監視映像記録ログ
【監視映像ログ:2025年4月16日(水)/オフィスビル8階 会議室C】
【映像番号:CAM-8C】
【音声記録:なし】
【20:03:12】
作業服姿の男が会議室Cに入室。顔は伏せ気味で確認困難。
企業名のロゴが背中にあるが、定かではない。
男は会議室内を見回し、椅子の配置を整える。中央の席には上等な椅子を。
テーブルには「田所」「宮島」「倉持」「坂口」「浅野」の名札。
五本のペットボトルが並ぶ。そのうち一本に何かを混入。
【20:10:23】
男は退室。会議室は静まり返る。
【20:16:49】
田所(50代男性)が入室。白シャツにノートPCを持参。
時計を見て腕を組む。水には手をつけない。
【20:18:07】
宮島(30代女性)、坂口(40代男性)、倉持(20代男性)が次々入室。
冗談を言い合っている様子。
田所は無言のままPCを開いている。
【20:22:41】
浅野(30代後半男性)が入室。
全員が着席するが、誰も会議の目的を語らず、疑問の表情を見せる。
坂口が水を一口飲み、それに続いて他の者もペットボトルを開ける。
【20:24:11】
田所の表情が歪む。喉を押さえ、立ち上がり、机を倒す。
倉持が立ち上がる。浅野が驚いた表情を見せる。
坂口がむせ返るようにして椅子を蹴る。
カメラに向かって口を開くが、音声はない。
【20:24:37】
作業服の男が再登場。工具箱を携えて入室。
扉をロックし、コードと注射器を取り出す。
倉持が逃げようとするが、男が足払いをかけて転倒。
田所と浅野が拘束される様子。
【20:29:54】
坂口が机の下で痙攣している。
宮島は倒れたまま動かず。
倉持は壁にもたれて泣いている。
男がそれぞれに語りかける様子。
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第二章
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【20:36:12】
男が坂口の前にしゃがみこみ、顔を覗き込む。
口元が動いている。坂口は反応がない。すでに死亡と推定。
【20:37:45】
男が田所に歩み寄る。
田所は激しく首を振る。両腕は椅子の背に縛られている。
男が工具箱からナイフを取り出し、躊躇なく腹部を刺す。
田所の口が大きく開かれるが、音はない。血が椅子の脚を伝う。
【20:40:17】
倉持が脱出を試みるが、男に押さえつけられる。
右手首に注射器を突き刺される。泡を吹いて崩れ落ちる。
【20:43:55】
浅野は頭を抱えてうずくまる。男がその前に立ち、しばらく沈黙。
やがて浅野の肩を軽く叩き、拘束を解く。
浅野は混乱しつつも動けない。
【20:47:31】
男が机の中央にノートを置く。中に写真数枚。
写っているのは、数年前の社内イベント。中心に笑顔の浅野、田所、坂口の姿。
背景には別の人物。目元にモザイク処理。
【20:51:12】
男は宮島のもとへ。
既に動かず。死亡と推定。
男は静かに手を合わせる仕草。
【20:55:03】
部屋全体が血まみれ。男は壁に文字を書く。
指で、「これが裁きだ」と。
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第三章
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【21:02:17】
男がカメラの正面に立つ。
ゆっくりとフードを外す。
映った顔は、過去の社員名簿に存在した者と一致――「村瀬真一(元社員・自死扱い)」
3年前、パワハラとセクハラの訴えを無視された末に精神を病み、失踪。
会社側は「自主退職」と処理していた。
【21:05:44】
村瀬が浅野に向き合う。何かを語る。浅野は涙を流しているように見える。
村瀬はポケットから瓶を取り出す。服毒を示唆。
椅子に座り、深く息を吐き、そのまま倒れる。
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最終章
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【監視映像ログ:翌日/2025年4月17日(木)】
【06:14:55】
清掃員が8階フロアに到着。会議室Cの扉が施錠されていることに気づき、警備員に連絡。
【06:24:02】
警備員が扉を開錠。中に入り、悲鳴。
映像には無数の遺体と血痕、倒れた村瀬の姿。
【06:31:47】
救急隊が駆けつけ、室内の遺体確認を開始。
その際、浅野の身体がわずかに動く。
酸素マスクが装着され、担架で搬送。心拍は微弱ながらも反応あり。
【07:03:29】
室内の映像、記録終了。
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終幕ログ
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この映像記録は、翌週の社内調査委員会により一部が公開された。
村瀬真一の遺体はその後司法解剖に回され、自死と断定された。
事件の真相は映像によってほぼ明らかにされたが、
彼が最後に「なぜ浅野だけを生かしたのか」は、映像からは読み取れなかった。
一説には、彼の中にわずかな迷いがあったのではないかという声もある。
浅野は一命を取り留めた。が、その後、姿を消した。
社内の誰もが彼を見て見ぬふりをしていたあの時と同じように――
今度は、彼が社会から目をそらされた。