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第一客 見切りの魔女

関東郊外の片田舎、黄昏の空の下にある小さなスーパーマーケット。

午後五時の「見切り作業」が始まる頃、売り場には個性的すぎる客人たちが現れる。


作者である私 シグが 学生時代にスーパーでアルバイトをしていた時に、

実際にいたお客様との接客エピソードを小説にした処女作品となります。

全4話の短編作品となります

プロローグ

関東郊外のこの町 Mタウンは 西側の山から春は暖かい風 冬は冷たい風が降りてくる。

そんな田舎町の真ん中にある とあるスーパーマーケット 私はそこでアルバイトをしていた。

そのスーパーマーケットには時折ユニークなお客が訪れる。

そんな名前も知らないユニークなお客と私の戯れをいくつか紹介したい。


第一客 見切りの魔女


今日はこの後、雨脚が強まるので早めに見切りしてください。

それじゃ今日もよろしくお願い致します。


夕礼を聞いておおよその今日の予定を立てた私は、さっそく売り場の状況を把握しにいった。

朝やるから朝礼 昼やるから昼礼 夕方やるから夕礼だ 普通の風景だ。

おっと見切りというのを解説するのを忘れたしまった。

見切りとは普段使わない用語だが、うちのスーパーでは値下げの事を指す。

お総菜などはロス…いかんいかん いきなり専門用語が連発してしまっている。

つまり廃棄する量を抑えるために、値下げして売りきってしまおうという作戦だ。

原価率などはアルバイトが知るわけがなく、元々の値段設定に見切りマージンを持たせているのか、

そんなこと想定していないかはどうでもいいのである。とにかく売り切るんだ。

見切り作業は全国のスーパーでもほぼ100%行われている物だろうと思う。

呼び名はスーパーによって違うと思うが、おそらく見切りという言葉はポピュラーだと思う。


そして売り場に出た私は現在の見切り率や残商品を確認して、

あと5分後に見切りレベルを上げることにした。

この判断は慣れてきたアルバイトは独自のタイミングで行う。コツはない、勘である。

5分後、20%引きから30%引きのシールを貼り始めた。


「すみませんこれもおねがいします」

とお客さんは手に持つかごの中から商品出してシールを要求してきた。

なんとも図々しい行為だが、それだけ世の主婦は必死なのだ。

まあ断ると面倒なので30%OFFシールを貼る。


そして30分後、雨脚がさらに強まり客の数が一気に減った気がする。

そのすきを見計らって通常最終見切りの 50%OFFシールをそそくさと貼り始めた。

あれだけ閑古鳥状態だった売り場の周りに、

一体どこから湧いて出たのかわからないほど私は客に囲まれていた。


ああ、道路に落ちた砂糖になった気分だ あなたたちはあれだね 蟻 なんでもあり


この半額シールの効果はすごい。

さっきまで見向きもしなかった主婦が一目散に手を伸ばしてくるんだもの。

お前はえらいよ 人気者だ この売り場のチャンピオンと言っても良い。


そうして群がる人をのけながら半額シールを貼り終えバックヤードに戻ろうとした。 そのとき

「すみませんこちらもおねがいします」

聞き覚えのある声 もう何度聞いたかわからない 見切りの魔女だ!

自らのかごから取り出したお惣菜を 30%OFFから50%OFFに変えろというのだ。

いいかげんになさってください はやくお帰りなさってください。 と言いたい気持ちが込み上げるも、

トラブルになったら損するのは自分なので黙って貼る。


見切りの魔女に関して、私が調査している限りお店に1時間~2時間ほど平均的に滞在する。

小学校低学年ぐらいのお子さんも2人いるのも知っている。来店頻度はかなり高い。

ド平日の夜に2時間もこんなところで何しているんだ と説教したい所だが、

家庭の事情に首を突っ込むことは何があってもしてはいけない そんなことはわかっていたので、

心の中の魔女には何度も説教をしている。


ある日、予告もなく店長の方針が変わった。


最近かごに見切り商品を入れたまま店内をうろついて半額になるまで待つ客が激増した。

だから今日からそういう客には見切らないで断って。

そうなのだ、あの見切りの魔女の真似をしてか、それとも悪知恵かは知らないが、

最近半額になるとゴソゴソとかごから商品を出してきて半額シールを貼れという客が増えた。

まだかごに入れている20%OFFのから揚げと売り場の半額シールのから揚げを交換していく客なんか

大変マナーが良い方だ。


店長方針だ 仕方ない 今日から私も心を鬼にしてばっさばっさと切り捨てよう。

そうして その商品は値下げできません! と断るごとにムッとする主婦達の顔が頭に記憶に残るが、

お風呂で汗を流すころにはそんなのも全部流されてしまっている。 ドンマイ


しかし見切りの魔女は一筋縄ではいかなかった…




このルールが定着してくるとお客さんの行動は二つ

手持ちの20%商品と半額商品を入れ替える客がとても増えた。

そしてもう一つはそこらへんに置いてある半額シールを剥がして自分のと付け替えるという

犯罪まがいなことをする輩も出てきた。


そんなある日

「すみません こちらも良いでしょうか」

と女の子の子供が半額要求してきた。

さすがに断ることができなかった私は半額対応をした。


そして別の日

丸刈りの男の子が「これもお願いします」 とから揚げを持ってきた

それも半額にした。


また別の日

なんと今度は二人一緒になり半額要求してきた これは偶然ではない。

さすがの私も ごめんね!これには貼れないんだ といって子供たちを追い返した。

すると鋭い視線を感じた 見切りの魔女だ。

魔女め 自分の子供を利用して半額を要求してきやがった。

途中で説明したと思うが、魔女には二人の子供がいる。


そして魔女がこちらに歩いてきて、

「ちょっと! 子供が要求しているじゃない!」と堂々と見切りを要求してきた。

さすがに面を食らった私だが、そそくさとバックヤードに逃げて副店長に報告をした。


その後どのようなことが起こったかは知らないが、

見切りの魔女はそういう派手な行為はしなくなり、

見切り作業に安泰が訪れた。

しかし相変わらず魔女の滞在時間は長かった。


第一客 おわり



初回作品のため 第2話_7/17 第3話_7/19 第4話_7/20 それぞれ 19時に短期投稿いたします。

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