表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

監視映像記録ログ

【監視映像ログ:2025年4月16日(水)/オフィスビル8階 会議室C】

【映像番号:CAM-8C】

【音声記録:なし】


【20:03:12】

作業服姿の男が会議室Cに入室。顔は伏せ気味で確認困難。

企業名のロゴが背中にあるが、定かではない。

男は会議室内を見回し、椅子の配置を整える。中央の席には上等な椅子を。

テーブルには「田所」「宮島」「倉持」「坂口」「浅野」の名札。

五本のペットボトルが並ぶ。そのうち一本に何かを混入。


【20:10:23】

男は退室。会議室は静まり返る。


【20:16:49】

田所(50代男性)が入室。白シャツにノートPCを持参。

時計を見て腕を組む。水には手をつけない。


【20:18:07】

宮島(30代女性)、坂口(40代男性)、倉持(20代男性)が次々入室。

冗談を言い合っている様子。

田所は無言のままPCを開いている。


【20:22:41】

浅野(30代後半男性)が入室。

全員が着席するが、誰も会議の目的を語らず、疑問の表情を見せる。

坂口が水を一口飲み、それに続いて他の者もペットボトルを開ける。


【20:24:11】

田所の表情が歪む。喉を押さえ、立ち上がり、机を倒す。

倉持が立ち上がる。浅野が驚いた表情を見せる。

坂口がむせ返るようにして椅子を蹴る。

カメラに向かって口を開くが、音声はない。


【20:24:37】

作業服の男が再登場。工具箱を携えて入室。

扉をロックし、コードと注射器を取り出す。

倉持が逃げようとするが、男が足払いをかけて転倒。

田所と浅野が拘束される様子。


【20:29:54】

坂口が机の下で痙攣している。

宮島は倒れたまま動かず。

倉持は壁にもたれて泣いている。

男がそれぞれに語りかける様子。



第二章



【20:36:12】

男が坂口の前にしゃがみこみ、顔を覗き込む。

口元が動いている。坂口は反応がない。すでに死亡と推定。


【20:37:45】

男が田所に歩み寄る。

田所は激しく首を振る。両腕は椅子の背に縛られている。

男が工具箱からナイフを取り出し、躊躇なく腹部を刺す。

田所の口が大きく開かれるが、音はない。血が椅子の脚を伝う。


【20:40:17】

倉持が脱出を試みるが、男に押さえつけられる。

右手首に注射器を突き刺される。泡を吹いて崩れ落ちる。


【20:43:55】

浅野は頭を抱えてうずくまる。男がその前に立ち、しばらく沈黙。

やがて浅野の肩を軽く叩き、拘束を解く。

浅野は混乱しつつも動けない。


【20:47:31】

男が机の中央にノートを置く。中に写真数枚。

写っているのは、数年前の社内イベント。中心に笑顔の浅野、田所、坂口の姿。

背景には別の人物。目元にモザイク処理。


【20:51:12】

男は宮島のもとへ。

既に動かず。死亡と推定。

男は静かに手を合わせる仕草。


【20:55:03】

部屋全体が血まみれ。男は壁に文字を書く。

指で、「これが裁きだ」と。



第三章



【21:02:17】

男がカメラの正面に立つ。

ゆっくりとフードを外す。

映った顔は、過去の社員名簿に存在した者と一致――「村瀬真一(元社員・自死扱い)」

3年前、パワハラとセクハラの訴えを無視された末に精神を病み、失踪。

会社側は「自主退職」と処理していた。


【21:05:44】

村瀬が浅野に向き合う。何かを語る。浅野は涙を流しているように見える。

村瀬はポケットから瓶を取り出す。服毒を示唆。

椅子に座り、深く息を吐き、そのまま倒れる。



最終章



【監視映像ログ:翌日/2025年4月17日(木)】

【06:14:55】

清掃員が8階フロアに到着。会議室Cの扉が施錠されていることに気づき、警備員に連絡。


【06:24:02】

警備員が扉を開錠。中に入り、悲鳴。

映像には無数の遺体と血痕、倒れた村瀬の姿。


【06:31:47】

救急隊が駆けつけ、室内の遺体確認を開始。

その際、浅野の身体がわずかに動く。

酸素マスクが装着され、担架で搬送。心拍は微弱ながらも反応あり。


【07:03:29】

室内の映像、記録終了。



終幕ログ



この映像記録は、翌週の社内調査委員会により一部が公開された。

村瀬真一の遺体はその後司法解剖に回され、自死と断定された。

事件の真相は映像によってほぼ明らかにされたが、

彼が最後に「なぜ浅野だけを生かしたのか」は、映像からは読み取れなかった。

一説には、彼の中にわずかな迷いがあったのではないかという声もある。


浅野は一命を取り留めた。が、その後、姿を消した。

社内の誰もが彼を見て見ぬふりをしていたあの時と同じように――

今度は、彼が社会から目をそらされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ