第6話:それぞれの明日へ -1
D級冒険者として、数々のドタバタな依頼をこなしてきた「そよ風の旅団」は、ギルドの中でもすっかりお馴染みの顔になっていた。彼らは、王都に戻るたび、受付のセリアに温かく迎えられ、ギルドの掲示板に自分たちの活躍が記録されていくのを見て、ささやかな喜びを感じていた。
「いやぁ、ジン。最近の俺たち、絶好調だよな!」
リアムが胸を叩いて言う。
「うん! たくさんの人と会って、いろんなことを知れたね!」
ジンが笑顔で頷く。
「そうね。D級になってからは、少し難しい依頼も増えたけれど、私たちなら乗り越えられるって自信もついたわ」
ルナが、いつもの冷静さの中に、確かな成長を感じさせる口調で言った。
そんな彼らに、再びギルドマスター・セルから声がかかった。彼はギルドマスター室で、いつもの飄々とした笑顔でパーティを待っていた。
「そよ風の旅団、よく来た。君たちに、次のランクへの昇級審査を兼ねた、特別な依頼がある」
セルの言葉に、三人の顔は一瞬で引き締まった。
今回の依頼は、「ギルドの遠隔拠点への重要物資の緊急輸送」。
一見すると単純な運び屋の依頼だが、セルは意味深に付け加えた。
「なに、道中は少しばかり……賑やかになるかもしれないが、君たちの成長を見込む依頼だ。存分に、そよ風の旅団らしい活躍を見せてくれ」
「よーし、任せとけ! C級昇格、必ず掴んでやるぜ!」
リアムは気合を入れ、ルナは真剣な表情で資料を読み込み、ジンはニコニコと荷台の準備を始めた。
パーティは、通常とは異なる堅牢な馬車に、ギルドが用意した「重要物資」を積み込んだ。
それは、見たこともない奇妙な形状の木箱や、不自然に膨らんだ革袋、触るとプルプル震えるガラス瓶など、怪しげな物ばかりだった。
旅は、やはり一筋縄ではいかなかった。
「うわぁ! リアム! この道、急に曲がりくねってるよ!」
馬車が激しく揺れ、リアムが手綱を引く度に、荷台の木箱からピキピキと奇妙な音がする。
「くそっ、なんだこの道は! 地図にこんな急カーブはなかったぞ!?」
ルナが焦って地図を確認するが、その地図も突然、謎のインクで文字が滲んで読めなくなってしまった。
森を抜けると、今度は突然、目の前に巨大な泡の壁が現れた。
キラキラと輝く泡は、触れると弾け、甘い香りが周囲に満ちる。
「きゃっ! な、なにこれ!?」
ルナが驚き、杖を構える。泡は無害だが、馬車道を完全に塞いでいる。
「この泡、触ると溶けるみたいだよ! でも、全然なくならない!」
ジンが泡に触れてみるが、触れるたびに小さな泡が次々と生まれる。
リアムは力ずくで泡を押し通ろうとするが、ずるりと滑って泡まみれになってしまった。
「うわああああ! べったべたじゃねぇか!」
ルナは呆れ顔で、魔法で泡を消そうとするが、泡はまるで生きているかのように、彼女の魔法を避けていく。
さらに進むと、今度は道端に可愛らしいモフモフした魔物が現れた。
彼らは旅団の行く手を阻むようにぴょんぴょん跳ねる。
「え、でも、この子たち、全然攻撃してこないよ?」
ジンが言う通り、魔物たちはパーティを襲うのではなく、ただ楽しそうに跳ねているだけだった。しかし、その数が多すぎて、馬車は一向に進めない。
リアムは「邪魔だ!退け!」と叫ぶが、魔物たちはリアムの足元にまとわりつき、転ばせてしまう。
ルナは「これは……ギルドが仕込んだ『テスト』ね」と気づき、魔物たちが好む植物を魔法で呼び出し、誘導することで道を空けさせた。
ギルドの奥にあるギルドマスター室では、セルとセリアが、ギルドの遠隔監視魔法で旅団の奮闘ぶりを見ていた。
「順調のようですね。リアムさんは相変わらずですが、ルナさんもジンさんも、ずいぶん冷静に対処しています」
セリアが報告する。セルの口元には、満足げな笑みが浮かんでいる。
「フフ、やはり、彼らならやってくれるだろうと思っていたよ」
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