で大儲けしてさぞかし気分がよく、普段は絶対食べないような物を食べたかったのだと思う。
実は時折一番いい肉や刺身はどれですかということを聞かれることがある。
多くは男性だ。
ボーナスが支給されたり、遊技場で大儲けしたりすると、それはそれは大変財布のひもが緩むだろう。
かくいう私もボーナス支給日には高級アイスを買って帰るのだ。
田舎のスーパーは、案外一晩大富豪達の財力が有望な資金源なのかもしれない。
第三客 おわり




