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144.驚きのお供

 翌日もまた走り続けていたが荒野の日差しは思いのほか厳しく、ミーヤはとうとうばててしまった。周囲に日陰は見つからず汗だくではあはあ言っているとナウィンがテントを出してくれてようやく一息である。


「ナウィン、ありがとうね。氷もありがとう、これでだいぶ楽になったわ」


「流石に馬と一緒に走り続けるのは無茶だったか。その辺に馬でもいればいいんだけどなあ。とはいえ草原があるわけじゃないから厳しそうだ」


「でもいい風が吹いて来てるからだいぶ良くなったわ。心配かけてごめんなさいね」


「ん? 風なんてまったく吹いていないが? 何言ってるんだミーヤ、やっぱり具合が悪いんじゃないのか?」


「イライザこそおかしなことを言うわね。これ見てよ、私の尻尾の毛がなびいてるじゃないの」


 そう言いながら自分の尻尾を指さしたミーヤは、その先にあるものを見つけ驚いてしまった。確かにイライザの言う通り風なんて吹いていないのかもしれないし、これではミーヤにだけ感じられて当然である。


「あなたったら! ついてきちゃってたの!? 道理で風が心地よいと思ったわ、今果物出してあげるわね」


「あ、妖精さんついてきてたの。ミーヤさまのこと好きなの?」


「まさかこんなところまで来てしまうなんて驚いたわ。森から離れてしまって平気なのかしら」


 ミーヤとチカマが話しかけている相手は風の妖精であるシルフだった。イライザは初めて見る妖精の姿に目を丸くして驚いている。超ベテラン冒険者が見ても珍しい存在と言うことだろう。


「ねえミーヤ? それって本当にあのシルフなのか? 噂で聞いたことはあったけど実物を見る時が来るなんてなあ。ホント相変わらず驚かせてくれるぜ」


「見つけたのはチカマとナウィンなんだけどね。なぜか私に懐いちゃったのよ。一度は危ないところを助けてもらってるし、これからも一緒にいてくれるなら心強くて頼もしい限りよ」


 そう言いながらミーヤはポケットから果物を出して切り分ける。その隣で物欲しそうにしているチカマとナウィンにも同じように分け、イライザたちには干し肉を差し出す。


 そう言えばあの滝から落ちた時にミーヤを飛ばして助けてくれたんだし、もしかして走りながら浮かべてもらえたら道中が楽になるかもしれない。出来るのかどうかはわからないけど一応お願いしてみることにした。


「ねえシルフさん、私のことを浮かせて軽くすることってできるのかしら? そうしたら走るのが随分楽になると思うのよねえ」


 言葉が通じないのでミーヤの願いが通じたのかどうかはわからない。それでも涼しんだこともあり身体は随分と休まったのでそろそろ再出発しようと立ち上がった。


 するとシルフはミーヤの周りをくるくるっと飛び回った後、当然のように背中へと飛び乗ってきた。


「いやあ本当に随分と懐いてるもんだな。妖精も分類は動物だし、もしかしたら調教できるんじゃねえのか?」


「そんなことできるのかしら。でも例えできたとしても妖精の自由を奪うようなことしたらバチが当たりそうよ」


「そんなのどんな動物でも魔物でも同じことだろ。結局はそいつらの自由を奪うことにはなるんだからな」


 言われてみればイライザの言う通りではある。ミーヤは過去にペットを飼ったことはなかったが、子供の頃には家で犬を飼っていたことを思い出した。だいたい愛玩動物なんて人間のエゴを表している最たる言葉もあるじゃないか。


「確かに正論だけどやっぱり気分の問題かな。まったく人ってわがままよね。だから今回は止めておくわ」


「ま、好きにしたらいいんじゃない? 使役していれば風精霊術が使い放題らしいのはもったいないけどね」


「私、シルフのこと調教してみるわ!」


 レナージュの言葉でいっぺんに心変わりしたミーヤは、ダメ元でもいいから調教を試してみようと思い立った。もしシルフの能力を自由に使えるようになればあの時のように空を飛ぶこともできるだろう。


「さ、こっちへいらっしゃい。一緒に旅をしましょうね。大丈夫よ、怖くないから仲良くしましょ?」


 丁寧に優しく声をかけた後、狙い澄ましたように笛を吹くとあっけなくテイムすることが出来た。あまりのあっけなさに拍子抜けしてしまったくらいだ。


「やっぱり出来たじゃねえか。調教しなくても懐いてるくらいだから出来て当然と思ったよ」


「やってみるものね、これで本当に風精霊術が使い放題なら嬉しいわ。手始めに飛んでみようかしらね」


 普通は手のひらに風を起こすだけであまり使い道のない風の精霊晶だが、身体全体をを包むことが出来るくらい出せればきっと体を浮かせることもできるだろう。確かあの時は足元に浮き上がる風がくっついたイメージだった。


 さっそくシルフを呼び寄せてから両手で包み込みイメージを膨らませてみると、足元に渦を巻く風の流れが出来ていくことが感じられる。そのまま体を浮かせるくらいに強めてから後ろへ向かって風を送り込むと、浮き上がった体が進み始めたではないか。


「すごい! 私ったらちゃんと空を飛んでるわ! これなら走らずに済んで楽が出来そうね!」


「いや、だけどよ…… いくらなんでもそれは厳しくないか?」


 イライザの指摘はもっともで、確かに宙を浮いて進むことが出来てはいるのだがその速度はかなり遅く、歩いているのとほぼ同じくらいの速度しか出ていなかった。これではジョイポンへいつたどり着くかわからない。


「どうやらチカマみたいに自由自在とはいかないわね。それなら体を浮かせるだけにして、進むのは自分の足にすればいいかしら」


 名前を出されて褒められたつもりなのか誇らしげなチカマを眺めながら、今度は足元ではなくお腹の辺りに風を貯めるようなイメージを持ってみた。すると段々と体が軽くなったのでそのまま歩いてみる。


「うんうん、これならいけそうよ。足に重さを感じないから、きっとこれなら疲れ知らずね」


「なんだか便利そうでいいわねえ。私も手のひら以外から風を出せたらいいのに」


「やっぱりレナージュも手のひら以外からは出せないのね。私が下手なだけかもって思ってたけどそんなこと無いみたいで安心したわ」


 そんな話をしながら休憩を終え再び走り始めた一行は順調に旅路を進めて行く。シルフの助けは思ってたよりも大きな効果が有り、予定よりも少し早目にジョイポンの外周付近までたどり着くことが出来た。


「思ったより楽についたわね。もし道に迷ったらどうしようと考えてたけど杞憂(きゆう)だったわ」


「そうね、まだ時間も早いし宿を取ってから街をぶらっと見てみましょうよ。なにかおいしいものとお酒があれば嬉しいわね」


「だな、のどが渇いてるからまずはエールをきゅっといきたいもんだ。ジョイポンは魚が豊富らしいから変わったつまみもあるはず。これは楽しみだぜ」


 レナージュとイライザの二人が一緒になるということはどうあがいても酒抜きでは済まないわけで、それは時間や場所は関係ない。ミーヤとしては今さらとがめる気はないし、せっかくの観光旅行なんだから精いっぱい楽しみたいものである。


「知り合いの商人に連絡したら宿を手配してくれるみたい。私はまずその人のところへ顔を出しに行くわ。チカマと二人で行ってくるからどこか目印になりそうな場所で待っていてくれる?」


「それじゃあそこにある屋台で待ってるわ。随分人が並んでるからきっとなにかおいしいものよ」


「わかったわ、それじゃ行ってくるわね」


 規模は小さいが、ジスコと同様に野外食堂的な屋台街がある様子だ。そして否が応でも目につく行列には心当たりのあるミーヤだった。


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