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第二客 カレイなる帰国子女

第二客 カレイなる帰国子女


スーパーでアルバイトをしていると自分の店だけではなく、

他のお店でも製品の棚の位置がなんとなく予想できる。

お菓子コーナーの近くにはこのコーナーがある。

スパイスコーナーの隣には和の調味料コーナーがあると、

なんとなく感覚で予想できてしまうので。

ほかのスーパーに行って探し物をするときに案外簡単に見つけられる。


お客様にはお目当てのものを見つけやすいように、

天井に製品群がわかるポップをつけている店が多いだろう。

だけれどそれでも あれはどこにありますが? これはどこにありますか? と聞かれることは頻繁だ。

特にご婦人から聞かれることが最も多い。

でも急いでいるときや分かりづらい時などは、

遠慮せずに店員にどんどん聞いてもらって構わない。それに答えるのもお仕事ですから。

これから話すカレイなる帰国子女はそんなやり取りの一部始終である


7月 容赦なく注がれる太陽光に照らされて、どこもかしこも暑い。

そんな午後、私は製品補充 通称品出しをしていた。

「ソーリー あの ソーリー」

後ろの主婦が駄洒落を言いながら話している そうとしか思えなかったが、

「あの すみませんちょっといいかしら」

は、私に言っていたのか! はい なんでしょうかと答える。

「あのね 私 普段は海外に住んでいてね、たまたま日本に帰ってきたんだけど」

違和感のない日本語で喋りかけるこのご婦人は、なんと帰国子女だという。その説明必要か?

「それにしてもあれね、日本てやっぱり味噌とか醤油のにおいがするわね」

実は30分ほど前に後輩が、瓶入りの醤油を隣の列で品出し中に落っことして盛大に割ってしまったのだ。

これホントの話。瓶入りの醤油って高いよね。

そんなことを言って久しぶりの帰国を邪魔してはならないと、その話はしなかった。

ちなみに私も海外旅行の経験はあるが、味噌や醤油のにおいは全く感じなかった。

「それにしても日本の7月は暑いわねぇ」

よほど帰国がうれしいのか、こんな田舎町のアルバイト相手によく話すご婦人だ。

「ところで商品を探しているんだけど、ん~~なんだっけかなぁ?」

ご婦人はきっと帰国ボケでうっかり買いたいものをど忘れしてしまったのだろう。

「ん~なんだったっけかな こっちの言葉でなんて言うんだっけかなぁ」

え、ご婦人そっちですか? 和名が出ないのですか?

海外暮らしをするとそうなるのだろうか… 果たして向こうの名前で言われてわかるだろうか…

「あ!思い出した あれ探してるのよ あれ」

「たしかカリーだったかしら カリーってわかる?どこにあるかしら」

お客様 “カレー”お隣の棚にありますのでご案内いたしますと、

私は速足で案内し、とっととバックヤードに帰った。



すっかり灰色の空の季節がやってきた。

このお店はとにかく倉庫環境が悪い。

荷受けするエリアは車庫のようになっていて、エアコンが無いため夏場は猛烈に暑い。

商品が入っているカゴ車は体温より全然熱い。

そして冬場はオリーブオイルに白い油が沈殿してしまうほど冷える。

中倉庫もまともな温度環境下に無いため、特に冬場の寒さは非常に堪える。

他のスーパーのバックヤードも同じような感じなのだろうか…


1週間ほど前に棚の大規模レイアウト変更が入った。

我々も品出しの際しばらくの間非常に困った。

お客様もレイアウトに慣れず、この一週間で通常のひと月分ほど商品を尋ねられ、

お客様と一緒に商品をさがした。


そんな冬のとある日

「ソーリー あの ソーリー」

おい嘘だろ 忘れもしません カレイなる帰国子女だ。はいなんでしょうかと答えた。

「あのね 私 普段は海外に住んでいてね、たまたま日本に帰ってきたんだけど」

全く同じセリフを半年ほど前にも聞いた。

「それにしてもあれね、日本てやっぱり味噌とか醤油のにおいがするわね」

いや、今日は醤油も味噌も落としていませんが… と心の中でつぶやいた。

「それにしてもあれね 日本の冬は冷えるわね」

ご婦人 貴殿は一体どの国から帰ってきたのですか…

「ところで商品を探しているんだけど、あれ?なんだっけかなぁ?」

今度こそご婦人はきっと帰国ボケでうっかり買いたいものをど忘れしてしまったのだろう。

「ん~なんだったっけかな こっちの言葉でなんて言うんだっけかなぁ」

またですか婦人 和名が出ないのですか? 変なの要求されてもすぐに案内できないですよ。

なんてったって レイアウト変わったばかりでお菓子コーナー以外ほぼ把握できていないのですから。

「あ!思い出した あれ探してるのよ あれ」

「たしかカリーだったかしら カリーってわかる?どこにあるかしら」

おい嘘だろ デジャヴか デジャヴなのか? この日のために私は夢を見ていたのか?

またカリーですか。 そんなことありますか???

あなたは間違いない カレイなる帰国子女だ。 めんdks…


カレイなる帰国子女の帰国子女設定が嘘か真はわからなかったが、

事実でない場合、とんでもないマウントの取り方だ。

この小説を書いていて思ったのだが、もしかしたら銀〇カリーを探していたのかもしれない。

しかし万国共通と思っていたカリーだが、

後日ガラケーで調べた所、カリーは万国共通の言葉ではなかった。

もしかしたらカレイなる帰国子女は本当に普段日本には住んでいないのかもしれないと、

休憩中にカレー味のヌードルを食べながらカレイなる帰国子女のことをふと思い出した。


第二客 おわり

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