第5話:祭りの準備と隠された宝物
ギルド「世界の翼」の依頼掲示板には、いつもと少し違う、カラフルなポスターが貼られていた。そこには、笑顔で踊る村人たちのイラストと、「豊穣祭り、助っ人求む!」の文字。
「おっ、祭りか!楽しそうだな!」
リアムが目を輝かせた。
「ええ、王都郊外の、小さな村からの依頼ね。祭り準備の手伝いか……たまには、こういうのもいいかもしれないわ」
ルナも、魔術書から顔を上げて興味を示した。
「わぁ、お祭りだ!みんなで頑張ろうね!」
ジンが嬉しそうに依頼書を受け取る。
依頼主は、村の娘、アミナ。明るく元気な女の子で、パーティを見るなり、満面の笑みで駆け寄ってきた。
「あ!冒険者さんたち!来てくれたんですね!もうすぐ豊穣祭りなのに、準備が全然終わらなくて、みんな困ってるんです!」
彼女の言葉通り、依頼内容は多岐にわたった。祭りの飾り付け、料理の手伝い、忘れ去られた祭具の探索……。
「よーし、任せとけ!力仕事は俺に任せろ!」
リアムは張り切って、重い祭り用の提灯を軽々と持ち上げた。しかし、勢い余って提灯を天井にぶつけたり、飾り付けの縄を絡ませてしまったりと、相変わらずドタバタが続く。
「リアム、落ち着いて! その提灯は、魔法で浮かせばもっと楽に設置できるわ」
ルナはため息をつきながら、魔法で飾り付けを手伝う。彼女の魔法は、飾りを宙に浮かべ、繊細な照明を施すなど、祭り準備に大いに貢献した。
ジンは、村人たちの輪に入り込み、手先が器用なのを活かして、細かい飾り作りや、子供たちの相手をしていた。村人たちは、たちまちジンの笑顔に惹きつけられ、村には明るい笑い声が響いた。
「いやぁ、助かるわぁ。こんなに手際よく、しかも楽しそうに手伝ってくれるなんて、本当に感謝だねぇ」
村の長老、シャフィーク爺さんが、ひげを撫でながら、満足そうに目を細めた。彼は穏やかな表情をしているが、どこか遠い昔を見つめているような瞳をしている。
「お爺ちゃん、なにか昔の話をしてくれない?」
ジンがシャフィーク爺さんの隣に座り、キラキラした目で尋ねた。
シャフィーク爺さんは、ニコニコと頷いた。
「そうじゃのう……。そういえば、この村には古くから伝わる『隠された宝物』があるって話じゃったなぁ……」
爺さんの言葉に、リアムの目が輝いた。
「宝物!? マジかよ!? どんな宝物なんだ!?」
「リアム、また宝物? どうせまた、ろくでもないものよ」
ルナは呆れたように言うが、内心では少し興味が湧いているようだった。
ジンは目を輝かせながら「宝物だー! 探そう、探そう!」と盛り上がった。
シャフィーク爺さんは、少し物忘れが激しいのか、宝物の詳しい場所は覚えていなかった。
「むむ……どこだったかのう……確か、古い地図に描かれていたような……」
パーティは、シャフィーク爺さんの断片的な記憶と、村の古地図を頼りに宝物探しを開始した。
村のあちこちを掘り返したり、古い倉庫を探したりと、ドタバタしながら捜索を続ける。リアムは力任せに壁を叩き、ルナは魔法で隠し場所を探知しようとし、ジンは村人に話を聞いて回る。
リアムが、埃っぽい古い倉庫の隅で、崩れかけた壁の裏から、小さな木箱を発見した。
「見つけたぞー! これかっ!?」
ルナがその木箱を調べると、表面には古めかしい紋様が刻まれている。鍵がかかっていないその箱を開けると、中には金銀財宝の類は一切入っていなかった。
「なんだ、宝物じゃねぇのかよ……」
リアムはがっくりと肩を落とした。
中には、古びた祭具と、村の歴史を記した色あせた巻物、そして、村の繁栄を願う人々の想いが込められた小さな石が収められていた。
ルナが巻物を読み解くと、それは村の開拓から豊穣祭りの由来、そして代々の村人たちの願いが記された、村の歴史そのものだった。
小さな石は、村人たちの希望や感謝の気持ちを集めてきた、祭りの核となる「願いの石」と呼ばれるものだった。
「そうじゃった! この宝は、村の歴史そのものじゃった!」
シャフィーク爺さんも、全てを思い出したかのように満面の笑みを浮かべた。
アミナもその宝物を見て、「わぁ、村の歴史がこんなところに……!」と感動の声を上げる。
ギルドの掲示板には、村の豊穣祭りのポスターが誇らしげに貼られている。
セリアは、パーティが村の祭り準備を手伝っている様子を想像し、報告書に目を通しながら、温かい笑顔で彼らの成長を見守っていた。
「きっと、村の皆さんも喜んでいるでしょうね。宝物の価値は、金額だけでは測れませんから」
豊穣祭りは大成功に終わった。村中が飾り付けられ、美味しい料理の匂いが立ち込め、村人たちは歌い踊った。
パーティも祭りに参加し、村人たちから感謝の言葉を浴びた。
リアムは子供たちに担がれ、ルナは村の女性たちと語らい、ジンは踊りの輪に加わっていた。
ギルドに戻ったパーティは、セリアに祭りの報告をした。
「宝物は金じゃなかったけど、すげぇ良いものだったぜ!」
リアムが力説し、ルナが村の歴史と絆の重要性について補足する。ジンはにこやかに、祭りの楽しかった思い出を語った。
セリアは報告書に目を通しながら、温かい笑顔で彼らを労った。
「皆さんの行動が、村の絆を深め、古き歴史を現代に繋いだのですね。素晴らしい功績でした。そよ風の旅団は、本当に人の心の宝物を見つけるのが上手ですね」
リアムは少し照れくさそうに「ま、まあな!俺たちは頼れる冒険者だからな!」と胸を張った。
ルナは「でも、リアムが一番、泥だらけになってたわよ」と皮肉を言ったが、その表情はどこか嬉しそうだ。
パーティは、ささやかな幸せが、何よりも尊い宝物であることを改めて感じていた。彼らの心にも温かい光が灯ったのだった。
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