第2話:畑を荒らすゴブリン? -2
畑の奥から現れたのは、月明かりの下、プルプルと震える小さな塊が数体、ぴょこぴょこと跳ねながら現れたのだ。
彼らは透明に近いゼリー状の体で、中に僅かな核のようなものが見える。透き通った体は月の光を反射し、僅かにキラキラと輝いている。
「……やっぱり、スライムだったか!」
リアムは納得したように声を上げた。そこにいたのは、ごくありふれた、丸っこくて愛らしいスライムの群れだった。
スライムたちは、畑の作物の匂いに誘われたのか、お目当てのトマトやカボチャに吸い付くように群がっていく。ペロペロと音を立てながら、一心不乱に作物を食べているその姿は、まるで食いしん坊の子供のようだ。彼らは、通常であれば無害で、戦闘能力もほとんどない。
「どうやら、ただお腹が空いてただけみたいね」
ルナが冷静に分析する。彼らは畑を荒らすというよりは、ただ食べに来ているだけのように見える。
ジンはスライムたちの様子を見て、目を輝かせた。
「わぁ! なんだか、可愛いね? プルプルしてるー!」
ジンがそう言ってスライムに近づくと、スライムたちはパーティの存在に気づいたのか、一目散にプルプル震えながら森の中へと逃げ出してしまった。
ルナは、スライムたちが逃げた後、畑に残された粘液の痕跡を採取し、魔法で簡易的な解析を行った。
「驚いたわ……このスライムの粘液、無害な上に、私たちが畑で発見した時の甘い香りがさらに強くなっている。この村の土壌、そしてファルークさんが丹精込めて育てた作物が、スライムの体内で特別な変化を引き起こし、より良質な粘液を生み出しているのかもしれない」
ルナは解析結果を見つめ、確信めいた口調で続けた。
「この特殊な粘液は、土壌を豊かにしたり、特定の作物の成長を促進する働きがある可能性が見えるわ。もしかしたら、薬品の素材にもなるかも……うまく使えば、村の新たな特産品になるわね!」
ルナの言葉に、リアムも「スライムが特産品!?」と目を丸くした。
ギルドの受付では、セリアがファルークからの連絡を受けていた。
「はい、ファルークさん。ゴブリンの被害がさらに広がっているように見える、と……。そうですか、それはご心配ですね。ですが、そよ風の旅団は慎重なパーティですので、焦らず、彼らの報告をお待ちください」
セリアは冷静に応対しながらも、遠くの村で繰り広げられているであろうドタバタ劇を想像し、小さく微笑んでいた。冒険者の報告書には、文字にならない苦労が詰まっていることを、彼女はよく知っている。
翌朝、パーティはファルークに、魔物の正体と、粘液の可能性を説明した。
「なんだ、ゴブリンじゃなかったのか……」
ファルークは肩を落とすが、ルナの説明を聞くと、驚きの表情を浮かべた。
「スライムの粘液が、畑を豊かに……!?」
同時に「でも、どうすれば……このままでは、また畑が……」と困り顔だ。
「彼らはただ、お腹が空いていただけのようですよ。それに、彼らの粘液が村の役に立つなら、共存の道を探すべきです」
ジンが優しく語りかける。
パーティは、スライムたちが畑を荒らさずに済むよう、村人と協力して共存の道を探ることにした。
ルナの分析によると、スライムたちはこの村の作物、特にファルークの丹精込めた野菜に強く惹かれていることが判明した。
そして、その野菜を食べることで、彼らの体から特別な粘液が生み出される。
パーティは、村の近くにスライム専用の小さな「餌場」を作り、そこへ村の余剰作物や、スライムが特に好む甘い野菜を定期的に供給することにした。
これにより、スライムたちは村の畑を荒らさずに、村の恵みを享受でき、同時に村はスライムの生み出す特殊な粘液を安定して手に入れることができるようになるのだ。
数日後、スライムたちは新しい餌場で満足そうに果物を食べ、村の畑には来なくなった。
「なんだ、本当に荒らさなくなった!」
ファルークは感動し、
「こんな解決策もあるんですね…!冒険者の皆さん、本当にありがとうございます!」
と目を輝かせた。
村人たちもパーティの優しい解決策に感謝し、豊作を祝う祭りに招待してくれた。パーティは村人たちと打ち解け、共に村の恵みを分かち合った。
ギルドに戻ったパーティは、セリアに顛末を報告した。
「……ということで、ゴブリンじゃなくて、可愛いスライムだったんです!しかも、粘液が畑に役立つって!」
リアムが力説し、ルナがスライムの粘液の効能について詳細を補足する。ジンはにこやかに、スライムたちが新しい餌場で喜んでいる様子を語った。
セリアは報告書に目を通しながら、温かい笑顔で彼らを労った。
「力で解決するだけが冒険者ではありませんからね。素晴らしい判断でした、そよ風の旅団。皆さんの優しさと、ルナさんの分析力が、きっと村人たちの心にも届いたことでしょう」
リアムは少し照れくさそうに
「ま、まあな!俺たちは頼れる冒険者だからな!」
と胸を張った。
ルナは
「誰が一番ドタバタしてたか、ギルド記録に残ってるわよ」
と皮肉を言ったが、その表情はどこか嬉しそうだ。
パーティは、小さな依頼でも得られる達成感と、自分たちの成長を改めて感じていた。優しい解決が、彼らの心にも温かい光を灯したのだった
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